第32話 球根?絶対違うね?
20世紀も年上のクロちゃんに頭を下げられ、玉希ちゃんとお友達になろうとした俺だったが、なんやかんやでプチンときたクロちゃんが放ったNGワードのせいで、玉希ちゃんが徒然荘に住むことを決意して、なぜか先輩を紹介しなくてはいけなくなった。しかも、俺を守ってくれると言ってくれた奴は、余計なことだけしでかして1人勝手に逝ってしまった。玉希ちゃんと先輩を会わせるなんて核弾頭に核弾頭投げ付けるようなもんだよ?これからどうなっちまうんだ?
なんてことよりも俺は今猛烈に気になることがある。というより疑問に思わざるを得ないことがある。それは、徒然荘に向かう俺の50cm後ろを歩く、トカレフを所持した美少女…………ではなく、俺の真横というか足元を歩く黒い毛むくじゃらの超生命体トランスフォーマーだ。
「良平君……本当ごめんよ。おいらのせいで大変なことになっちゃって……」
いや、クロちゃん……この際もうそんな細かいことは許してやるよ……だから一つだけ教えて……
「お前、何で生きてんだよ!!何で普通に話しかけてんだよ!!さっきくたばった上、死体まで遺棄されたやつがどうやって戻ってきたんだよ」
「それはアレだよ。緑色のキノコを食べたから」
緑色のキノコってそれお前1UPキノ……
突っ込むな!!そして気にするな!!前回のアレはこいつの勘違いと俺の見間違いが生んだ奇跡のコラボレーションだ!!別名不気味なイリュージョンだ!!そうだ!!そうに違いない!!だってお前もしあの世にそんなワンナップキノコが生息してみろ?生き返り放題のよみがえり放題じゃねえか!!ていうか、やっぱ気になる!!そんなキノコマジであんの!?生息してんの!?日本の少子高齢化はどうなんの!?
そんな俺のもやもやを吹き飛ばしてくれたのは以外にも後ろを歩く美少女妖怪だった。
「ねえ、徒然荘ってまだ?ぼくもう疲れちゃったよ」
玉希ちゃん……まだ、10分として歩いてないよ?一体君はどれだけわがままなんだい?でも、まあ安心してくれ。これ以上歩く必要はないから。
俺は大げさなリアクションを得意とする外国人のように右手を広げ彼女に言ってやった。
「ここが徒然荘だよ」
後に殺人事件が起こり惨劇の館と呼ばれるアパートだ。
「へえ、思ったより綺麗なんだね……」
「気に入ってもらえて何よりだ」
「それで、さっきからこっちを見てるあいつが藤崎ミイナ?」
俺はその言葉に死ぬほど驚き、玉希ちゃんの指差す方を見た。だが、そこにはミニスカートからのぞかせるあの白いあんよはいなかった。いたのはもっとマヌケな格好をした別の人物だ。
黒いブーツ……ていうかゴム長靴にサツマイモみたいな色のジャージ。頭には麦わら帽子をかぶり、軍手をした両手はスコップを握ってる。
ねえ、天童君……お前いつから農家の人になったの?まあ、俺的にはそっちの方がのどかで安心なんだけど……ていうか玉希ちゃん?
「あのね?あいつは女みたいな顔してるけど男だからね?ていうか今日一回会ってるよね?君に話しかけてきたのあいつだよ?」
「ああ、あの知能指数0のおバカさんか……興味のかけらも無いから忘れてた」
わお……玉希ちゃんったらさり気なくひどいこというのね?
あれ?何か天童の奴が手招きしてるけど何だろう?何か嫌な予感しかしないな。だって、あいつ凄い不機嫌な顔してるもの。あの格好も気になるし取り合えず逝ってみよう。
「おい、天童。お前そんな格好して何やってたんだ?」
「そんな事はどうでもいい!!なんだよ、あのかわいい子は!?あんた、俺にはナンパとかどうでもいいとか言っといてあんなかわいい子をゲットしたのかよ!!」
「いや、そんなんじゃないから……」
「おいおい、しらをきる気ですか?照れてんの?だったら俺にも考えがあるよ?」
「考えって何だよ?」
「テレテ、テッテテー♪デザートイーグル♪」
なんで、お前も持ってんの……何?妖怪たちの間じゃそれがトレンドアイテムなの?
「管理人君、このアイテムはね嘘つきな人間を正直者に変える不思議な道具なんだ」
間違ってねえかもしれないが、正しくもない気がするな。
「さあ、どうなんだ!!正直に言わないとマジで撃つよ!?」
「じゃあ、もうめんどくさいんでナンパでゲットしましたぁ。はい、これでいいか?」
「やっぱり、そうなんだ!!うらやましいな、おい!!大体あんたにはミイナがいるんだからもういいだろ!?それ以上の幸せはいらないだろ!!ちこっとだけおいらに振り込んでくれよ!!この欲張りさんめ!!」
こいつ、超うぜえ……ていうかキャラ壊れてるよ?お前それでいいの?ていうか……
「ふざけんなよ!!お前俺があの後どんな恐い目に会ったんだと思ってんだ!!痛い目にも会ったんだよ!?しかもその元凶はお前だよ!?」
「あんたこそ、ふざけんな!!俺があの後どんな惨めなことしてたと思ってんだ!!とっくに終わったクエストのレベル上げにはまって全員99にしちまったり、その後何かどっかで見たことあるような変なおっさんに押しかけられたり、暇つぶしにガーデニングにいそしんでたりしてたんだぞ!!」
た、確かに終わった冒険のレベル上げほど惨めなものはないな……そして、その後訪れたおっさんは俺が差し向けた野上さんに違いない。まあ、こいつのことだから難なく追っ払っただろう。ていうか、その格好はガーデニングにいそしんでたのね。
「ガーデニングってお前本当に花壇作ったのかよ?」
「ああ、チューリップの球根を植えてたんだ。ほら、アレだよ」
「ほう、チューリッ……………………………………プ?」
俺は天童の指差す方をみた。確かにそこには花壇はあった。だが、チューリップの球根なんてものはない。アレは違う。もう、絶対に違う。一目見れば分かる。ていうか球根というのは地中にあって目に見えるはずが無いんだ。だが、俺には見えてはいけない、見たくも無いものがしっかりと見えてしまう。落ち着いて左から順にもう一度よく見てみよう。
生首(ボコボコにされた野上さん)
生首(ボコボコにされた手下A)
生首(ボコボコにされた手下B)
生首(ボコボコにされた烏丸さん)
ねえ、天童君!!君は一日のうちに一体何回犯罪を犯せば気が済むのかな!?追っ払うぐらいにとどめておいてよ!!何で半殺しにして生き埋めにしてんだよ!!やりすぎだろ!!ていうか何で烏丸さんまで埋めてんだよ!!意味分かんねえよ!!
「おい、天童!!あれのどこがチューリップ!?あんな禍々しいチューリップ見たことねえよ!!」
「チューリップじゃない。その球根だ」
「どっちでもないし、どっちでもいい!!」
「何だよ?何をそんなに怒ってんだよ?何がまずった?」
「そうだな!!周りの視線的なものがまずいな!!あんなもんもしご近所の人が見たらどう思うよ!?」
「そうだな……たぶん……
スライムAが現れた!
スライムBが現れた!
スライムCが現れた!
スライムDが現れた!
ていう風に……」
「思うわけねえだろ!!どこのクエストマニアだよ、そいつは!!」
「いや、3丁目の山中さん奥さんなんか結構なクエスターだから……」
「知らねえよ!!誰だよ、山中さん!!そして、なんだよクエスターって!!ていうかあれのどこがスライム!?色が全然違うだろ!!」
「それは大丈夫。あと12時間もすれば血の気が抜けて立派なスライム色に……」
「なってもらっては困るんだよ!!取り合えず救出するから手伝え!!」
救出作業は天童のバカ力のおかげで快調に進み、ものの1分足らずで全員の上半身を掘りおこすことが出来た。
「おい、おっさん!!しっかりしろ!!生きてるか!!おい!!」
「く、クソガキ……てめえ……はめやがったな……やっぱりあいつの仲間じゃねえか……」
「すまん!!俺もあいつがここまでやるとは思わなかったんだ!!」
「いや、二階から落として……金属バットであたまかち割るような……子だよ?こんぐらいすると……思わなかった?」
「全く持ってあんたの言うとおりだ!!本当謝る!!」
「謝って済むか……もう、意識がもうろうとしてきた……だが、このままじゃ終われねえ……」
するとおじさんは手下の人たちに目配せをした。一体何をする気だ?
「おい、てめえらこのままじゃヤクザもんの名折れだ!!」
「そうですね……」「どうせ死ぬならやることだけはやりましょう」
「よく言った。それでこそ俺の子分だ!!いくぞ!!せーの!!」
合図と共に野上さんは組んだ両手をまっすぐに上へ伸ばし、手下Aは大きな丸を作り、手下Bは上半身をめいいっぱい右に傾けた。よく見ると彼らは人文字を作ったようなのだが、それはつまり……
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おいいぃぃ!!そんなくだらねえシンクロナイズドダイニングメッセージを作る元気があるなら助かろうとする方へまわせ!!もう十分ヤクザもんの名折れだよ!!
――5分後――
どうにかこうにか全員無事救出することはできた。それにしても、野上さんたちが埋められていたのは何となく分かるんだが……どうして烏丸さんまで?
「あんた今度は何やったんです?」
「人聞きの悪い言い方をしないでくれ……僕はただ美樹ちゃんに大人の恋愛とはどんなものかと聞かれ石鹸ランドについて教えてあげてただけだよ」
あの子はまたそんな……どこまでませてるんだよ……ていうか烏丸さん?石鹸ランドって何だよ?ん?あれ?石鹸?石鹸って確か英語でソープだよな……てことは石鹸ランドってのはソープラン……………………
無言でデザートイーグルを渡してくる天童
無言でそれを受け取り構える俺
うろたえるエロ天狗
「あの……管理人さん?ちょ……何するつも……」
「Me・羅、Me・羅、Me・羅憎魔、Me・羅魅、Me・羅魅、Me・羅魅、Me・羅憎魔、Me・羅憎……ち、弾切れか」
「うぅ……」
「しぶとい奴だな。じゃあ次これな。The・悪利苦、The・悪利苦、The・鬼、The・鬼、The・鬼、The・羅鬼、The・羅鬼忌魔、The・鬼、The・羅鬼、The・羅鬼忌魔、The・羅鬼忌魔、The・悪利苦」
「…………」
「よし、動かなくなった」
一仕事終えた俺は額の汗をふき取るとデザートイーグルを天童に返した。
「ダメだよ、天童。ゴミの不法投棄はちゃんとしなきゃ。役人に見つかったらことでしょ?」
「ああ、そうだな。俺も埋めるの手伝うよ」
こうして俺たちはお役人さんにばれないよう生ゴミを地中深くに埋めた。もう、言ってることとやってることは15歳のそれじゃないよね。野上さんもビビッて俺が返してやったブラッディ福澤を置いてすっ飛んでにげたからね。でもね……許せなかったの!!うちの子に変なこと教えようとしたあのバカが許せなかったの!!
「ていうか管理人さんよ。俺ら何の話してたんだったけ?」
天童の言葉で本題というか問題を思い出し、俺はこれまでのいきさつを説明し、玉希ちゃんと先輩を会わせないように協力を求めた。はずだった……けど、天童君は何をどう解釈したのかこんなことを言い出した。
「すると何か?管理人さんはミイナの他にもあんなかわいい子に言い寄られて困っていて、全然女っ気のないもてない俺に浮気がばれないように協力しろと、そういうことだな?」
「全然ちげえよ!!」
「悪いがそんな欲張りさんがどんな目に会おうが知ったこっちゃねえな」
「お願いだから僕の話をちゃんと聞いて!!プリーズ、ヒアリング、マイ、トオォク!!ていうか、あの女はマジでやばいんだって!!何するか全く読めないんだよ!!下手したらマジで俺が殺されるかもしれないんだよ!!」
「上等だ。なんだったら俺が殺ってやろうか?切り刻んで、なぶり殺しにして、抱きしめてやろうか?ピピルピーってな感じによ」
どこの撲殺エンジェル!?それがお前の愛なの!?全然かわいくないよ!!気色が悪いだけだよ!!だってお前は何にも出来ない金属バットでThe・悪利苦かますだけだもん!!普通に恐えよ!!言ってる場合じゃねえ!!
「とにかくあの二人が出会わないように協力しろよ!!」
「そいつは無理な相談だな」
「何でだよ!!」
「いや、もう手遅れだってこと。あれ見てみろ」
「え……」
天童が指差す方を見て俺は愕然とした。そこには美少女妖怪二人が10cmという超至近距離で見つめ合っていたからだ。
おいおい、君たちは女の子同士でキスでもするつもりかな?いや、それならまだ平和でよかったんだが、あのぶちギレた感丸出しの顔はどう見ても違うな。キスをするというよりキルをするって感じだ。見つめ合うというか殺しあう感がいなめないぞ。
いかんな、まずいな、やばいな。出会わせてはいけない二人を出会わせてしまったな。一体これから何が起こるんだろうな……まあ、予想はつくけどね……