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第25話 ナンパ〜貴様のせいで俺死にそう〜(後編)

 前回は俺の完璧な計画でナンパが成功しそうになったが、天童バカがファインプレーしたおかげで失敗に終わった。そこで俺達は駅横にあるコンビニ前の週射場で作戦会議を開き、場所を商店街に移動して再びナンパしようとことした。



というわけで



 やってきました、商店街。こちらも繁華街に負けず劣らず凄い人ごみだ。さすがに春休みというだけあって、町内どころか市内からも人が押し寄せているのだろう。何せここには八百屋や魚屋、文房具屋、電気店といった商店の他にも、ゲーセン、カラオケ、ボーリングにブティックと若者が行きたがるような娯楽施設も多数あるからな。


「なあ、管理人さん……」

「なんだよ?」

「俺さ、よく考えたら今日始めて同年代の女の子とお話ししちゃった」


 ごめん、天童。そういう悲しすぎる発言は控えてくれ。笑えない。ていうか、あれも会話とは言わない。まあ、いいさ……


「それはおめでとう……」

「ああ、それで自信がついたから今度は俺が声をかけてみるよ」


 後ろ向きに生きるより前向きに生きる方がいい、と人は言うけれどこの場合はどうなんでしょう?間違っていると教えてやるべきか、否か……止めるべきか、否か……いや折角本人がやる気を出しているのだし、ここは彼の意思を尊重しましょう。


「よし、じゃあお前に任せるよ」

「そう来なくちゃ。実はもう狙いを定めているんだ」

「へえ、どの人?」

「あのキレイなお姉さん!!」

「え……あれ……?」


 いや……ちょっと待って……天童君……確かに君の指差した人は飛び切りの美人だよ。でもね、若干問題があるよ。


 しかし、バカが指差した人物は本当に美人だ。黒いハイヒールに黒いパンツスーツ。白いブラウスの胸元は大胆に開放されており、そこからはしっかりと谷間が顔をのぞかせている。きっちりと真ん中で分けられたさらさらのロングヘアーはまるで黄金でできたかのように眩い輝きを放っている。そして、モデル顔負けの整った顔立ちにキリッとした青い目は彼女の強すぎる意思を感じさせる。


 ていうか……あの人明らかにキレてるよね?理由はよくわかんないけどぶちギレてるよね?いや、それ以前にあの人の顔はどう見ても、これ……いや、物凄いポジティブに考えると、通訳とはぐれていらいらしてるファッションモデルのお姉さんだ。ただ、ほんの少しネガティブな方にシフトチェンジすると、明らかに部下がへまをやらかしてその尻拭いをさせられてるロシエン・マフィーアの女ボスだ。ていうか、絶対に後者だ。なぜならこの人ごみにも関わらず彼女の周囲半径5m以内には誰も踏み入ろうとしていない。みんな本能的に危険を感じ取っているんだ。


「なあ、管理人さん。あの人ならOKだろ?俺あの人なら何となくいけそうな気がするんだよ。何かこう同じ臭いを感じるって言うのかな?凄い親近感を感じる」


 うん、だからこそやめてくれ。お前の同類なんてそれもう120%裏社会の人間だから。


「なあ、天童。俺もあんなキレイな人とお近づきになれたら嬉しい……」

「だろ?」

「だが!!あの人は俺たちにとってあまりに美しすぎる!!もう、高値の花通り越して天空の花嫁なんだ!!諦めようぜ!!」

「上等だよ!!男だったらてっぺん目指そうぜ!!」


 んだよ、その無駄な男気は!!なんで熱くなってんだよ!!意味分かんねえよ!!おい、誰かそのバカ止めてくれ!!ついでに息の根も!!でも、もう遅い!!あのバカ話かけちゃった!!


「Excuse me.Do You have a time?(訳:すいません。ちょっとお時間ありますか?)」


 ええええぇぇ!?なにその完璧な発音!?お前英語出来たの!?


「All right.(訳:いいわよ)」


 おお!!こころならずかお姉さんの顔も緩んでるよ。さすが聖学中出身。お前ってやればできる子なのね。これは期待できるんじゃないか?俺は何だか置いてけぼりな感じで少し悲しいけど……


「Can I help me?(訳:私は私を助けることができますか?)」


 I Don't Know!!(訳:しるかボケ!!)いくら俺でもそれはないよ!?何?逆方向に置いてけぼり!?それはそれでやだよ!!ていうか何だよそれ!!何の悪ふざけ?どういう状況でそんな英文使うの!?絶対いらないよ!!


「Oh……(訳:おぉ……日本の教育レベルは低下しているとは聞いていたけど、まさかこれほどとはね……)」


 お姉さんもドン引きじゃねえか!!もういい、天童!!お前は戦った!!そして砕け散った!!もうそれだけで十分だから戻って来いって!!


「ちがったか……じゃあこれだ。I want me.(訳:私は私が欲しい)」


 お前に何があったの!?なんでそこまで自分を見失っちゃったの!?やめてくれ!!もうやめてくれ!!お前のせいで日本人みんながバカだと思われたらどーすんだ!!


「Ah……(訳:あー……ていうか、この子わたしのことなめてる?なめてるよね?)」


 やばいって、おい!!お姉さんの顔見ろよ!!引きつってるぞ!!バカにされたと思ってキレてるよ!!誤解が敵意を生み出してるよ!?


「あ、名前だ!まずは名前を聞かなきゃ。そうそう。Ah……What’s my name?(訳:私の名前は何ですか?)」


 この子、どこの記憶喪失!?お前みたいな奴がいるから俺たちゆとり世代がバカの代名詞みたいに言われるんだよ!!全国の同世代にDo gezaしやがれ!!ていうかこいつの中学の英語教師はなにやってたの!?まさか仕事をしていたなんていわねえよな!?だったら即クビにしろ!! そして二度と教壇に立たせるな!!


「……(訳:殺そ……)」


 まずいいぃぃ!!お姉さんの敵意が殺意にクラスチェンジしちまった!!あの女完全に殺す気だよ!!だってあの目は昨夜未明俺を拉致ったブシュルワアアァァさんと同じ目だもん!!いかん!!ここは俺が何とかせねば!!


「おーい、天童!」

「あ、管理人さんも手伝ってくれよ。やっぱり、何か言葉が通じてな」「The・悪利苦!!」


“ゴツ!!”


「……」

「よし、動かなくなった」


 周りの視線も痛々しかったので俺はとっととバカを担いでその場を後にしようとした。しかしお姉さんの方はまだ、俺に用があるらしくにこやかに話しかけてくれた。


「Hi boy. Do You have a time?(訳:ねえ、僕。ちょっと、いいかな?)」

「ノオオォォ!!!!!!!(訳:断じて断る!!こちとら、火急の用があるんでい!!てめえみてえな、拳銃でルーレットするクレイジー一族のやっちゃんを束ねる女ボスとなんか関わってられるかってんだよ!!)」


 俺の返答は間違ってはいないはずだ。あんな明らかに見た目マフィアの女が殺気を放ちまくっていたら逃げるのが正しい判断だ。決して関わってはいけない。



 というわけで俺たちは商店街から少し離れた公園へと避難した。しばらくすると天童も気がついた。


「うぅ……」

「よお、天童。気がついたか?」

「ああ……ていうかいきなりなにすんだよ。俺が鬼じゃなかったら普通に死んでたよ。殺人事件に発展してたよ」

「ほざきやがれ、殺人鬼。貴様にそれを言う資格はない。ていうか、もうお前帰れ」

「ええー!!なんでだよ!!折角うまくいきかけてたのに……もうちょっと頑張ろうぜ!!」

「だまりやがれ。ていうかナンパとかもう本当どうでもいいんで、お前といたら裏社会に足踏み入れちまうから。お願いだから帰って」

「ち、しゃあねえな……分かったよ……」

 

 ぶつぶつと文句を言いながらもバカは帰ってくれた。あいつといたんじゃ本当に命がいくつあっても足りない。俺は1人でブランコに揺られながらこれからどうしようか考えることにした。

 けど、本当どうしよう?あいつナシじゃナンパは無理だしな。こんなダサ男についてくる女なんて……


いた……


ここに……


「Hi boy(訳:よう、アンディ。元気してたか?)」

「う……ウソだろ?」


 俺の目の前にはさっきのお姉さんがいた。しかも殺気むき出しで。その上、チャッキーの名台詞……

 やばいな。うん、すこぶるやばい。だって顔中に血管が浮き出てるもん。これもうマフィアじゃねえよ。新種の妖怪だろ?でもな……逃げられないんだよ。そんな事出来るわけないんだよ。別に俺が碇さんとこのシンジ君だからじゃないよ。このお姉さんがね……


“ガチャ”


 っていう効果音と共に俺に黒光りするドライヤーみたいなものを突きつけてるんだよ。まあ、みんなにはそれがなんなのか、なんてもう丸分かりとは思うがここはコメディらしく青ダヌキ風に言ってみるね?


テレテテッテテー、トーカーレーフー♪

 良平君、この道具はね旧ソビエト連邦陸軍が1933年に制式採用した軍用自動拳銃だよ。主な使用目的は殺人さ。って笑えるか!!


 冗談じゃねえ!!ここはもう逃げるしか……


「Freeze(訳:動くな)」

「オフコース(訳:もちろんです)」


 間違ってないよ。だってこの状況でノーとかシーユーとか言える奴がいたら紹介してよ。即効でマジカルチェンジしてやるからよ!!


 おいいぃぃ!!何だよこれ!!何の罰ゲーム!?天童の犯行をなかったことにしたから!?だって忘れたかったんだもん!!ていうか何でマジチャカ突きつけられなきゃいけないんだよ!!俺が何したんだよ!!あんたを怒らせたのはあのバカでしょ!!あいつを狙えよ!!そして殺せよ!!あいつならたぶん死なないから!!


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