第15話 目覚めなかった力
緊急事態発生中につき前回のあらすじを手短にする。買い物帰りに化け物にでくわした。以上。
さあ、どうする?ていうかどう考えても無理だろ!勝てる勝てないの前に確実に死ぬだろこんなの!言ったでしょ!?俺は運動神経ゼロ!喧嘩に自信なし!ゆとり教育じゃ暗殺拳は習わない!ってさ!何一つとして勝てる要素ないじゃん!こっちはまだレベル1なんだよ!ヒノキの棒も手に入れてないんだよ!?
こんなもん初心者の館で「まずは腕試しじゃ」とか言っていきなりラスボスとガチンコバトルできる裏技みたいなもんだよ?全然ありがたくねえんだよ!!製作者サイドの意図が読めねえよ!もうただの悪ふざけかいたずらにしか思えねえよ!!
いや待て!まだ、戦うと決まったわけではないぞ!こいつだって見た目がケンタウロスでも!武装してても!殺気チックなオーラがあふれ出していても!人間を見た目で判断しちゃいけないように妖怪……じゃないかもしれないけど!何かよくわかんないけど!!こいつだって見た目で判断しちゃいけない!話せば分かるかもしれない!心が通じるかもしれないじゃないか!!よし!そうだと仮定してまずは挨拶だ!
「こんばんは。あの……俺、加茂良平っていいます。あなたのお名前は何ていうんですか?」
「ブシュルワアアァァ!!」
「へえ……素敵な名前ですね……」
どなたか通訳をお願いします!!何だよ、これは!?話どころか言葉が通じてねえよ!!ブシュルワアアァァなんて名前ありえねえだろうが!!百歩譲ってそれが名前だとしたら名付け親のネーミングセンスを疑うね!!もしこいつが荒れ狂ってる理由がそれならこいつの代わりに俺がその名付け親をぶっ殺してやるよ!!
何てこと言ってる場合じゃねえな。何か近づいてくるもん。モビルスーツの足音で近づいてくるもん!やべーよ、マジで殺されるよ!次回から霊界偏か!?冗談じゃねえよ。まだ15歳だよ?それは早すぎるだろ!!まだ、録に恋愛だってしてないのにそんなのねえよ!!そうだよ、こんなとこで死んでたまるかよ。俺は主人公だよ?こんな時は都合よく隠された能力とか発動してピンチを切り抜けるんだろ?そういう展開なんだろ?うん?ウソでもいいからそうだと言ってくれ!!よーし、そうと決まれば戦闘コマンド開けゴマ!
――りょうへい――
たたかう
にげる(不可)
しょうかん
とくぎ
アイテム
―――――――――
マジかよ!!冗談で言ったら本当になんか出た!!でも、何で逃げるが不可なんだよ?こいつはボスキャラ?いや、それよりも注目して欲しいのはその下の素敵アビリティだ。しょうかんってなんだよ?俺いつの間にそんなの習得したんだよ。そんなのアリか?いや、アリだろ!だって相手はボスキャラなんだもん!自力じゃ無理だ!お前達の力をかしてくれ!さあ、我がしもべたちよ、今こそ……
――しょうかん――
暗黒龍スティーブ
説明:50ドルを支払うことにより闇のアイテム「走馬灯」を購入できる
魔竜王ジェファーソン
説明:100ドルを支払うことにより三途の川を渡るアイテム「あひるさんボート」を購入できる
ツインドラゴン
説明:暗黒龍と魔竜王、夢の共演。500ドルを支払うことにより召喚者とともに3人仲良くゴートューヘル!
―――――――――
引っ込んでろおおぉぉ!!何でよりによってあいつらなんだよ!!何で暗黒龍とか魔竜王とかたいそうな名前ついてる割にはろくでもない効果しかないんだよ!!大体なんで全部有料!?ドルなんか持ってねーよ!!円もあんまりねえよ!!金払ってまで走馬灯なんか見たかねえよ!!いらねえよ!!あひるのボートなんかで三途の川渡りたくねえよ!!恥ずかしいよ!!ツインドラゴンなんてただの無理心中じゃねえか!!人を巻き込むな!!てめえらだけで勝手にゴートューヘルしてろやボケエェェ!!
こんな自爆技どころか自滅技しかないアビリティはいらない。他力本願な考えはすてよう。やはり己の生きる道は己の力で切り開いていくしかないんだ。と言うわけで、素敵アビリティその2・とくぎオープ……
――とくぎ――
泣き
喚き
そして
死ぬ
―――――――
閉じろおおぉぉ!!何だこのクソ特技は!!クソの役にもたたねえよ!!大体これ明らかに一つの文章だろうが!!4つに分ける意味が分からねえよ!!あと「泣き」、「喚き」、「死ぬ」、はまだ何となく効果が分かるけど、「そして」って何だよ!?「そして」って!!なんで接続詞がひとつの特技として成立してんだよ!!何なんだよ!?どんな効果があるんだよ!!手短に説明しやがれ!!
――MPを5消費。お腹がすっきりする――
クソったれええぇぇ!!クソの役には立つんだな!!ていうか、なんでわざわざ戦闘中にMP使ってまでする必要があるんだよ!!そんなにクソがしたけりゃトイレに行けよ!!トイレがなけりゃその辺でたれてろ!!
ダメだ!!もう残された選択肢はアイテムしかないぞ。アイテムったって俺が持ってるのは天童へのナポレオンと卵……そうか!こいつの弱点が卵なんだ!!きっとそうだ!!もうそういうことしとこうよ!!頼むから!!
俺はすがるような思いで化け物に卵を投げ付けた。
“べちゃ”
情けない音と共に卵黄と卵白が化け物の顔面からしたたり落ちる。一見何の変化もないように見えたが確かに効果はあった。それは変化というより奇跡に近かった。
「ご、ご……ゴロオオオォォス!!」
――なんとモンスターがしゃべれるようになった――
全然嬉しくねえよ!!やっと意思の疎通が図れたと思ったら第一声がこれかよ!!ふざけんなよ!!そんなのしゃべれる前から見え見えだったよ!!
こうなったら仲間を呼ぶしかねえ!!他力本願だろうがなんだろうが生き延びるためにはなんだってやってやるよ!!
――良平は仲間を呼んだ――
「どなたか!!お客様の中にメタルキングの剣を装備した勇者様はいらっしゃいませんか!!」
――しかし誰もこなかった――
来るわけねえだろ、そんなの!!それ以前にいねえよ!!つーか、なんで客室乗務員みたいな言い方になってんだよ!!パニくってるにもほどがあるだろ!!
こうなりゃ逃げるが勝ちだ。ていうか逃げるしかねえよ!!最初からこうしてりゃよかったよ!!
――逃げることは出来ない!――
うるせい、バーカ!!人間ってのは不可能を可能にして大きく成長する生き物なんだよ!!人類はそうやって進化してきたんだよ!!たぶん、そうなんだよ!!そうと決まればダッシュ!!あ!!
――良平はつまづいた――
言われなくても分かってるよ!クソ、ホラー映画でお決まりのパターンじゃねえか。やべえ、化け物が近づいてきやがる!早く逃げな……
“グキ”
おい、ウソだろ?勘弁してくれよ……なんでこんな時に足くじいてんだよ……何なんだよこれ?神様、あんたそんなに俺に死んで欲しいのか?俺が何したっていうんだよ?んだよ、この化け物は?何、斧なんか振り上げてんだよ……なにする気だよ?ああ……分かったよ……諦めたよ……
もう、助からないと思った俺は神様とやらに最後の願いをした。どうせ死ぬんなら苦しまずに殺してくれ。って……そして、そっと目を閉じた……
さよならオッシー
さよなら美樹ちゃん
さよなら先輩
さよならパパ、ママ
……
…………
………………
あれ?何か長いな?何でだ?もう死んだのか?いや、そんな感覚なかったぞ。感じる間もなく死んだのか?目開けたらわかるかな?でも目を開けるの恐いな。そこがお花畑だったりした……でも開けないと分かんないしな……
俺は勇気を振り絞り、目を開いた。そしてその目を疑った。
黒いブーツに入れたぴったりフィットのジーンズ。Tシャツの上に羽織った大人っぽい感じの黒いPジャケ。背中までながれる黒い髪。胸はあんまりないものの顔はモデルのような美人だ。その女は信じられないことに片手でヒートホークを受け止め、涼しい顔でタバコをふかしながら俺を見ていた。そして俺と目が合うとにやりと不敵な笑みを浮かべ言った。
「よお、管理人さん。目ぇ、覚めたか?」
「いいいぃぃ!?」
その声と背中に背負った代物で俺はやっとその侠客が何者か分かった。全く神様も粋なことをしてくれるもんだぜ。こんな土壇場でメタルキングの剣・イントゥー・ゴルフバックした隣の裏ボスを呼んできてくれるんだからな。