第44話 藤崎さんへの報告・2回目
押入れから出てきたブシュ衛門を追っ払った俺は、その後玉希ちゃんと…………いや、別に何も無かったけど!!……あのー……一緒にね……まあ、前回見てるんだから知ってるでしょ!!もう、いいじゃん!!このあらすじとか!!
なんて事を考えながら玉希ちゃんの部屋を後にした俺は、アパートの階段の所に座り、携帯を取り出した。かける相手はそう……あの天真爛漫な27歳だ。
『はい、藤崎ですけど』
「あ、どうも。加茂です」
『おー、少年!!今日はどうした?』
「えっと、ちょっとご報告が…………その前に一ついいですか?その“少年”って呼びかた何とかなりません?俺には一応“加茂良平”って名前があるんで、出来れば……」
『分かった、少年!!!』
あー、ダメだこいつ。名前覚える気ねえわ。まあ、そんな事はどうでもいい。
とにかく俺は、玉希ちゃんと町で偶然知り合い、その後に一悶着して、彼女が徒然荘の住人になった事を説明した。無論、俺が彼女の魅力にメロメロになった事は言うまでもなく言っていない。にも、関わらず……
『なるほど……それはつまり二股だね!?そうだろ、少年?』
「いえ、違います。そうじゃなくて……」
『猫又に二股……ヌハハ!!よし、お姉さんから体を張った親父ギャグをかます少年に3000ポイントだ!!』
ダメだこいつ。俺の話聞く気ねえわ。ていうか、あなたの精神年齢は美樹ちゃんと同じですか?それともあなたのせいで美樹ちゃんがおマセさんになっちゃったのかな?
『う〜ん、それにしてもミイナちゃんとその玉希ちゃんって子の超絶バトルは見たかったな……』
「それなら、龍玉とか北斗とか筋肉男とかあの辺のバトル漫画でも読んでて下さい。それで十分代用できますから」
『そんなに凄かったの!?それはますます生で見たかったな〜』
俺はもう見たくない……
『壊れた屋根の件だけど、それは明日の朝には直っておくように手配してあげるから安心したまえ!!』
「はい、ありがとうござ……明日の朝!?そんな急になおせるんですか、あれ!?」
『不可能を可能にする女、藤崎あかね。人は彼女をデューク・藤崎と呼ぶ』
どこのゴルゴだよ……何だよこのノリ……凄い疲れる……
「あの、ゴルゴ藤崎さん。屋根の修理代は……」
『それはもちろんあたしが出しておくよ。その辺は安心していいよ。お姉さんはこう見えてもお金持ってるからね』
「へえ……藤崎さんってなんの仕事してるんですか?」
『ん〜社長秘書だよ』
え!?てことはまさか……
『お〜い、少年。言っておくけど、君が妄想しているような事はしていないからね?』
「あ、そうなんだ……て、勝手に思春期の恥ずかしい心を読まないで下さい!!」
『ヌハハ!!すまん、すまん。許せ、少年!!』
「てか、秘書の仕事ってあんまりピンと来ないんですけど、どんな事するんですか?やっぱり、テレビドラマとかみたく「社長、3時から会議です」って、移動しながらスケジュールを言ったり……」
『は、もう一人のオッサン秘書がやってる。その人ベテランだかんね。あたしは主に……つか、ほとんど通訳だね」
通訳?この日本語でも意思の疎通が図りにくい人が!?
『今日だってあっちでペラペラ、こっちでペラペラ、もうお姉さんはクタクタだよ……』
意外だ……この人が愚痴をこぼすなんて……
「あの……良く分かんないけど、きつい仕事なんですね……」
『ヌハハ……そりゃそうさ。君も大人になれば分かると思うけど、この世に楽な仕事なんて無いよ。仕事っていうのはみんなきついものなんだ。でも、辞めたいとは思わないよ』
「え、どうして……?」
『それはね、あたしの子供のからの夢だったからさ』
「通訳がですか?」
『違う、違う。そうじゃなくて……あたしの夢は世界中を飛び回る冒険家だよ!!』
……ん?冒険家=通訳?はい、この公式が分かるものは手を上げろ。
『この仕事はさ、色々な国に行けるんだよ……タダで』
「…………(旅行気分?)」
『だからさ、この仕事に就くために中学に入ってから狂ったように英語を勉強したね。英語は世界共通語だから、それさえ話せたらどこに行っても安心だからね!!』
「へえ……」
凄いな……中学の時からそんな先の事を考えて勉強していたなんて。普通は中学校の勉強なんか所詮高校に受かるための受験勉強ぐらいにしか考えてないないのに……俺なんか中学の英語の時間、友達と机くっつけて麻雀やってた記憶しかねえよ…………何でだから、落ちんだよ……
『言っておくけどあたしがマスターしたのは英語だけじゃないよ?中国語にロシア語。アラビア、スペイン、フランス、オランダ……ありとあらゆる言語をマスターしたのだ!!ヌハハ!!凄いだろ!!』
「へえ……いや、それはマジで凄いっすね。見直しましたよ。俺、正直あんたの事ただの頭がおかしい大人にぐらいしか思ってなかったんで」
『ヌハハハ……少年て時に残酷……』
あ、すいません。つい、本音が……
『でもね……そんなスーパーバイリンガルなあかねちんにも苦手な言語があるのだよ……』
「…………まあ、なんとなく想像はつきますけど、一応聞いときます。それ、何語ですか?」
『日本語……』
やっぱりな……
『今日もね!!社長殿にプンスカされちゃったの!!「お前何言ってんのか全然分かんない!!」って……ねえ、少年君!!あかねちゃんの日本語はそんなハテナクエスチョンかな?』
「そうですね……少年に君づけするあたりもうおかしいと思うし、ぶっちゃけ藤崎さん用の通訳が欲しいぐらいです」
『え〜!!何でそんな事言うの!?お姉さんは超ウルトラスーパーデラックスサンダーショックだぞ?プンスカ、プンスカになっちゃうぞ?』
「………………27歳でその喋り方って自分でもつらくなりませんか?」
“ブツ、ツー、ツー”
おぉっと、どうやら藤崎さんの逆鱗に触れてしまったようだぞ。いきなり電話を切られた。まあ、用件も伝えたし、こっちも限界だったから丁度いいや。
だってさ、「物凄く」でいい所をあんな超ウルトラスーパーなんとかかんとかという意味不明な形容詞を使われてみろ。…………疲れるよ。あんなの、どう返せってんだよ。
しかし、将来の事か……そんなの考えた事もなかったな……もし、藤崎さんが帰国すれば当然ここの管理人は彼女がするんだろう……そしたら俺は……いや、今はそんな事を考えるのはよそう。
せっかくかわいいオチビちゃんズやキュートな先輩、アホの天童に変態の烏丸さん、頑張り屋のクロちゃんにセクシーな玉希ちゃんと知り合えたんだ。今はこの時間を大切にしたい……