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第40話 大人で子供・其の二

 さて、お邪魔虫もいなくなったことだし、玉希ちゃんの質問コーナーを再開しよう。ただし、ここからはおふざけナシのマジで真剣な話だ。これは俺の勘だがこの子もきっと何か問題を抱えてるに違いない。なぜかは分からないけどそんな気がする。しいて理由を挙げるとするなら、何となく先輩や天童に似ているからかな?

 それを確かめるキーワードはおそらく……


「ねえ、玉希ちゃん。もう一度聞くけど、どうしてたまに子供っぽい話し方をするの?」

「……」


 やれやれ、だんまりか……ならこっちで考えるしかないな。なら、まずはこれまで気になった玉希ちゃんの発言について考えてみよう。

 キャバクラで働いていた本当の目的……玉希ちゃんを嘘つきの化け物呼ばわりした人物……本当の玉希ちゃんを知っているもう1人……ここから考えられることは一つしかないな。


「ねえ、玉希ちゃん?君を嘘つきの化け物呼ばわりした人ってもしかして君のお父さんじゃないの?」

「………………うん」


 少し沈黙の後、玉希ちゃんは静かに頷いた。やっぱり、そうだったのか……でも、どうしてそんなひどいことを……一体お父さんとの間に何があったんだ?


「よかったら話してくれない?」

「昔ね……一度だけ父さんに会ったことがあるの。母さんの姿で」

「母さん……?ああ、あの大人の姿か……」

「僕が「あなたとの間に子供が出来たの」って言ったら父さんは笑った。笑いながら「そんなの俺には関係ない。俺には家庭がある。お前とは遊びだったんだ」って……」

「え……」


 玉希ちゃんの目からこぼれた涙がちゃぶ台をぬらした。それでも声を変えず、心も変えず、顔色も変えず彼女は話し続けた。俺は大して気の利いた台詞の一つも言えず、ただ、だまって、悲しい液体でぬれた彼女の声を聞いてやることしか出来なかった。


「母さんから父さんとは愛し合っていたって、信太妻のような関係だったって聞かされていたから……それを信じていたから……ショックだった……」

「……」


 信太妻か……昔、人間の男と恋に落ちた狐の女が子を産み、その子が少し大きくなったら正体を悟られる前に信太の森へ帰ってしまった。だが男は女の正体にとっくに気づいていた。そして突然いなくなってしまった女にこう言った。「お前とは愛し合い子供まで作った仲ではないか!来つ、寝!(戻って一緒に寝よう)」と叫んだ。この「来つ、寝」という言葉から「狐」という言葉が生まれたと言う実にロマンチックな昔話だな。

 だが、玉希ちゃんの場合はそんなにいい男じゃなかったと……きっと、それを知っていた玉希ちゃんのお母さんが彼女につらい現実を教えたくなくて嘘を……妖狐族は良くも悪くも嘘をつく妖怪、か……


「僕はすぐに父さんに正体を明かしたよ。妖狐族のことや僕が子供であることも話した。そして「あなたの家庭を壊す気はありません。だから……お願いだから……一度でいいから抱きしめてください……」てお願いしたんだ」

「それで……お父さんはなんて?」

「バカだよね。ああなることぐらい分かってはいたんだけど……でも、どこか期待してたんだと思う。実の娘ならそのくらいのことはしてもらえるんじゃないかって……」

「玉希ちゃん?」

「僕のこと突き飛ばして「嘘つきの化け物が言うことなんて信用できるか」ってさ。本当僕ってバカだよね……」


 玉希ちゃんの目から一粒、また一粒と涙が零れ落ちる。それは見ていてあまりにつらいものだった。だが、涙を流す玉希ちゃんのほうが遥かにつらいだろう。なら、俺は目を背けず彼女と向き合うしかないな。


「それで玉希ちゃんはキャバクラに働くようになったんだね?」

「え……」

「誰かにお父さんになって欲しくて」

「……!!」

「だから、たまに子供っぽい喋り方をするんじゃないの?女としてじゃなく子供としてみて欲しかったから」

「すごいね、良平君。どうして分かったの?」


 玉希ちゃん、そんなに目を丸くするようなことじゃないよ。俺だってあんな母親を持ったから友達の母ちゃんを見て、うらやましくて、つい間違えた振りして「お母さん」って言っちゃたことあるもん。その後、本物のジェイソンマザーにボコボコにされたけど。

 だから、君の気持ちはほんの少しだけだけど分かるんだ。でもそんな事は言えない。だって君の受けた悲しみに比べたら俺の受けてきた虐待なんて、本当笑い話ぐらいにしかならないからな。


「何となくだよ」

「何となくか……烏丸さんと同じだね」

「え?どういうこと?」


 出来ればあんな変態と一緒にして欲しくないんだが……


「あの人も僕の正体を見破った時にそう言ったんだ。他のお客さんはみんな女を見る目で僕を見ていたけど、あの人は父親のように優しくしてくれた。そして色んなことを教えてくれたんだ」

「へえ……あの人がね……ちょっと意外だな。どんなこと教えてくれたの?」

「うん。教えてくれたっていうか、しかられたって言った方がいいのかもね。「君は少し人に対して優しすぎる。もっと自分を強くもたなきゃいけない」ってね」


 ほう……それはますます意外だ。あのエロ天狗にそんな普通の父親のような台詞が言えたとはね。


「本当会うたびにしかられてたな。「違う!もっとだ!もっと強く!そう!いい!ああ、女王様!!もっとこのいやらしい豚に罰を与えて下さい!!」って。でも難しくていまいち理解できなかったな」


 理解せんでいいわああぁぁ!!それもう完全に違う世界の話じゃねえか!!父親らしさなんて微塵もねえよ!!どこの変態親父だよ!!そんなのいねえよ!!ていうか、なんであいつは子供にろくでもないことしか教えねえんだよ!!


「あのね、玉希ちゃん。烏丸さんに教えてもらったことは全部忘れなさい。消去しなさい。デリートしなさい」

「え?どうして?」

「どうしてもです!!ていうか烏丸さんのことといい、野上さんのことといい、どうして君は変なおじさんの言うことを信じて疑わないの!?」

「だって……それは……」

「あ……そっか……ごめん……」


 そうだった。この子は父親にひどく当たられて、そのせいで誰かに父性を求めていたんだ。お父さんと同じぐらいのおっさんの言うことを真に受けてしまっても仕方ない。むしろ責めるべきはこんなにいい子を騙すような変態と馬鹿だ。あの二人はいずれ天童に始末させよう。まあ、それはさておき……


「玉希ちゃん、君の気持ちは分からなくもないけど、あんまり人の言うことを鵜呑みにしちゃいけないよ。たとえ、その人がお父さんのように見えたとしても、思えたとしても、それがいい人とは限らないんだから」

「そんなこと君に言われるまでもなく分かっているよ。痛いほど十分に……」

「そうだったね……でも、それじゃ、どうして?」

「どうしてそんなに簡単に騙されるの?って聞きたいんだろう?それはね99%ウソだと分かっていても残りの1%が本当だと思うと、本当に困っているんなら助けてあげなきゃって思っちゃうんだ……人を騙す狐の妖怪がこれじゃ笑い話にもならないよ。妖狐族のみんなのためにももっとしっかりしなきゃいけないのに……」

「え……」


 俺はもしかして勘違いをしていたのかもしれない。

 玉希ちゃんの抱えていた問題は何となく想像が出来ていた。それは父親との因縁が原因だと思っていた。でも違う。それは大して問題じゃない。父親にひどく当たられたことは確かにつらい過去だろうが、この子のことだ。きっと、気にしてはいない。なぜなら玉希ちゃんは俺が思っているよりずっと大人だ。

 それでも玉希ちゃんが子供っぽく見えるのは、彼女の育った環境とそしておそらく……いや、間違いなくこの子の弱さが原因だろう。


「ねえ、玉希ちゃん。ちょっと気になっていたんだけど、どうしてそんなに完璧にこだわるの?」

「当然だろ。僕は妖狐族の頂点に立つ女だ。みんなのお手本にならなきゃいけない。歌も踊りもお茶もお花も勉学も運動も何においても完璧でなきゃいけない。誰にもまけちゃいけないんだ」

「どうして?」

「どうしてって?だからそれは僕が……」

「トップだから間違っちゃいけないっての?その考えがすでに間違っていると思うよ」

「え……?どういう……意味?」


 やっぱり分かってないようだな。なら教えてやるしかないか。でも、それはきっと玉希ちゃんを凄く傷つけることになると思う。だからクロちゃんも教えなかったんだと思う。けれど、教えてやらなきゃ……この子はずっとつらいままだ。


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