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第14話 命がけのオムライス

 先輩の部屋を片付けてリフォームして、彼女の心のケアーをしてあげて、ついでにストレスの解消にも一役買って、という事の顛末てんまつを藤崎さんに報告した俺はやっと新しい我が家へ戻ってきた。


「ただいま……」

「遅い!!」


 ドアを開けてまず目に飛び込んできたのがかなりご立腹のオッシー君だ。まあ、無理もないか。本当はこいつの遊び相手になるのが条件でこのアパートの管理人をさせてもらうはずだったのに、その第一日目のほとんどが先輩のために終わってしまったのだからな……


「ごめんな……」

「謝っても許さないよ!」

「そう言うなよ……」

「ダメ!罰として今日の晩御飯はオムライス!」


 聞いた?罰がオムライスを作ることだって。何てかわいいんだろう。そんなかわいい罰なら良君いくらでも聞いちゃうよ。これがもし先輩だったら「シガン!」になるからね。本当、笑えない……一緒に住む妖怪がオッシーと美樹ちゃんだけでよかった……


「それじゃお詫びに今日は腕によりをかけておいしいオムライスを作ってやるからな」

「やったー」


 ふふ、こんなに喜んじゃって。本当小さい子供ってかわいいな。マジで癒されるわ。マジで壊されかけた直後なだけに……

 まあ、オッシーはそれでいいとして美樹ちゃんは何がいいんだろう?やっぱ和食かな?


――――――



別なもの作っちゃうと手間がかかっちゃうでしょ?

あたしもオムライスでいいよ。



――――――


 いい子だ……お母さんの苦労を分かってくれるいい子だ……あれ?俺、お母さん?いや、まあ、それはいいか……さて、二人はそれでいいとして残る問題児は…………え……


「うーん、ミイナはどうしよっかなー……」

「へ……?」


 何で先輩がここにいるの?俺があなたの部屋を出る時まだそこにいましたよね?なのに何でここにいるの?何で俺より先回りできるの?瞬間移動?ひょっとして瞬間移動?実は戦闘民族?


「そんなことしないよ。二階の窓から飛び降りてそこの窓から入ったんだよ」

「あなたはどこのジャッキー!?ていうか勝手に人の心読まないでくれます!?すごい恐いから!!」

「はーい。ああ、ミイナは管理人さんの作るものなら何でもいいよ」


 う……その言い方はちょっと……うれしいかも……

 

 そんな事を考えていると美樹ちゃんがまた一枚のメモを手渡してきた。何だろう?


――――――



すごいね。お姉ちゃんがこんなに心を開いた人はお兄ちゃんが初めてだよ。



――――――


「うーんとね……客観的に見てどう映ってんのか知らないけど、アレは心を開いたというより別の世界の扉を開きかけたって言う方が正しいよ。しかも俺の」


 またなんか渡してきた。今度はなんだ?


――――――



で、Bまではいったの?



――――――


「行ってないよ。ただ、三途の向こう側にはちょっと行きかけたけどね。ていうかこの大ケガした俺を見てどうしてそんな風に思えるの?フルボッコにされたんだよ?ちょっとは心配して欲しいんだけど……」


 さあて今度は何だろう?


――――――



だって、烏丸さんが「大人はそういうお遊びもする」って言ってたから



――――――


 エロ天狗うぅぅ!!てめえ、何、子供にろくでもねえ事教えてんだ!!何で S極とN極を教える前にSとMを教えてるんだよ!!どう考えても順番がおかしいだろうが!!もう二度とうちの子に近づかないで!!


「あのね、美樹ちゃん。烏丸さんに教えてもらったことは全て忘れなさい。あとあの人にはもう近づいちゃいけないよ。それから何で俺と先輩をくっつけたがるの?」


その質問に対しての答えは以下のようなものである。


――――――



リアル月9がみたいから



――――――


 お子様でも立派な女の子!ていうか君本当に歳いくつ!?


――――――



ヒ・ミ・ツ



――――――


 やっぱそう来るか……まあ、それはさておき飯の支度を始めよう。


 ご飯に鶏肉、ハム、ニンジン、玉ねぎ……はナシだな。ネコにとって玉ねぎは猛毒になるから先輩のためにこれは除去。ピーマンは……オッシーの奴食べれるのかな?


「おい、オッシー。お前ピーマンは平気か?」

「うん、大丈夫だよ!」

「……」

「どうしたの?」

「いや、何でもない……」


 実は今のやり取りでちょっとだけ母さんのことを思い出しちまった。といっても俺がクソババアと呼ぶだいぶ前のことだ。


――今から10年前――


 あんなクソババアでも俺がまだ小さい頃は違ったんだ。外が暗くなるまで遊んで、腹をすかせて帰ってきた俺は母さんに飛びついた。


「ねえ、ママ。僕おなかすいちゃった。ご飯食べたい」


 俺もこの頃はかわいかったね。あんなクソババアのことを「ママ」なんて呼んでたんだからな。まあ、そのママのほうも今とは少し違っていた。俺の頭をなでながら母さんはこう言ったんだ。


「だまれ、小僧!!」

「ママ……?」

「お前にサンが救えるのか!?」

「いや……サンじゃなくてご飯……」

「だまれ、小僧!!」

「ごは……」

「だまれ、小僧!!」

「ご」「だまれ、小僧!!」

「…………」

「だまれ、小僧!!」

「今、何にも言ってなかったよ!!」

 

 母さんは……


 母さんはジブリが大好きだった。だから、俺は自分でご飯を作るようになった。ついでにババアとジジイの分もな。


――――――――――――


 いらねえだろ、この回想シーン!!今のオッシーとのやり取りと関連性が全く見出せねえよ!!何で思い出したんだよ!!てゆうか何だよあいつ!!今も昔も変わらずクソババアだよ!!何でジブリ!?何で物の怪!?ジブリが大好きだからご飯を作るようになった!?意味が分かんねえよ!!もう、こんな回想やめてくれ!!頼むから忘れさせてくれ!!何だったら無理やり設定捻じ曲げてでもいいから、俺に両親はいなかったことにしてくれ!!


 さて、小さい時に事故で亡くなった両親のことはさておき、俺は再びオムライスの準備をすることにした。オムライスといえば主役は卵。洋食屋さんで出てくるようなふんわりとろとろオムライスを演出するには一皿に3個は使いたい。しかし4人分ともなると12個も必要になる。すると当然……


「卵が足りないから買いに行ってくるわ」


 となる。まあ、当然のごとくオッシーからはブーイングの声が上がった。


「ええー」

「すぐに戻ってくるよ」

「30分以内だよ!」


 了解であります。オッシー隊長。このアパートからスーパーまで歩いて10分。30分もあれば余裕であります。と心の中で敬礼をして俺はアパートを後にした。


 取り合えずスーパーへ来た俺は、卵3パックとついでに天童へ引越しの挨拶の品として名酒ナポレオンを購入した。

 ちなみに、なぜお1人1パックしか買えない卵を3パックも買えたかというと、レジで店員さんに


「これはお一人様一点限りです」


と言われ


「あなたには見えないんですか!?僕の後ろにいる死んだ父さんと母さんの姿が!!」


と迫真の演技で返したところ


「ありがとうございました」


 と引きつった笑顔で売ってくれたというわけだ。よい子のみんなは絶対に真似するな。一歩間違えればポリスかドクターのお世話になる危険な裏技だからな。

 まあ、そんなこんなで買い物を済ました俺はさっさとアパートにも戻ろうとした。


 さて、今さらだが、俺の住んでる町は東京に割りと近い中級クラスの地方都市だ。だが、田舎だけあってか、住宅地域の街灯はほとんどない、と言ってもいいほど暗い。こんなに暗いと変質者や犯罪者が出てきそう……


「…………」


 なんて思ってるそばから50m前方に妙な人影発見。身長はたぶん180cmとちょっと高めで全身黒ずくめの何だか暗い感じの人物だ。ひょっとして若返りすぎるお薬を開発してる例の組織の人かな?でも、なんだか頭部に角的なものが見え…………


 うん、ここはもうマイケル顔負けのムーンウォークしかないな。無理、無理。生理的に無理。だってすでに人間じゃないの丸出しだもん。頭も尻も隠す気ゼロだもん。これ以上、厄介ごとに首突っ込んでたまるかよ。それじゃ御機嫌よう。と、思ったその時。


「ウオオオォォォ!!」


 などという初号機顔負けの雄たけびと共にそいつの姿があらわになった。なったんだが……なんだこりゃ?


 真っ赤に充血にした目。頭は草食動物の代表、牛さんにも関わらずそのお口にはドラゴン顔負けの鋭すぎる牙。人間の上半身をしたその手にはなぜか斧的な武器が装備ずみ。下半身は牛さんだ。身長……ていうか体長は約4mと言ったところかな?


 えっと……何だ、これは?いや、俺だって結構ゲームとかしてるから知ってるよ。こいつの名前がミノタウロスだかケンタウロスだかそういう神話チックなことぐらい知ってるよ。たださ。この話って妖怪と人間のどたばたコメディだろ?これ明らかにキャスティングミスもいいところだろ?もういいからお前は国に帰れよ!ていうか、何だよこのサイズは!?さっきの人影がどうトランスフォームしたらこうなるんだよ!!変形というよりもはや変身じゃねえか!!おたく、どこの星人!?もういいから星へ帰れよ!!


 おいおい、何だよこの展開?おかしくね?想定の範囲外もいいとこだよ。まさかとは思うがこんな化け物とやり合えというんじゃないだろうな?だったら、言っとくが無理だぞ。百歩譲って俺がK太郎君でもこれは拒否するよ。すねるよ。ぐれるよ。「父さん、僕もう仕事したくありません」ていってニートになるよ。それでもいいの?


 シュールすぎて笑えないな。突っ込む気も失せるわ。もはや身の危険どころか死の危険しか漂ってこないが、取り合えず次回に続く……


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