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第39話 大人で子供・其の一

 突然何の前ふりもなしに始まった玉希ちゃんへの質問コーナー。俺が何を聞こうか悩んでいると玉希ちゃんが不安げな顔でぼそりとつぶやいた。


「あの……僕のことなんか知りたくない?」


 俺は慌てて首を振る。


「全然そんなことないよ!今何を聞こうか考えていたとこだよ」

「本当?よかった……」


 安心したのか玉希ちゃんはちゃぶ台に両肘をつき嬉しそうな顔をその上においた。こうして見るとこの子もめちゃくちゃかわいいよな……よく考えたらこんなかわいい子に(例えどんな目的があろうと)好きって言ってもらえて、その上(何かしら企んでいるとしか思えないが)結婚して欲しいなんて言われてる俺は幸せ……かな?いや、今は深く考えるな!


「ねえ、どんなことが知りたい?」

「うーんと、そうだな……」


 やっぱり、さっき聞き損ねた修行の他にキャバクラで働いていた目的……はさておき、主に何で君が俺のことを好きになったのかとか、どうして結婚適齢期でもないのにそんなにあせっているのかとか、何ゆえトカレフなどと言う物騒なものを所持しているのかとか、その辺のことを知りたいが……いきなりそんな突っ込んだ質問は出来ん。何か撃たれそうで恐い。

 ていうか俺が質問したところでこの子は正直に答えてくれるのか?だって妖狐族は良くも悪くも人を騙す妖怪だろ。そんな奴の言うことを真に受けていいのか……


「あのさ、教えてくれるのはありがたいけど……これって意味あんの?」

「それ……どういう意味?」

「いや、だって君は人をだます妖狐族なわけだから本当のことを言うとは限らないじゃん」

「そんなことないよ!!」


“バン”


 玉希ちゃんはいきなりちゃぶ台を叩くと目に大粒の涙を浮かべた。何でだ?俺そんなにひどい事いったのかな?いや、確かにちょっと意地悪な言い方だったかもしれないけど、別に泣くほどのことじゃ……


「君も僕が嘘つきの化け物だというの?」

「いや、別にそこまでは……」


 ん……?君も?どういうことだ?君もと言うからには俺のほかに玉希ちゃんにそんな事を言った奴が居るのか?誰だそれは?待てよ……ひょっとしてそれは……


「ねえ、良平君!!どうなんだよ!!」

「あ、ああ。いや、ごめん!俺はそんな事思ってないから!大丈夫だからね?」

「うん……」


 俺の言葉に落ち着きを取り戻したのか、玉希ちゃんは姿勢を正すと、またまっすぐに俺を見つめた。


「取り乱してごめんなさい……」

「え?いや別に全然いいよ。俺の言い方も悪かったし」

「どんなことが知りたい……ですか?」


 急に敬語を使い出したよ。何か妙に気を使わせちゃったみたいで悪い気がするな……まあ、いいや。


「そうだな、玉希ちゃんって妙に大人っぽいところがあるけど、それはどうしてなの?キャバクラで働いていたから?」

「ううん。僕はいずれ妖狐族を背負って立つ女。みんなのためにしっかりとした女でなきゃいけない。何においても間違いなんてあってはいけない完璧な大人でなきゃいけないからだよ」


 あれ?なんだろう?なんか玉希ちゃんの言葉に妙な違和感を感じる……ていうか、間違いがあってはいけないって君……俺にトカレフ突きつけることは間違ってないの?いや、今さらそんな細かいことを気にしちゃだめだ!


「じゃあ、どうしてそんな喋り方してるの?」

「そんな喋り方って?」

「いや、今さらこんなこと聞くのは何か変だけど、一人称単数が僕ってちょっとかわってるかなって思って」

「ふふ……それはね烏丸さんの真似をしてるの。僕たち妖狐族は好きな人の真似をするのが趣味なんだ。本当はこんな喋り方じゃないんだよ」

「へえ、じゃあいつもはどんな風に喋るの?」

「内緒だよ♪」

「ええ、何だよそれ」

「ふふっ……本当の僕を知ってるのはママとクロちゃんと……いや、それぐらいかな」


 あれ?今何か言いかけたけど何だ?何を言おうとしたんだろう?

 そんな事を考えてる俺に玉希ちゃんはまぶしい笑顔をなげかてきた。


「うーん、もう少し仲良くなったら良平君にも教えてあげるね」


 目の前にいる美少女が放ったウインクに、心臓が爆発しそうになった俺は首が妙な音を立てるほど勢いよく視線をそらしてしまった。


「ひゃほおおぉぉい!!お揚げ最高!!最高ですか!?はい、最高です!!」


 そして、視線の先にいた真っ黒クロちゃんのおかげで落ち着きすぎるぐらい落ち着けた。


「あとは……そうだ!玉希ちゃんって妙に子供っぽい言い方をする時があるよね?ラッコさんとかペンギンさんとか。あれはどうして……」

「え……それは……」


 少し言いよどんだ玉希ちゃんだったが顔を赤らめながらも答えてくれた。


「子供の頃に読んだ絵本があってね……その本はいつも僕の心の支えになってきたんだ。今の僕があるのはその本のおかげといっても過言ではないかな。そのせいか、今でもたまに子供っぽい話し方をする時があるんだ。気を付けなきゃいけないとは思ってるんだけどね……」

「へえ、興味あるな。どんな絵本だったの?教えてよ」

「うん、いいよ」


 そして玉希ちゃんは昔読んだ絵本の内容を話し始めた。


「むかしむかし、あるコロニーにプロフェッサーJと名乗る科学者がおりました」


 あれ?コロニー?J?それ絶対むかし話じゃないよね?物凄い未来の話だよね?アフターコロニー195年ぐらいの話だよね?ていうかドクターとプロフェッサーの名前がごっちゃになってるよ?


「Jは政府の目を欺くために食品工場で働き、影では秘密裏に人型兵器を作り出していたのです」


 ええっと……それはもう完全に羽のガンダム作った人だよね?でもそんな設定あったかな?


「完成した3体の人型兵器は流星に偽装され地球に降下した後、次々と黒い科学者の兵器を破壊していきました」


 うん、オペレーションメテオだね。でも数が足りないな?ていうか黒い科学者って何だ?何か微妙に間違えてる気がするんだけど……


「ねえ、玉希ちゃん?その人型兵器って何なの?」

「モビルスーツ、AUNPAM。他、二体」


 おいいぃぃ!!オペレーションメテオならぬオペレーションアンコ!?それガンダムっぽく言ってるけど完全にアンパン男だろうが!!他二体も間違いなく食パンクとカレーキャノンだろ!?じゃ、何か?プロフェッサーJてジャムのおじさんか!?食品工場ってパン工場のことか!?いや、確かにあいつは妙なデザインの車作ったり、あまりにも本業とかけ離れたことしてるけど、基本はパン職人だからね!?科学者じゃないよ!!


「最大の見せ場はアンパムとバター女の恋愛シーンだ」


 ねえよ、そんなシーン!!ていうかそこはもうB子にしてやれよ!!何だよバター女って!!それもうただの変態じゃねえか!!


「でも一番凄いのはやっぱり黒い科学者と言われたバイキングだね。綺麗な家に住めないほど少ない資産でさまざまな兵器を作り出してはアンパムに破壊されて……それでもめげずに立ち上がるその姿には感動するよ」


 正しくは懲りずにだよ!!感動すんなよ!!呆れろよ!!あいつの目的はどうせ悪いことなんだから!!ていうか、あいつの家が汚いのはあいつがバイキン男だからだよ!!


「とにかく僕はその本の主人公のように決してくじけずに、何度でも立ち上がり、目的を達成しようというネバーギブアップ精神を僕も持っていたいんだ。例えみんなに笑われてもね……あのバイキングのように」

「おめえ、バカだろ!!どう考えてもおかしいだろ!!ていうか主人公そいつじゃねえよ!!」


 何だよ、それ!?この子がおかしいのはあのバイキン男のせいなの!?だったら許さないよ!!今度会ったらてめえと洗剤1ケース丸ごと洗濯機に突っ込んでスタートボタン押してやるよ!!

 いや、ていうか、こんなのありえねえだろ!!いくら俺がバカだからってこんなレベルの低すぎるウソには騙されないよ!!おい、これどういうこと!?ちょっとお父さん説明!!説明してくんない!?ってあれ?クロちゃんはどこに……


“ガサ”


 何かが動く気配に後ろを振り向くと、ADのようにでかいカンペを持ったクロちゃんがいた。そしてそのカンペにはこう書かれていた。


あのバイキングのように


「何か変だと思ったらおめえの仕業かこの真っ黒クロ助!!」


 思わず蹴り上げたクロちゃんは天井にワンバウンドして俺の足元に落下してきた。


「ちょ、良平君……いきなり何すんの?」

「おめえが何してくれてんだよ?シリアスな話に何のかと思いきやおめえのせいで台無しだよ。ちょっと席はずせ」

「え……でも……」

「つべこべ言わず消えろ。さもなくばThe・悪利苦かますぞゴラァ」

「はい……」


 お邪魔虫なADがどっかに消えたところで俺は再び玉希ちゃんと向かい合うように腰を下ろした。さて、ここからは真面目な話だ。もう、ごまかしっこなし。玉希ちゃん、君の秘密を聞かせてもらう。


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