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第23話 ナンパ!〜ウォーミングアップ〜(前編)

 前回のあらすじ……過去に縛られるな。前を向いて生きていけ。


 さて、なぜか不思議なことにふところがサハラ砂漠のようにホカホカになった俺と天童は繁華街にやってきた。この繁華街は最近開発された駅前一等地で、こんな僻地へきちにまで進出してきた変わり者の大型デパートを始め、真新しいキレイな映画館、雑居ビルとは違い洗練されたデザインのオフィスビル群、さらにはスポーツジムまである、この町内で不自然なまでに都市化が進んだ一画である。ちなみに商店街の人々からは「エネミーゾーン」という愛称で親しまれている。


 そんな、おしゃれでモダンな繁華街だ。当然、物凄い数の人が集まってくる。今は春休みだしな。そして、おしゃれでモダンな一画だ。当然、やってくる人は、おしゃれでモダンな今時の女の子達♪そんな人たちがいて、お金持ちになっちゃった僕たちがいる。そしたらやることは一つだよね。それはね……


「な、ナンパ!?」


 駅前広場にある変なモニュメントの前で、俺の横に座っていた天童は素っ頓狂すっとんきょうな声を上げて驚いた。

 何をそんなに驚くと言うのだ?こんな町にわざわざお越しくださった女の子たちがいる。それもたくさん。そして、お金がある僕たちがいる。さらに、この町に詳しい僕たちがいる。そこはエスコートするのが紳士としての礼儀であろう?


「いや、でもよ……勝手に金使っていいのか?生活費に使うんじゃ……」

「お前はバカか?いくらオッシーがエンゲルの化身だとしてもミリオン諭吉はいらん」

「いや、俺達の取り分は4000万ぐらいしか……」


 しか、の使い方を知ってて言っているのか?ていうか、どっちにしてもそんなにいらん。余裕で大量に余る。需要を遥かに上回る供給量だ。少しばかり使ってもバチはあたらんだろ。


「いや、でもよ……俺……実は恋人がいるんだ」

「ふーん……」

「あれ?驚かないの?」


 まあね。そのツラだ。彼女の2,3人はいてもおかしくないだろ。それよりも驚きなのは、女の子と会話したことがない、って言ってた奴がどうやって恋人を作ったかってことだよ。


「どうせ、妄想だろ?」

「いや、だからあれは学校の女子と話したことがないってだけで、その人は年上の女性だよ」

「ふーん……じゃあ、なんて名前?」

「管理人さんも知ってるかも知れないけど……藤崎あかねさんだ」

「…………は?」

「いや、実はね、アメリカに海外出張に行く前に、なんかあったら電話してね、って番号教えてもらっちゃったんだ」


 何恥ずかしそうに恥ずかしい妄想語ったんでだよ。そんなの一秒で壊してあげるよ?


「あ、悪ぃ、天童。俺も知ってるから」

「えええええぇぇぇぇ!?」

「ていうか、昨日三回ぐらいかけた」

「ちょ、ま、えええぇぇ……いや、でも、あの、俺……え?三回?マジ三回?え?俺一度もかけたことないよ?」


 どんだけ驚いてんだよ。こっちが驚きだよ。まあ、そんなバカなもうそうは捨てて現実を見つめようぜナンパしようぜ


「うん……」

「何だよ?テンション低いな」

「いや……何でもない。ああ、何でもないさ。気持ちを切り替えてこう。ナンパだな……」


 何で半泣きにになってるんだよ……


「よし、じゃあ俺に任せてくれ……」

「おい、天童。何か顔が死んでるけど本当に大丈夫か?」

「大丈夫、大丈夫。そうだな……」


 さて、天童君はどんな子に声をかけるのかな?やっぱり同世代の女子高生?いや、少し大人な女子大生もいいぞ。だが、待て。大人の色気漂うオフィスレデーも捨てがたい!お、ロックオンしたようだ!さあ、どんな子だ?


「ちょい年上なあの人!あの人ならいける気がする!」

 

 果たして、天童君が目をつけた女性は……………………え?えっと?天童君?君が指差している方向にはどう見ても80代後半の杖をついて歩いてるおばあちゃんしか見えないんだけど……


「まさか、あれじゃないよね?」

「あれだよ?」

「イズ、シー?(彼女ですか?)」

「イエス、シー、イズ(はい、彼女です)」

「オー、The!(よし、くたばれ!)」

“バキ”

「ノー!(ちょ、何すんだよ!)」


 うるせえ。てめえが訳分かんねえこと口走ったから復活の呪文でよみがえらせてやっただけだ。


「今のは死の呪文だったよね!?」

「やかましい。どっちにしても効果は同じだ。ていうか!お前真面目にやれよ!」

「真面目にって言われてもよ……俺女の子となんか話せねえよ……それも見ず知らずの……」


 まあ、ぶっちゃけお前が女の子に声をかけるなんてできないことぐらい分かってたよ。はっきり言ってただの嫌がらせだからね。もっと言えば前回の復讐だ。だが、それ以外にも目的がある。まあ、目的と言うよりも興味だがな。


「なあ、天童。いきなり声をかけろなんていわねえよ。そんなの無理だろ?」

「ああ……はっきり言ってできない」

「分かってる。だからまずは、どんな女の子がいいか狙いを定めろ。それぐらいならできるだろ?」

「うーん……」

「難しく考えるな。軽いウォーミングアップのつもりでさ」

「まあ、それだけなら……そうだな……」


 よし、これで天童の趣味が一発で分かる。さあ、どんな女だ?まあ、年上好きって言ってたから、OL風のお姉さんかなんかだろうか?それとも人妻風のおばさんが趣味だったり……


「あ!あの子たち!あれマジでかわいくね?」

「え、あれ?」

「何だよその残念そうな顔は……?」

「いや……別に……」

「え?あの子たちってあんまりかわいくないの?」

「いや、そんなことないよ。むしろかわいいよ」


 けどね……なんか普通……


 天童が指差した女の子達は、カジュアルな私服をおしゃれに着こなしている二人組みの……まあ、見た目からして恐らく女子高生だろう。駅前で記念写メを撮っている事から、たぶん観光客だ。今は春休みだからそういう人は結構来ている。が、他にも面白いところはあるだろうに……なぜ、俺達の町に?そのセンスはいまいち理解できん。


 ていうか、天童!!誰がそんな普通にかわいい子を指差せって言ったよ!!そこはもっとありえない変顔ガールをチョイスして読者を楽しませるところだよ!?さっきのおばあちゃんみたいにさ!!なんでこういう時だけ普通の男の子!?空気読めよ!!なんか腹立つよ!!まあいい……


「よし、それじゃ、お前はあんまり喋るな。無口キャラでいけ」

「は?何言ってんだよ?」

「ああ、いいから、いいから」


 俺は天童の腕を引っ張りながらその女の子たちにぐんぐん近づいて行った。


「おい、管理人さん!どうする気だよ!」

「あん?決まってんだろ?ナンパすんだよ」

「ちょ、待てよ!だから、俺そういうのは無理だって!!」

「分かってるって。だから俺に任せとけ」


 さあ、復讐パーティーの始まりだ。

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