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第38話 頑張れクロちゃん

 本当なら玉希ちゃんの部屋は先輩と離れた203号室にしたかったんだけど、なぜか不幸なことに、本日未明その部屋の屋根に小隕石がアルマゲっちゃったみたいで、馬鹿でかい穴が開いてるから仕方なく202号室に案内しました。


 元キャバ嬢の玉希ちゃんにしてみればちょっと狭すぎるかなと思ったが、意外なことにいたって満足そうな笑顔だ。


「ふーん。綺麗だし結構いい感じだね」

「そう?まあ、玉希ちゃんが気に入ってくれたんなら良かったけど……」

「でも、あれがちょっとね……」


 玉希ちゃんは残念そうな顔で奥の部屋を指差した。何だろう?やっぱり広さかな?


「何?やっぱり狭かった?」

「いや、畳じゃなくてフローリングってのがね……」


 何だそんな事か……ていうか、着物といい部屋の趣味と言い顔に似合わず和風なのが好きなんだな。まあ、別にいいけど。


「そんな事ぐらいなら烏丸さんに頼めば何とかなるよ。あの人の部屋も畳だったし」

「いや、良平君の手をわずらわせるまでも無いよ」


 おーい、俺の話を聞いてくれ。烏丸さんにって言ってるだろ?何で俺?お前はそんなに俺のことを働かせたいの?奴隷化したいの?


「クロちゃんが言ってただろ。狐は自分のことは自分でやる生き物だって。この程度の問題僕の妖術であっという間に解決してやるさ」

「へえ、そんなことできるの?」

「当然さ。僕は妖狐族の長となる女だよ。幼少の頃から妖術だけではなく、ありとあらゆる英才教育を受けてきたんだ。何においても完璧な女なんだよ」


 どっからそんな自信がわいてくるの?


「と言うわけでクロちゃん。この部屋を僕好みにして」


 なるほど。そこの黒い毛むくじゃらからか……どうでもいいが凄い呆れてるよ。君の自信の根源が不満たらたらな顔してるよ。


「あのー……やれと言われればやりますけどね……おいらは玉希ちゃんの手下なわけだからね……でもね……」

「何だよ?文句でもあるの?」

「それはもう玉希ちゃんの妖術じゃない気がするんだけどな」


気がするじゃなくてそうだろ。


「つべこべ言わずさっさとやる!」

「はいはい……」


 玉希ちゃんにせかされるままに、クロちゃんは奥の間に両手をかざし不思議な呪文を口にした。それは玉希ちゃんの唱えていたものとは別なものだった。


「オン、キリカ、ソワカ、オン、ダキニ、ギャチ、ギャカネイエイ、ソワカ……」


 そして、奥の間の空気が熱せられたようにグニャグニャと歪んだかと思うと、今度は色んなところから見たことも無い奇怪な植物が生え、それが畳やたんす、ちゃぶ台といった家具を形作り、やがて材質や色までも本物のように変わっていった。

おいおい、クロちゃん……お前はドンだけ凄いんだ?


「はぁ……はぁ……」


 しかし、2000年の歴史を誇るクロちゃんでもこの技は相当エネルギーを食うらしくその目はすでに渦巻きだ。さすがに玉希ちゃんもちょっと悪いことをしたと思ったのかねぎらいの言葉をかけてあげた。


「よくやった、クロ。君に褒美をやろう」

「え?うそ?マジ?マジで何かくれんの?何、何?どういう風の吹き回し?」

「何言ってるんだ。下に働くものを思いやる。それは上に立つものとして当然のことだ。今までだってやってだろ?」

「またまた、そんな事言っちゃってー。今までそんなの無かったじゃん!」

「やってたつってんだろうが!!殺るぞゴラァ!!」

「あ、ああ、そうだ、そうだった!!今までも貰ってた!!うん、貰ってた!!いやあ、おいらとっても嬉しいな!!何がもらえるだろうな!?」


 おーい、お前ら。そういう事はちゃんと打ち合わせしとけってば。


「今回君にあげるご褒美はこいつだ」


 そう言って玉希ちゃんが取り出したのは一枚の油揚げだった。え?油揚げ?玉希ちゃん?いくら狐の妖怪だからって、目回すほど働かせた賃金が油揚げ一枚!?それはあんまりじゃないか!?見ろよ!!クロちゃんも固まってるよ!!絶対怒り狂うよ!!わなわな震えてるよ!!今にも怒りが爆発寸前だ!!


「ひゃっほおおぉぉい!!本物だ!!本物の油揚げだ!!3年ぶりの本物だ!!やったああぁぁ!!」


 ええぇぇ!?怒り狂うどころか狂喜乱舞!?どういうことだよ、これ!?こんなの絶対演技じゃねえぞ!!素だぞ!!妖狐族はプライド高いんじゃなかったの!?プライド高くても賃金は安いの!?ていうか、何で3年ぶりなんだよ!!お前昼にキツネそば食ったんじゃねえのかよ!?


「いやあ、あそこの蕎麦屋のキツネそばは名前こそキツネそばだけど、あれ油揚げじゃなくて腐ったはんぺんだからな」


 ちょ……はんぺ……しかも、腐ったって……


「ああ、うまい……この味があればおいらあと50年は生きていける……」


 クロ……おま……無茶しすぎ……後で俺の部屋に来い!!うまいキツネそばをたらふく食わせやっから!!


 油揚げ一枚でも文句を言わず喜んで主のためにつくす。どこぞの貧乏執事顔負けの奉仕精神だな。ていうか、飼い主!!ちゃんとペットには愛情持って接してやれよ!!


「うーん……やっぱり畳はいいね……」


 あらやだ。玉希ちゃんったらクロちゃんのことなんか忘れて、和室と化した奥の間に寝そべり畳の感触をご堪能中だ。下のもの思いやるんじゃなかったの?完全に忘れてない?まあ、いいか……

 俺も奥の間に行き、玉希ちゃんとはちゃぶ台をはさんだ場所に「どっこいせ」とあぐらをかいた。玉希ちゃんはゆっくりと起き上がると、俺と向かい合うように正座し、姿勢を正した。まっすぐに俺を見つめる優しい瞳はよどみのないブルーだ。


「ねえ、良平君?」

「うん?」

「僕のこと知りたい?」

「え……?」


 いきなり何を言い出すんだこの子は?まさかこの後突然「僕の全てを知って」なんて言いながら脱ぎだすんじゃ……いや待て!そんなおいしい展開は絶対ありえない!あったとしてもその後俺はひどい目に会っておそらく死ぬ!今までのパターンからいくとそうなる!そんな事態は意地でも回避してやる!よし、ここは一つ冷静に考えよう。


 あれ?でもこれって玉希ちゃんを知るいい機会かも知れない。何せ俺はこの子のことをあまりにも知らなさ過ぎる。よし、じゃあ次回は玉希ちゃんの素顔に迫ろう。



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