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第17話 スマイル

 裏山神社からの帰り道。人工の光がちらほら見えるようになったが、相変わらずあたりは暗い。頼りない街灯ともっと頼りない月明かりが照らすのは、俺の(たぶん)疲れきった顔と天童のしかめ面だ。こいつはこんな顔しか出来ねえのかな?


「お前ってさ、いつもそんな顔して疲れないの?」

「そんな顔……?俺どんな顔してたんだ?」

「うーん……しかめ面?」

「普通にしてたつもりなんだけどな……」


 そうなのか?明らかに不機嫌なようにしか見えなかったんだけどな……ある意味無表情キャラなのか?ん?いや、待てよ……

 藤崎さんはこいつが人を寄せ付けないみたいなことを言ってたけど、本当は周りの奴らが勝手に近づかなかっただけじゃ……だとしたら、悲しすぎるよね。よし、ここは俺がなんとかしてやろう。そんなことぐらいなら俺にもなんとかできるだろうからね。


「なあ、天童。お前ってもっとこうニコヤカな顔はできないの?」

「うーん……」

「スマイルだよ、スマイル。マックでお馴染なじみのあれさ」

「いや、そんなもん注文したことねえよ」

「いいから笑ってみろって。ほら、さんはい」

「えーと……こんな感じか?」


 げ……


「ごめん……やっぱいいや」


 なんでそんな事を言うかって?簡単さ。彼のスマイルはマックでお馴染みのあれとは違い、悪の軍団の親玉が正義のヒーローを追い詰めた時に見せるソレだったからだ。しかも、この薄暗い街頭が絶妙な演出をかもしだし、俺の恐怖を増長させた。分かりやすくいうと懐中電灯でよくやるあれだよ。ぶっちゃけ、化け猫モードの先輩の方がかわいかったね。さて、どうしたもんかな……


 話題のなくなった俺たちは閑静かんせいすぎる夜の住宅街を練り歩いていた。正直会話がないと苦しい……ていうか、話してないとなんか気持ちが悪いんだよ。落ち着かないっていうか、なんていうか……ほら、雰囲気で過ぎなんだようちの町内。普通に肝試しコースだよ。アレなんかマジで幽霊とか……ん?


 俺は偶然目に入ったある建物を見て新しい話題を思いついた。ていうか、こんなもったいぶった言いかたしてもなんの意味も無いから、ぶっちゃけ言うと俺の通ってた中学だ。


「お前ってさ、妖怪だけど学校とかって行ってたの?」

「ああ、自分が妖怪だって気づいたのは中一の時だし、それからも学校には普通に行ってたよ」

「へえ……」


 ちょっと以外だな。俺はてっきりなんとか一族の里みたいなところに生まれて、一族の奥義を伝授されるべく日々修行に明け暮れる毎日を送っているのかと思ってたのに……だが、この際そんなことはどうでもいい。この歳で、すなわち中学を卒業したばかりの男子二人がする話題と言えば一つしか思い当たるまいよ。


「お前って」「あんたって」

「「どこ中?」」


 俺たちはほぼ同じ質問を、ほぼ同じタイミングでした。これは重要な問題なんだよ。もし、こいつが隣町のアレ中とか、逆隣のソレ2中とか言い出したら、命を助けてもらった恩は一旦脇に置いといて、俺は徒然中学出身としてこいつをぶん殴らなきゃいけない。うん、それぐらいうちの中学ってよその中学とが仲が悪かったの。ついでに頭とガラもね。

 天童は気まずそうな顔(て言っても相変わらずのしかめ面だけどな)で、もじもじするだけで答えそうにないから俺から答えよう。


「俺は徒然中だよ」

「ああ……あそこか……」


 なんかこいつの視線に凄い同情の念を感じるんだけど……何?俺の中学ってそんなにひどいことで有名なの?ていうか、やめて。同情なんてしないで。逆にみじめな気分になるから。同情するならお金ちょうだい。


「で、お前はどこ中だよ」

「東中出身……」

「おーい、ただの人間に興味ないあの人のモノマネはいいから。お前がやっても気持ち悪いだけだから。ていうか、この辺にそんな中学ねえよ」

「あ……あの、俺は聖城学園中等部」


 聖上学園中等部。県内どころか国内でもトップクラスの私立中学で、もう中等部とか言ってる時点で普通の中学とは一線がひかれてるわけで、選ばれしエリートか気持ちの悪いセレブぐらいしか行けないところなわけで、中川さんとか麗子さんが通ってても不思議じゃない学校なわけで、俺の中学の奴らがそんなところに戦争を仕掛けようとしてもそれは幼稚園児が爪楊枝つまようじ持って宇宙戦艦に立ち向かうようなもので、たとえ勝てたとしても逆に猛烈な悲しみに襲われるわけで……うん……そうだね……


「へえ、天童さん・・ってお金持ちなんだね?」

「いや、俺の実家は金持ちじゃねえよ。普通に勉強して行っただけだから。何か変な噂流れてるけどあそこも普通の中学だからね。ていうか、普通に喋ってくれればいいから。なんだよ、天童さんって……」

「うわぁ、凄いな天童君は。あの天下の聖学を普通だなんて。バカな僕はちょっと悔しいな。ねえ、殺してもいいかな?」

「それ全然ちょっとじゃねえよ!!」


 顔がよくてケンカも強くて頭もいいなんて反則だろ、それ。


「お前のことだ。彼女の10人や20人なんて当たり前なんだろ?うらやましいね」


 俺が皮肉と嫌味と嫉妬と憎悪とありとあらゆる負の感情を込めてつぶやくと、天童君はおかしなことを言い出した。


「そうだね。中学時代は100人いたよ」


 ごめん。ありえない。そのウソは小学校低学年でも引っかからない。ていうか、いくらフィクションのコメディでもその数字はバカげてるよ。


「実際はどうだったんだよ?」

「え……だから100人……」

「それはもういい。でもその面だ。1人や2人の唇ぐらい奪ったんだろ?」

「…………」

「うん?天童君?」

「俺……女子とキスはおろか手もつないだことがない。ていうか会話したことすらない……」


 おっと、ここに来て突然悲しいカミングアウト。義務教育って確か基本共学だよね?どうやったらそんな悲しすぎる神業できるの?俺でも女子の友達はいたよ?


「いや、待て。それはありえないだろ。だって、ほら体育祭の時とかフォークダンスで手をつなぐだろ?」

「顔が女子みたいだって理由で女の列にまわされた。だから男としか踊ったことがない……小学校も中学校も……」


 きゃあ……地雷を踏んじゃった。


「あ、そう言えば俺女子どころか男子とも会話した記憶ないな……友達いなかったから……」


 踏んだ地雷は核弾頭!!


 重すぎる!!そんなへヴィーな問題金パチさんでも手を焼くよ!?俺にどうしろってんだよ!!あれ?ちょっと、待てよ……


「なあ、天童?お前って前の管理人さんのこと避けてたみたいだけど……それってもしかして、人とどう接していいか分からないからとかそういうんじゃなくて、ただ単に女の人が苦手なだけとか言わないよな?」


 おい、こっちを見ろ。何だその滝のような汗は。


「あ、あの……そのだな……それはほら……いわゆる何ていうか…………………………悪ぃかよ……」


 認めやがったよ……


「いや、待て。お前って先輩とは普通に話せるんだよな?何で藤崎さんはダメなんだ?」

「ああ、ミイナのこと?俺の中ではあいつは女として認識してないの。バカだし臭いし面倒くさいし。まあ、簡単にいうと好みじゃないないんだよ。俺って年上キラー(になりたい男の子)だから」


 すまん、天童。お前がキラーとかいうと別の意味っていうか素の意味で受け取られる可能性があるからそこは年上好きにしといた方がいいぞ。


 しかしまあ、藤崎さんを避けてたのはなんというか間の抜けた理由だな。嫌っていたどころか、むしろ好意すら抱いていたんだから。ちなみに、後でこのことをこっそり藤崎さんに報告すると彼女は「ヌハハ」という独特の笑い方ではなく「ブヒャヒャヒャヒャ!!」と大爆笑してから「天ちゃんかーわい」と言っていた。俺もその時は一緒になって笑っていたが、この時は笑えなかった。

 だって天童君たら、「あの時フォークダンスで女子の列に周るよう支持した体育教師は、その後行方不明になって未だに遺体・・は見つかってないんだ」なんて笑えないギャグを真顔で自信満々に語るお茶目さんだもん。笑えるわけがねえ……

 

 そんなこんなで楽しい談笑も尽きないところだが、時間はすぐにたち俺たちは徒然荘に帰ってきた。その時、一階の蛍光灯が照らした天童の顔は……いや、ひょっとしたら俺の見間違いかもしれないけど、何だかごく自然に笑っているような気がしたんだ。

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