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第3話 僕、妖怪と生きます

 近所の公園でブランコに揺られて我が目を疑いたくなるようなオッシー君に我が耳を疑いたくなるようなことを言われた。彼が俺にして欲しいという仕事は出来なくはない仕事だ。というより法的にも十分可能だ。それは特別な資格や技能を必要としないけっこう暇そうな仕事である。ただ、おそらく俺の年でそんな事をやっている奴は日本中どこにもいないだろう。本当かな?……もう一度聞いてみよう。


「えっと……お前はアパ−トの管理人を俺にやれっていうのか?」

「うん!」

 

 まあ、納得のいく点もある。アパートの管理人ということは住み込みになるんだろうから家のある奴には無理な話だな。仕事と家がいっぺんに手に入る今の俺には眉唾物のはなしだが、まだ疑問はある。


「それが何で力仕事?」

「壊れた屋根とか壁とか修理して欲しいから」


 うんうん、業者さんに頼んだらお金かかっちゃうもんね。お前は見た目よりしっかりし過ぎているんだね。


「じゃあ何で毎日妖怪と会うんだ?」

「僕も一緒に住むからだよ」


 お前も一緒に住むのかよ!だがまあ家と仕事をくれるというのだからそのぐらいはよしとするか。


「でもそれだったら仕事がある奴でも出来るんじゃないのか?」

「だって……前の人はいつも仕事、仕事、っていってあんまり遊んでくれなかったんだもん。しかも昨日急に海外出張に行ってくるからしばらく会えなくなるって……」


 そういって寂しそうにうつむくオッシー君。その姿は妖怪というより親に会えない子供のようだ。なるほど。だから今度の同居人は仕事のない暇人がよいと。納得だ。ていうか、こいつちょっとかわいいな……


「じゃあ、何で若くないと駄目なんだ?」

「それは特に意味はないよ。大人より子供のほうが遊んでくれるかな?って思っただけ。だめ?」


 上目遣いで俺を見ながら指をくわえるオッシー君。犬猫顔負けのかわいらしさがあるな。全然駄目じゃないよ。君はかわいいから許しちゃうよ。参ったな、これは新しいタイプの癒し系だ。兄弟のいなかった俺には特に効果大だよ。


「なるほど。それじゃまさに俺はうってつけって訳か……」


 まあ、俺としても願ってもない話だが気になることがある。それは同居人、つまりこいつのことだ。妖怪というからには何か恐ろしい特徴なんかあったりしたら大変だもんな。主に食生活の面で……その……人間を食べちゃう的なこととかね?ほら、こいつかわいくても明らかに見た目が鬼だしね。前の管理人とやらも海外に出張なんてのは大嘘で実はこいつの腹の中へ出張しちゃって新しい餌が欲しかったんだ!なんて言われたら笑うに笑えないよ。

 もしそうじゃなかったとしてもこいつが実はとんでもなく悪い化け物で、世界の滅亡とかありえないことを企んでいて、現在その仲間を絶賛募集中!て言うんなら俺はマッハ3の速さで丁重にお断りするからな。


「なあ話の腰を折るようで悪いんだが、お前妖怪って言うからには何か特殊な能力とかあるのか?」

「うん!親に怒られて押入れに閉じ込められた子供が許してもらえるまで一緒に遊んであげる!だから押入れ童子っていうんだよ」


 ええっと……それは妖怪じゃなくてもできそうだね。あんまり特殊な能力と言っていいものかどうか……ぶっちゃけ俺は押入れというからには未来の世界から来た自称猫型ロボットの青ダヌキが持っている不思議アイテムのような能力を期待したんだが……まあ、性格だけなら人畜無害もいいとこだな。残る問題は食生活!


「じゃあオッシー君。君の好きな食べ物は何かな?」

「オムライス!」


 うん、もうこれ妖怪でもなんでもないね。ただのお子様だね。

 いや、待てよ……?ああ、なるほど……だからこいつは親に締め出された俺の心のケアーに現れたのか……なんだ。結構いい奴じゃないか。捨てる神あればリサイクルに励む妖怪ありだよ。それに比べてあのクソ婆ときたら……ん……


 俺はあの憎憎しいカラフル便箋を手に固まってしまった。よく見るとデテケ以外にも何か書いてあったからだ。

 いや、そりゃそうだよな。いくらなんでも最後にかける言葉がアレだけってことはねえだろ。よし、落ち着いてもう一回読んでみよう。


――――



大特価

卵L玉10個いり1パック98円(お一人様一点限り)

デテケ



――――


 全く冗談きついぜ、うちのマザーは。だが問題はこの後だ!さあなんて書いてあるんだ?「と言うのは冗談です。反省したら戻ってきなさい」的なことかな?どれどれ……


――――



奉仕品

トマトLサイズ一個108円

ソシテ二度ト来ルナ



――――


 mother、mを取ったらother、他人です。


 笑えない……これは笑えないよ、母上様……いや待て、まだ何か書いてあるぞ。「戻って来い」なんて台詞はもう期待してないけどせめて父さんみたいに頑張れの一言は欲しいよ。なになに……


――――



特売品

ほうれん草一束98円

来タラ殺ス



――――


 mother、色々変えたらmurder、殺人鬼です。


「ヘイ、スティーブン!ちょっと聞いてくれよ!」

「どうした、ジェファーソン?」

「マミーが突然俺を締め出したと思ったらこんなメモをよこしてくれたのさ!」

「オーゥ……これはなかなかきついジョークだな!」

「そうだろ。特に最後の一言をよく見てくれ」

「ワーォ、この赤い文字は?」

「イヤァ……CHI・MO・JI!このジョークの一番笑えないところはジョークじゃないって所さ!」

「オーケィ、そんな時はこの万能シュレッダーで嫌な思い出こときり刻んでしまえ!」

「テンキュー!スティーブ!ところでそのシュレッダーいくらするんだ?」

「よく聞いてくれた!こいつのお値段は……なんとたったの……」


 いかん、いかん!ショックのあまり頭の中で無意味にハイテンションな外人のおっさん共がいかがわしい通販番組をおっぱじめやがった!あぶねえ……もうちょっとで頭がおかしくなる所だったよ、ジェファーソン。つうか、なんだよ!あのクソ婆は!?何で最後だけ血文字なんだよ!どんだけマジなんだよ!マジで笑えねえよ!!あいつはジェイソンとフレディのワイルドハーフか!?ああ、何かもう泣きたくなってきたよ!!


 メランコリックブルーどころかダークネスブルーな俺とは違いピュアホワイトの笑みを浮かべる押入れ童子・オッシー君。どうやら俺は彼と一緒に住む以外に選択肢はなさそうだ。


「分かった……その管理人の仕事とやら、引き受けるよ」

「本当に?」

「ああ……」

「やったー!ありがとう!」

「いえ、いえ……こちらこそ……」


 ところでオッシー君……俺の心のケアーに生涯保障って付いてきます?


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