第48話 ま、いっか♪
前回のあらすじ……前回を見てくれ。
悪いがこっちはそれどころじゃない。お姉系の美少女がすんごい怖い顔で包丁握り締めて俺を睨んでるんだよ。何する気かな?キルする気かな?
「そうか……」
「あの、玉希ちゃん?そうかって何が?」
「化け猫の真はあんたか……」
いいえ、違います!!化け猫の真はおじいさんです!!俺はあそこまで悪人じゃないよ!!ていうか、君は本当何しに来たの!?そんなayakashi見た事ない人には分からないボケしないでよ……
「あの……玉希ちゃん?その、包丁は何?何をしに来たのかな?」
「作りにきたんです……料理をね……」
へえ……そうなんだ……で、何で薬売りさんみたいな喋り方?料理って何を料理しに来たの?物の怪?化け猫?先輩?
「しかし、条件がそろわなければ退魔の包丁は抜けません……」
うんっと……気のせいかな?もう抜けなくてもいいのに抜けてる気がするんだけど……ギンギラギンの刃がむき出しのような気がするんだけど……
「条件ってなに?形と真と理?」
「妻と夫と浮気相手です」
すこぶるやべええぇぇ!!物の怪でも化け猫でもねえ!!こいつ間違いなく俺のことを料理しに来たよ!!
「あの、玉希ちゃん……落ち着いて……」
「うふふ……」
あれ?笑った?ああ、そうか……ただの冗談か……そうだよな。玉希ちゃんは先輩と違って大人だからこのぐらいじゃ怒んないんだ。ホッとした反面ちょっと寂しいような気もするけど、やっぱり良かっ……
「良平君、死ぬのって恐い?」
きゃああぁぁ!!何か色んな意味で危ないこと言い出したよ、この子!!それはやめて!!さっきのネタはまだマニアックで分かりにくかったけど、それはもうプッツンしたあの人の迷台詞だから!!丸出しだから!!
「た、玉希ちゃん?何言ってんの?当たり前だよ、死ぬのは誰だって恐いよ、だから変なこと言うのはやめようね?」
「ふーん、あたしにはそういう有機生命体の死の概念が理解できないの」
だから、お前はどこのヒューマノイド・インターフェイスだよ!!ていうか、お前も有機生命体だろうが!!
「それじゃ、死になさい♪」
いやああぁぁ!!情けも容赦も躊躇もなく包丁が俺に向かってくる!!やばいよ、死ぬよ!!それはいろんな意味でマジで笑えない!!
“ガキイィン”
だが、包丁が俺に突き刺さる寸前で先輩がそれを止めてくれた。しかも素手で。ていうか素手で止めたのに何でそんな効果音?何で一滴も血が出ないの?あなたの体はガンダニウム合金?
「一つ一つのプログラムが甘い……空間閉鎖も情報封鎖も……だからあたしに気づかれ侵入を許す……」
おいいぃぃ!!こっちはこっちで何か言い出したよ!?何で昨日まで「ありがとう」も知らなかった奴がそんな難しい電波な言語を知ってんだよ!!ていうか、侵入ってあんた最初からいたでしょ!!その眼鏡どっからわいてでたんだよ!!何でそんなに合わせられるんだよ!!いつ、打ち合わせしたんだよ!!
「情報結合の連結解除開始……」
ってまだやるの!?いや、それ以前にそんなことできるのかよ!?いや……でも、この子もこう見えて妖怪だから、ああいうSFチックにシュワアアァァって消せるぐらいわけない……
“バキン”
握りつぶしただけじゃねえか!!ちょっと期待して損したよ!!やっぱりあんたは知力0!!腕力255!!握力9999!!の体力バカかよ!!
「ちょっと、玉希ちゃん!!何をそんなに怒ってるのか知らないけど、こんなことしたら危ないでしょ!!」
おお、あの先輩が珍しくまともなことを言ってる……でもね、玉希ちゃんが怒ってる理由の半分は君なんだ……
「ミイナちゃん。あなたはまだ幼いから分かってないようだけど、あたしは良平君の妻(となる予定の女)。それに引き換えあなたはただのペット。ペットよりも妻の方が愛されるのは至極当然のことなのよ」
確かにそうかもな……でもな……なんでお前はもう妻を気取ってるんだ?それは至極不自然だよ?それと自重してるつもりならカッコをはずせ。
「ウソ……そんなのウソよ!!」
いや、先輩……そんなシリアスすぎる昼ドラに出てくる人みたいに言われてもそうなんですよ。ウソじゃないですよ。本当ですよ。ていうかね、女房よりペットがかわいいって言うんだったらその夫婦はもう別れたほうがいいと思う。
「そんな……管理人さん、どうしてそんなひどい事を……は!!」
何かに気づいて自分の体のあるパーツを見つめる先輩。
「はにゃにゃにゃ!?」
自分にはなくて玉希ちゃんにはある物を見つめる先輩……
「そっか……そういうことか……」
リングとか呪怨みたいな顔で俺を見つめる先輩……もう、嫌な予感しかしない……
「あのー……先輩?そういう事ってどういう事?」
「胸ゆえに人は傷つき!!乳ゆえに人は悲しむ!!脂肪細胞ゆえに!!ミ○ルビームゆえに!!」
何かへんな事言ってるよ、この子?何なんだよそれ?バスト神拳の極意?何でミクルビームであいって読むの?無理がない?
「あのー……先輩。物凄く分かりにくいんですけど……」
「じゃあ、聞くけど、管理人さんはそんなことないよね?玉希ちゃんよりミイナのほうが好きだよね?」
うわ……この人はまた聞きにくいことを直球で聞いてきやがるな……
「ねえ、そうだよね?」
「違います。良平君はきっとあたしの方が好きですよ」
これさ……台詞だけ聞いたら凄いうらやましいシチュエーションに見えるかもしれないけどね、先輩は俺の胸倉つかみながら右の拳を握り締めてるし、玉希ちゃんにいたってはすでにトカレフをスタンバってるんだよね。ていうか、先輩!?人をぶっちゃいけませんって俺言ったよね!?玉希ちゃん!?妖術は使わないって自分で言ったよね!?何でどっちも約束守ってくれないの!?
「さあ!!」
「どっち!!」
おーい、何だよこれ!?三角関係どころか魔の三角地帯じゃねえか!!一歩入り込んだら最後、二度と抜け出せないよ!?こんなのどちらか片方を選んだら、即もう片方に殺されるよ!!どっちにしろデッドエンドじゃん!!デッドオアデスじゃん!!ちょっとマジで誰か何とかしてくれ!!このままじゃ死亡フラグ一直線だよ!!助かる見込み0だよ!!
「ふふふ……」
そんな俺に救いの手を差し伸べたのは物理法則を無視して、寝そべるような姿勢で空中に浮かぶ幼い笑い声だった。ていうか、オッシー?この状況の何がおかしいんだ?お兄ちゃんはちっともおかしくないよ?どっちかっていうと恐怖で頭がおかしくなりそうなぐらいだよ?
「ねえ、お兄ちゃん。玉希ちゃんとミイナちゃんって何だか似てるよね?」
そうだな、どちらも俺に好意を抱いてるのに抹殺しようとしているという点では似ているな。いや、待てよ。そうじゃないな。そうか……なるほどね……
「なるほど……確かにオッシーの言うとおり、二人とも良く似てる」
「どこがよ!?」「心外です」
「まあまあ、二人とも落ち着いて」
俺は胸倉をつかむ先輩の手をゆっくりと外すと、玉希ちゃんの方を向き、改めて紹介をした。
「玉希ちゃん。こちらは君の隣……201号室に住んでる藤崎ミイナさん。猫又と言う妖怪だ」
「そのぐらい……」
知っている、と言いたげな顔の玉希ちゃんを手で制して俺は話し続けた。
「先輩はね、もともとは普通の飼い猫だったんだ。それで、飼い主のことが好きでずっと一緒にいたい。同じ人間になりたい。そう思っていたら本当に人間の姿になったんだ。生まれてから僅か10ヶ月でね」
「10ヶ月!?まさか……そんな……」
玉希ちゃんが驚いたのも無理はない。烏丸さんも言っていたが猫が妖怪化するにしては10ヶ月という期間は異常なほど早い。だが問題はそこじゃない。
「先輩はその後……まあ色々あって飼い主に嫌われて、捨てられて、人間が好きなのに嫌われたくないから誰にも心を開かず、ずっとあの部屋で閉じこもっていたんだ」
「……!!」
言葉が出ないのか、どう言っていいのか分からないのか、玉希ちゃんは鳩が豆鉄砲を食らったような顔して立ち尽くした。でも、俺が何を言いたいのかは分かってくれたようだ。さて、お次は先輩の方だ。
「先輩、この人は202号室に住むことになった坂本玉希ちゃん。妖狐族のお姫様ですよ」
「へえ、だから?」
うわぁ……テンションと声のトーンがすんごい低い……でも、この話を聞いても同じ態度が取れるかな?
「玉希ちゃんは、昔お父さんにひどいことを言われて傷ついたことがあるんですそれだけじゃありませんよ。自分は妖狐族のトップだから自分を犠牲にしてみんなのためにって今までずっと苦労してきたんです。けどね、それは自分の本心をごまかすための口上で、本当はただ、みんなに嫌われたくない、好かれたい、って思いからいい子を演じてきただけなんですよ」
「そ、そうなんだ……」
ぼんやりとした表情で見つめあう玉希ちゃんと先輩。二人の顔に敵意なんてものはもうない。あるのは親近感ぐらいなもんだ。それは当然だ。
親に冷たくされて一人ぼっちでいた寂しさや、大好きな飼い主に捨てられて誰とも触れ合えなかった孤独なんて俺には想像もできない。けれど、この二人ならお互いの苦しみや悲しみを理解できるし、分かり合えるはずだ。
「だから、二人とも仲良くしてください」
二人は無言で頷き固い握手を交わした。お互い初めての友達が出来た瞬間だ。
「あの……ミイナちゃん。これからあたしの部屋で引越しの挨拶もかねてお料理を作ろうと思うんだけど……よかったら……その……」
「うん!!ミイナ喜んで行くよ!!だって玉希ちゃんのこと大好きだから!!」
裏も表も計算も何も考えてない、無邪気な先輩のその言葉は玉希ちゃんにとって何物にも代えがたい大切な宝なんだろうな。嬉しそうな玉希ちゃんの顔を見ればすぐに分かるよ。
「ふふ……それじゃ、行きましょう」
「うん!!」
そう言って手をつなぎながら出て行こうとする二人のあとに俺も続いた。
「じゃあ、俺もお呼ばれしちゃおっかな?玉希ちゃんの手料理も食べてみたいしね」
「あら?それはダメですよ」「そうだよ。管理人さんはここでお留守番♪」
「はあ?なんで?」
「だって今日は女だけの神聖な食事会ですから」「そういうことだからごめんね」
「ええ……」
ぽかんとする俺の前に美樹ちゃんがまた幽霊のようにすーっと現れて一枚のメモを手渡した。
あたしも今日はこっちに行くから晩御飯はいらないよ。
男の子は男の子同士仲良くしてね?
何と言うか……娘が合コンに出て行くときの父親のような寂しさがあるな。あるいは彼女に振られたような悲しさかな?まあ、いっか……先輩と玉希ちゃんはきっと仲良くなれるだろう。
でも、全然羨ましくなんかないぞー。だって俺には
「おい、オッシー。晩飯は何がいい?」
「もちろん、オムライス!!」
このかわいいオチビちゃんと、
「二日連続かよ……まあ、お前はそれでいいかもしれんが、問題は……おい、押入れのブシュルワアアァァ。お前は何がいい?ついでに作ってやるよ」
「さすが、ミスター管理人だ。よくぞ、私がここに隠れていると見破ったな」
「うるせえし、しつけえし、よく分かんねえんだよ、お前のボケは。つーか、何がいいんだよ?」
「ああ、俺は酒の肴になりゃなんでもいいぜ」
この素行とがらと頭が悪いバカだけど、不器用ないい奴がいるからな。うん、まいっか♪