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第37話 妖狐族の修行?

「玉希ちゃん、一体なんでそんなことしてたの?」

「えっと……それは、その……なんていうか……」


 玉希ちゃんは俺の胸倉をつかんでいた手をゆっくりとほどき、じりじりと後ろにさがっていった。なんだ、その先生に怒られているときの小学生のようなリアクションは?


「あの、玉希ちゃん?」

「…………」


 ああ、だまっちゃった。そして目にうっすらと涙を浮かべている。おいおい、なんかこれじゃ俺がか弱い女の子をいじめてるみたいじゃないか。言っとくけどこの子は全然か弱くないからね!モビルスーツを素手で破壊する子だからね!


「いや、言いづらいことなら別に言わなくてもいいからね?」

「うん……あの……お金のためとかそんなんじゃないの……」


 それは何となく分かる。なんたって玉希ちゃんは妖狐族のお姫様なわけだから、お金には不自由しないでしょう。じゃあ何のために?と聞いたところで玉希ちゃんは答えてくれそうにないな。


「烏丸さんは知ってるんでしょ?教えてくれませんか?」

「僕は別に構わないが……玉希ちゃん、管理人さんに話してもいいかい?」


 玉希ちゃんはクロちゃんをぬいぐるみのように抱き上げ無言で頷いた。クロちゃんもだまって玉希ちゃんの目にたまった涙を拭いてあげている。何だか二人が親子のように見えた。

 烏丸さんはその様子を少し悲しげな目で見つめると再び俺の方へ視線を移した。


「じゃあ、玉希ちゃんもああ言ってることだし話してあげよう」

「はい、お願いします」

「妖狐族とは読んで字のごとく狐の妖怪だ。知ってると思うけど狐は古くから人を化かす、つまりは騙すことを生業とする妖怪なんだ。そんな妖狐にとって人とうちとけ心を開かせる水商売というのは非常に勉強になるんだ」

「どうしてそうなるんですか?」

「おいらんの語源を知ってるかな?狐は妖術で使い人を化かす。だが女は手練手管で男を落とす。ゆえに尾はいらん。お・いらん。おいらん、と言うように妖怪の使う怪しげな術なんて、人間の話術や仕草に比べれば陳腐なものなんだ。だから妖狐族の若者はみな修行のために水商売をしてるのさ」

「でも、それって人を騙す練習をしてるってことでしょ?止めた方がいいんじゃないんですか?」

「全てのウソが悪いこととは限らないよ。時には真実より優しいこともある。そして、人の目を欺き驚かせる手品師しかり、人の心を欺き一時の幸せをくれるキャバ嬢しかり、白詐欺を欺き金を騙し取り返してくれる山ピーしかり、世の中にはウソで人に感謝されるものもいるんだ。例え人を騙してでも幸せをくれる。それが妖狐族」


 ええっと……最後の例えはダメだよね?それ、一応犯罪だもんね?

 まあ、そんな事はともかく玉希ちゃんが悪い妖怪じゃないと言うことがわかってほっとした。妖狐族という妖怪は嘘つきでもいい嘘つきなんだ。少なくとも玉希ちゃんはそうだ。だって、さっきも先輩に同情してわざと負けてあげたし、野上さんのばかげたウソだって本気で信じて俺のことを騙してでも子供をたすけようとしたもんな(本人は演技だって言い張るけどアレは絶対マジだったもんな)。


「よく、分かったよ。玉希ちゃん、君がキャバ嬢をやってたのは修行のためなんだね?」

「うん、そう!!その通り!!それ以外には本当全然全く持って目的なんかないから!!本当にないから!!気にしないでっていうか忘れて!!ていうか、もうこの話やめよ?」


 うん、玉希ちゃん。君はもう一度修行しなおして来い。てんぱるにもほどがあるぞ。ていうか、まだ何かあんのか……まあ、何か話したくない事情みたいだし、さっき先輩に勝ちを譲ってもらったこともあるし、なによりあんまりこの子を傷つけたくないので、ここは一つ無理やりにでも騙されたふりをしてあげよう。


「そ、そうか。それは良かった。うん、じゃあこれから君の部屋に案内するね」

「そうしよ!!うん、それがいい。速く見てみたいなー♪…………………………ふっ、さすが僕だ」


 おーい、玉希ちゃん。小声で言ったつもりだろうけどしっかりと聞こえてるぞ。ていうかどこがさすが?君の腕に抱かれてるお父さんもすっごい恥ずかしそうな顔してるよ。「おいら、教育方針間違えたかな?」って顔してるよ。心配するなお父さん。お前はよくやってるよ。


 とにもかくにも、俺は玉希ちゃんを部屋に案内することにした。……のはいいが一つ疑問に思うことがある。それは勝手に俺が入居させちゃっていいのかって事だ。

 俺は確かにこのアパートの管理人だが、それはあくまであかねさんが海外出張に行っている間だけの、いわば管理人(仮)といった状態だ。そんな中途半端なポジションの俺が勝手に入居者なんか連れてきちゃっていいものかどうか……いや、分かってるよ。そんな事あかねさんに電話で聞けば済む話だって事ぐらい、俺にも十分じゅうぶん分かってる。けどね……


「どうしたの、良平君?僕の顔に何かついてる?」

「いや……何も」


 玉希ちゃんこのこがね……他の女に電話している俺を見て何するか……想像すらしたくない……想像を絶する戦いを見せつけられた後だけに……


「ねえ!!早く連れてってよ!!」

「え、あ、ああ……」


 まずいぞ。玉希ちゃんがいらいらし始めたぞ。この子は本当何するか分かんないから余計に恐いぞ。どうすりゃいいんだ?と、そんな俺の恐怖と疑問をいっぺんに吹き飛ばしてくれたのが……


「お兄ちゃん、ただいま〜」


 エンゲルエンジェル・オッシーだ。なぜ、オッシーが俺の疑問を吹き飛ばしてくれるかというと…………いや、その前に!!


「こら、オッシー!もう、6時だぞ!5時までに帰ってこなきゃダメだろ?」

「あ、いけない。忘れてた……ごめんね、お兄ちゃん?」


 うん、許しちゃう♪だって、超かわいいだもん♪

 さて、話を戻してなぜこの世界一かわいいオッシーがこの問題を解決してくれるかというと、この宇宙一かわいいオチビちゃん妖怪はこのアパートの大家さんだからだ。

 つまり、こいつがOKと行ってくれれば玉希ちゃんの入居は問題なく…………あれ?それって俺にとっていい事なのかな?これから玉希ちゃんと先輩という二つの核弾頭でジャグリングをするような……いや、深く気にするな!!ヒロインが複数いるコメディなんて結構あるじゃないか!!それと同じだ!!…………たぶん。


「なあ、オッシー。実はここにいる玉希ちゃんをこのアパートに住ましてあげたいんだけど……いいかな?」


 俺はてっきりこいつの事だから、某お昼の人気番組のように「いいとも〜」と返してくるものだとばかり思っていた。しかし、その返答は意外すぎるほど、意外なものだった。


「いいも、何も、玉希ちゃんは僕が呼んだんだよ?」


 ホワッツ!?


「玉希ちゃんが商店街で寂しそうな顔してたから、僕が、徒然荘においで、って言ってあげたの。それで、アパートに来る前に管理人のお兄ちゃんに挨拶してね?って言ったの。お兄ちゃんはたぶん公園にいるからそこに行けば会えるよって」


 え?え?ちょ?え?え?ていうか、え?じゃ、何か?俺があの公園でトカレフ突きつけられたり、その後顔面をボッコボコに殴られたり、ひじ間接を破壊されかけたり、未だにひじがズキズキするのって全部こいつのせい?


「僕っていい子でしょ?」


 うん、とってもいい子♪え?怒る?何言ってんの?そんな事しないよ〜だって凄くかわいいんだもん♪


「ねえ、良平君……」

「うふふ♪なあに、玉希ちゃん?」

「僕の部屋は?」

「……あ、すいません。すぐにご案内します」


 玉希ちゃんの氷点下マイナス600度の冷たい視線で我に返った俺は、相変わらず白ブリーフから取り出された鍵をオッシーから受け取り、彼女を部屋に案内する事にした。

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