第33話 女のバトル・ラウンド1
玉希ちゃんに先輩に会わせろとお願いされた俺は、そんな不測の事態だけは何とか回避しようと徒然荘の妖怪警察コンビに助けを求めようとしたのだが、バカな天童とバカな事をやっている間に、会わせてはいけない二人を会わせてしまった……これからどうなっちまうんだ?
そう思った矢先である。
「何かさ……」
先輩は玉希ちゃんの胸倉をつかむと、おそらく俺が見てきた彼女の表情の中で一番恐ろしいと思われる表情で玉希ちゃんを睨みつけた。それがどんな顔かというと、もうぶちギレてるの丸分かりなのに無理して作ったひきつった笑顔という奴だ。
「あんたの体からあたしの管理人さんの臭いがするんだけどどういうこと?」
先輩……あなた耳だけじゃなくて鼻もいいんですね?ていうか「あたしの管理人さんって」ちょっとうれしい……って言ってる場合じゃなかった!だめだよ先輩!その人はいろんな意味で危ない人だから!そんなに刺激したらぶちギレ……てない?何でだ?
俺の心配をよそに玉希ちゃんはゆっくりと先輩の手をほどき不敵な笑みを浮かべた。
「それは当たり前だよ。だって、良平君は僕の夫だから」
玉希ちゃん?そういうことは本人の承諾を得てから言ってね?ていうか、せめて夫となる人ぐらいにとどめておいて欲しかったかな?そんな事言ったら先輩が……キレてない?むしろ何か嬉しそう?
先輩は何を思ったか腰に手を当て、胸をはり、自信満々に言った。
「そんな事ぐらい何よ。あたしなんか管理人さんのペットよ」
先輩!?間違っちゃいないんだけど!!確かに俺は昨日ご主人宣言したけど!!あんたのご飯作ったりしてあげてるけど!!そんなこと絶対に人前で言わないで!!確実に誤解しか招かないから!!ていうか、ペット>妻じゃないよ!!普通は妻>ペットですよ!!女房よりペットの方がかわいいってどんだけ冷めた夫婦関係!?そんなんだったらもう別れろよ!!
そんな事を考えてると天童が俺の肩を叩いた。さすがに何かしらのやばい空気を感じたのかいつに無く真剣な顔をしている。
「管理人さん……」
「何だよ?」
「ナンパで女の子ゲットするどころか嫁さんゲットしたの!?ていうか、ミイナとペットってあんた、それどんだけやり手なんだよ!?色んな意味でやり手なんだよ!?あ、やべ……」
「うるさい、鼻血をふけ、後で説明するけど全部誤解だ。」
こんなバカに構ってる場合じゃない。今はあの二人を止めなければ!!
「はいストップ!!いったんタンマ!!二人とも取り合えず落ち着こう!!」
「何よ、管理人さん!!」「邪魔だよ、良平君。引っ込んでな」
「いや……あの……その……」
間に割って入った俺だが、二人の凄まじい気迫とかわいらしいお顔にたじたじになってしまった。しかし、引き下がるわけにもいかない!俺は管理人だ!しっかりと仕事はさせてもらう!!
「ちょっと待った!!先輩!!この子は新しく徒然荘に住む入居者なの!!そんな喧嘩越しな態度はやめて!!」
「むう……そうなの?まあ……管理人さんがそう言うなら……」
「よし!!玉希ちゃんも!!これからここに住むんならご近所さんとは仲良くする!!オーケー?」
「うん……妻なら夫に従うものだ。分かったよ」
かなり不承不承な気は否めないが二人はお互いに握手をして、にこやかに自己紹介を始めた。
「始めましてぇ。あたしは201号室に住んでる藤崎ミイナ、15歳ですぅ。よろしくお願いしますぅ(んだよ、てめえは!!何でそんな胸あんだよ!!何であるくせにそんな隠すような服着てんだよ!!意味分かんねえよ!!いらねえんならよこせよ!!何ならあたしがむしり取ってやろうか?ああん!?)」
ちょ……あの……先輩?俺の気のせいかな?何かあなたの心の声まで聞こえてくるんだけど……すっごい、物騒なこと言ってるような気がするんだけど……
「僕は坂本玉希。君と同じ15歳だから普通に話してくれればいいよ。(おめえ、バカだろ!?何だよその格好?何でそんな露出度たけえの?もしかしてそんだけ肌出してりゃ男が喜ぶとでも思ってんの!?てめえのバカさを露出してるだけだよ!!肌の露出面積とバカさは比例すんだよ!!)」
ええ!?玉希ちゃんまで!?ていうか、何だよその法則!?肌の露出面積と知能指数の相関関係なんか聞いたことねえよ!!
「へえ、15歳なんだ?そんな、顔っていうか格好してるから、てっきりもっと遥か年上のおばさんかと思っちゃった。ていうか、女のくせに一人称単数が僕って気持ち悪いね。狙いすぎだよね」
「ええ、そうかな?僕はどっちかって言うと君のファッションセンスの方が気持ち悪いよ。ていうか、君そうとう頭悪いでしょ?だってそんな顔してるもん。もう死ねよ、お前」
お二人さん!?頭に血が上りすぎたせいで心の中と外がごちゃごちゃになってるよ!!光と闇が溶け合ってるよ!!すっごい恐いよ!!
「てめえが死ねよ!!このクソ女が!!なんで後から出てきてヒロイン気取りしてんだよ!!もう女性キャラはいらねえんだよ!需要は満ち足りてんだよ!!失せろよ!!(さっきはあんなこと言ってごめんね。これからは女同士、妖怪同士、仲良くしようね)」
「おめえはガキなんだよ!!体も脳みそもまだヒロインには早えんだよ!!そのまな板がもう少し膨らんでからいっぱしの口たたけや!!(僕の方こそ大人気ないことを言ってごめんよ。僕こう見えても結構凄いから、困った事があったら何でも言ってね)」
おいいぃぃ!!何かもう本音と建前が逆になってるんですけど!!恐いなんてレベルじゃねえよ!!やばいよ、これ!!どうしたらいいいの、俺!!
パニックにおちいった俺の服をつんつんと引っ張る少女がいた。美樹ちゃんだ。この子はしっかりしてるから、もしかしたら何らかのアドバイスをくれるかもしれない。取り合えず渡されたメモを見てみよう。なになに……
お姉ちゃんというものありながらあなたって人は……
こんな時にまたその話!?だからそれは誤解だって言ってんだろ!!いや待て、二枚目があるぞ。なんだろ?どれどれ……
なんて素晴らしいんだ!!
リアル月9だけではなくリアル昼ドラまで見せてくれるなんて……
感動した!!君はあたしが見込んだ以上の逸材だ!!グッジョブ!!
ニュータイプかもしれんな……
なに喜んでんの!?完全に人事だな、おい!!ていうかお前はどこの大佐だよ!!言ってる場合じゃねえんだよ!!あいつら止めないと今にも殺し合いを……あ、遅かった。
「はああぁぁ……」
「こおおぉぉ……」
二人はすでにどこかの暗殺拳の継承者が使いそうな変な呼吸法で気合を溜めながら火花を散らしていた。
「クソ女ああぁぁ!!」
ラウンド1
「メス猫おおぉぉ!!」
レディー
「死ねええぇぇ!!」「くたばれええぇぇ!!」
ファイト!!
“カーン”
とうとう戦いは始まってった。そして先手を打ったのは玉希ちゃんだった。
「食らえ!!狐妖術・トカレフ!!」
“パンパンパンパンパン”
おいいぃぃ!!それのどこが妖術!?ただの発砲じゃねえか!!打ったじゃなくて撃ったじゃねえか!!ていうか、先輩大丈……いいぃぃ!?
「あんたバカじゃないの?こんなものがあたしに……」
弾丸を素手で受け止めてるううぅぅ……
「効くわけねえだろがああぁぁ!!」
“バキメキポキパキ”
だけじゃなくて握力で握りつぶしただとおおぉぉ……おいおいマジですか?あの子はどっかの暴力団の少年組長さんですか?握撃とかつえるんですか?何でそんな事できるんですか?
「そっちが飛び道具使うんならあたしも使うからね……」
え?先輩?あなたそんな小石を拾ってどうする気?まさか……
「飛ぶ、シガン!!」
“ビュン!!ビュン!!ビュン!!”
先輩!?それシガンでも何でもないよ!?小石を指で弾いて飛ばしてるだけの普通の指弾だよ!?ていうかそれだけでも凄いのに、トカレフの弾より速いってどういうこと!?何でそんな事できるの!?これじゃさすがの玉希ちゃんでもひとたまりも……なくはないか。
「へえ、なかなかやるじゃないか……」
玉希ちゃんったらトカレフの弾丸がんより速く飛んでくる小石を片っ端から扇子で叩き落してやがる。だから、何でそんなことできんだよ!?お前ら一体何者なんだよ!?
「僕に扇子を使わせたのは君が初めてだよ」
おめえどんだけ強いの!?ていうか、その扇子そんなに凄いの!?切り札なの!?凄いのかそうじゃないのか良く分かんねえよ!!
「んだよ。飛び道具は互角か。これじゃらちがあかねえな」
「おーし、じゃ殴り合いにしようぜ。女はやっぱ、拳で語るのが一番早えよ」
頭に血が上り過ぎて自分のキャラを忘れた二人のせいで、どっちが何言ってるのか分からないっていう読者のために補足するね。上が先輩でその次が玉希ちゃんの台詞だよ。ていうか、玉希ちゃん……女の子は拳で語らないと思うよ……
「おもしれえ!!いっちょ、キャットファイトといきますか!?」
「ネコだからキャットファイト!?言っとくけどお前それ全然うまくねえから!!飲み屋の親父レベルだから!!」
「るせえんだよ!!てめえなんか見るからにババアじゃねえか!!調子ぶっこいてっとうめっぞ!!ああん!?」
「上等だよ、やれるもんならやってみろよ!!返り討ちにしてやんよ!!」
さあ、女らしさなんて微塵も見当たらない彼女達の取っ組み合いの喧嘩が始まるぞ。今度はどんな戦いになるのかな?オラ、すげえビクビクしてきたぞ。でも、今回はここまでだ。みんな、次回までちこっとだけ辛抱してくれよな!!