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第4話 徒然荘の住人

 公園で知り合ったUMAのオッシーにアパートの管理人をして欲しいと頼まれ、それを承諾した俺は同じ町内にあるその徒然荘に向かった。公園から歩くこと約15分。そのアパートは見えてきた。が、想像していたのと若干違うな……

 妖怪が住むっていうくらいだから、まあ、絵に描いたようなおんぼろの木造二階建て、築40年ぐらいたってるいかにも何かが出る怪奇スポットみたいなアパートを想像していたが……ぜんぜん違うぞ……


「な、なあ……これがお前の言ってたアパート?」

「うん、すごいでしょ!」


 そりゃ凄いよ。なんたって築3年の出来立てほやほや。鉄筋コンクリート製で3部屋、3部屋の二階建て。ベージュの壁は断熱材を使用しており、見た目に美しいだけはなく夏は涼しく冬は暖かい過ごしやすい居住空間を作り出すのです。さらに窓にも匠の技が光る二重窓を採用、外気温の変化だけではなく防音の効果もあります。てゆうかあの屋根絶対ぶっ壊れねえだろ。見た感じ瓦じゃなくて明らかに強化プラスチックみたいな素材で出来てんぞ。誰がどうやって壊すんだ?

 部屋の間取りも完璧だ。全室1LDK、ユニットバス付き。インターネットは常時接続。24時間使い放題。家具家電も前の人が置いていってくれたのでレオ○レス顔負けの充実した物件となっております。


「どう?気に入った?」

「ああ……」


 気に入らないわけがない。だってもと居た家より綺麗で素敵な家だもん!


「で俺達の部屋はどれだ?」

「102号室だよ」


 102号室は一階の真ん中だ。俺はオッシーから鍵を貰うと緑色のドアについている鍵穴に差し込んだ。パンツの中から鍵を取り出すオッシーを見て、「今度ポシェットを買ってあげなきゃな」と思いながら鍵を回す。少し重たいドアをゆっくりと開くと俺の目に新しい我が家が飛び込んできた。

 

「こ、これは凄え……」


 玄関入って左手が6畳ほどのキッチンだ。そこには炊飯ジャー、冷蔵庫、電子レンジと一通りのものがそろっていた。その奥、流しの右手には曇りガラスの引き戸がある。おそらくそこが風呂とトイレだろう。流しの正面はふすまがありそこが俺の寝室兼生活空間だ。

 しかし9畳ほどのその部屋に所狭しと並べられた家具家電の凄いこと、凄いこと。ベッドに本棚、机といった一般的な家具はもちろん、液晶テレビ、HDD内臓DVDデッキ、最新型のパソコン、日本人ならコタツ、オッシーと同じ年頃の赤い着物を着たおかっぱ頭の女の子、SDカード対応のステレオコンポ、その他……んんん!?今一個だけ変なのが混じってたな!?1行上のこれ!


「なあ、オッシー……あのおこたに入ってお茶を飲んでる女の子は君のお友達?」

「友達っていうかルームメイトの美樹ちゃん。座敷童子ざしきわらしだよ」


 座敷童子!それなら俺も知っているぞ。何でもそいつが住む家は幸せになるといういい妖怪で、その姿を一瞬でも目撃できた人はラッキーになれるという……ってここに住んでるってことは俺超ラッキーになるんじゃね!?ていうかこんな子がいるなんて聞いてねえぞ!オッシー君、このサプライズはどういうことかね?


「それでね。あの押入れが僕と美樹ちゃんの部屋だから入るときはノックしてね。上が僕の部屋で下が美樹ちゃんの部屋だよ。」


 このガキ……ルームメイトほったらかして自分の部屋の説明始めやがった……


「いや、お前もうちょっとちゃんと紹介してやれよ。ルームメイトだろ?ていうかもう1人妖怪がいるなんて聞いて……」


 つんつんと俺の服を引っ張る美樹ちゃん。明るい笑顔を浮かべながら一枚の紙をさしだしてきた。筆談という奴か。どうやらこの子はしゃべれないらしい。なになに……


――――――



はじめまして


あたしは座敷童子の美樹って言います。

好きな食べ物はようかんとお茶です。

オッシーのことだからあんまり説明せずに連れてきちゃったと思うの。

だから言っておくけどこのアパートには人を襲ったり食べたりする悪い妖怪はいないから安心してね。

困ったことや分からないことがあったら何でもあたしに言ってね?

これからよろしくお願いします。



――――――


 なるほど……美樹ちゃんがとても素直でいい子で優しくてパンツ一丁のオッシーくんより頼りになる子だというのはよく分かった。では、お言葉に甘えて早速質問タイム。


「じゃあ、美樹ちゃん。早速だけど管理人の仕事ってどんなことするの?」


 そう、俺はアパートの管理人なんてものはブラウン管の向こう側でしか見たことがない。サスペンスドラマでどう見ても大して重要じゃない脇役のくせに結構すごいヒントをくれる余命があんまりなさそうなおじいさんや、やたらと美人でおしとやかな未亡人などといった感じだ。しかし、彼らが普段どのような職務についているのか全く知らないし分からない。どうすりゃいいんだ?という俺の疑問を一撃で粉砕する便利アイテムを美樹ちゃんががくれた。その名も……


――――――



管理人完全攻略マニュアル(これが管理人の仕事だ)



――――――


 何かふざけて作成したようにしか思えない引継ぎファイルだが名前など問題じゃない。要は中身だ。まずは開いて………………はい、閉じろ!よし、深呼吸。すー……はー……オッケー、落ち着いた。まだ前半戦の折り返し地手にも来てないんだから、慌てず、騒がず、ムカつかず、「何か分からないことがあったら電話して」とかかれた電話番号をプッシュだ!!

 呼び出し音が鳴ってしばらくすると若い女性の声が俺の携帯から聞こえてきた。年上の女性と電話で会話したことのない俺は少し緊張したがそれ以上に腹をたてていた。


『もしもし、藤崎ですけどどちらさん?』


 俺は早速先代管理人である藤崎あかねさん(27)に自己紹介と用件と苦情をセットにしてぶつけた。


「あ、藤崎さん?俺は新しく徒然荘の管理人になった加茂良平というものですが、早速分からないことがあってお電話させていただきました」

『あら、それはごくろうさん。で、何?分からないことって?』

「ええ、あなたとあなたの作った管理人マニュアルのことがさっぱり分かりません」

『どういうこと?』


 俺はもう一度管理人マニュアルの内容を一瞥(いちべつ)し、それを床に叩きつけながら携帯の向こう側に怒鳴り散らした。


「それはこっちの台詞だ!!管理人の仕事が“(おの)が信念のままに生きろ”ってどういうことだよ!!何なんだよ、この戦国武将のマニフェストは!!意味分かんねえよ!!」

『ヌハハハ!!面白半分で作ったからね』

「面白半分って残りの半分は真面目にやったの!?これだけしか書かれてないけどこれでマジなの!?」

『残り半分は悪ふざけだよ』


 全部おふざけじゃねえか!!ふざけんじゃねえよ!!何でこんな奴が海外出張なんて重要そうな仕事してんだよ!!左遷(させん)の間違いじゃねえのか!?いや、この際そんなことはどうでもいい。


「で、管理人の仕事ってなにすりゃいいんですか?」

『ああ、それは簡単だよ。うんとね……』


 藤崎さんいわく……

 管理人の仕事は、主にオッシー&美樹ちゃんのおチビちゃん妖怪の世話。つまり、飯を作ってやったり、遊び相手になってやったりといったようなことだ。もちろん、それだけではない。この他にも、炊事洗濯、買い物に、ご近所のおば様方との井戸端会議やアパートの住人と仲良くしたり、ワイドショーを欠かさずチェックしたり、と多忙……かな?

 これだけ見ると普通に主婦業な気がしなくもないのだが……まあ、実は主婦業というのは大変らしいし、うん、管理人の仕事というのも楽なものではないのだろう。よし、そうと分かれば、まずこの訳の分からん先代管理人との電話をとっとと終わらせ、再び美樹ちゃんに質問タイムだ。


「ねえ、美樹ちゃん。このアパートにはどんな人たちが住んでいるの?」


 すると美樹ちゃんはまた一枚のメモを俺に手渡した。それは実に悲しくも分かりやすい人物紹介である。


――――――



徒然荘の住人


101号室 烏丸 明彦さん(35)天狗のおじさん

 大学で民俗学の助教授をしているの。正体は天狗だよ。でも悪い妖怪じゃないからね。それどころかおじさんは悪い妖怪を捕まえるお巡りさんみたいな妖怪だよ。


102号室 加茂 良平くん(15)人間のお兄ちゃん

 公園でぶらぶらしているところをオッシーに連れてこられたの。ニコニコしてるしきっといい人だと思う。よろしくね。

押入れ童子・オッシー(?)

 押入れに住む妖怪だよ。でも悪いことはしないから安心してね。押入れに閉じ込められた子供がお母さんにもう出ておいでって言われるまで遊んであげる優しい子だよ。

座敷童子・美樹(ヒ・ミ・ツ)

 一緒にいる人を幸せにする妖怪だって言われているんだけど……あたしにはそんな力ないの。ごめんね。でも何かできることがあったら何でも手伝うよ。


103号室 天童 修司くん(15)鬼のお兄ちゃん

 女の子みたいに綺麗な顔をしているけどそれ言うと落ち込んじゃうから言わないであげてね。お酒とタバコだけがお友達のとっても恐いけどとってもいい人だよ。


201号室 藤崎 ミイナちゃん(15)猫又のお姉ちゃん

 ネコちゃんの妖怪だからすっごく運動神経がいいんだよ。それにとっても美人で優しいし元気一杯で力持ちなの。あたし大好き。ちなみに現在彼氏募集中で好きなタイプは優しくて頼りになる人だよ。


202、203号室 空き部屋

 だれか入ってこないかな……



――――――


 うん、実に分かりやすい……どうやら、とてつもなく残念なことに人間は俺だけらしい。まともな人間は1人もいないってこういうことか……俺の悲しいプロフィールや天狗のおっさんは問題ないとして若干気になる人が約二名。

 まずはこの鬼のお兄ちゃんというしゃれにならんシャレのやつだ。何なんだろうね?鬼って……ひょっとしてあれか?素手でホッキョクグマをハンティングするヒッティングマッスルの持ち主かな?それになぜ15歳にも関わらずお酒とタバコだけがお友達?法律ってご存知?

 あとはやっぱ……この子だよ。藤崎ミイナちゃん。美人で優しくてネコ耳って……おま……これ反則だろ……しかも彼氏募集中って……


 ていうか美樹ちゃん……さりげなくこんなおいしすぎる情報を俺にくれるなんて……さすが座敷童子!!その名前に偽りなし!!そうと分かればやることは一つだ!!


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