第13話 藤崎さんへの報告
二階に住んでるネコちゃん妖怪の心のケアーをして、あわよくば彼女のハートをゲットしようとした俺だったが、タメ口を聞いてしまうという凡ミスを犯してしまい、ハートゲットどころかハートブレイクショットで自分の心臓を潰されかけた。全くとんだネコの恩返しもあったもんだ……まあ、それはさておき。このことをあの人に報告しとかないとな。
俺は携帯を取り出すとすぐにリダイヤルした。すると、俺からかかってくるのが分かっていたかのように、ワンコールもかからないうちに携帯からあのおどけた感じの声が聞こえてきた。
『どうした、少年?また分からないことでもあった?』
「いえ、そうじゃなくて……先輩のことで藤崎さんにお話があって……」
『先輩?誰それ?』
「あ、ミイナちゃんのことです。何かよく分からんけどそう呼ばないとダメらしいんです……」
『へえ……羨ましいな』
そうか?タメ口きいたり呼び捨てにしたら半殺しにされるんだぞ。あんまり羨ましいとは思えないけどな。
『あたしには全然心を開いてくて、会うたんびに化け猫になってたのに……君とはもうそんなに仲良くなったのか……あかねちゃんは何だかジェラシーを感じるぞ!』
「まあ、そのことも含めて話があるんで真面目に聞いてください」
『え……あ、はい……』
少々鬱陶しいぐらいのハイテンションな藤崎さんを落ち着かせてから俺は本題に入った。
「先輩が藤崎さんを見るたび化け猫の姿になったのは、藤崎さんが前の飼い主に似ていたからなんですよ」
『え……!!そうだったの……道理でなついてくれないわけだ……あの子ひどい捨てられ方したもんね』
「その事なんですが割りと簡単に解決できますよ」
『ウソ!?どうすんの?』
「本当に簡単です。あの子が化け猫の姿になっても恐がらずにかわいいねって言ってあげればいいんですよ」
『……それだけ?』
「ええ、それだけです。ついでに頭でも撫でてあげれば喜ぶんじゃないですかね?基本ネコですから。あ、でも本人は人間として生きていくことにしたみたいですから、あんまりネコ扱いしないであげてくださいね」
『う〜ん……なんだかややこしいな……ていうか人間として生きていくとにしたってどういうこと?』
「ああ、それはですね……」
俺は先ほどの先輩とのやり取りをかいつまんで説明した。もちろん、先輩がいきなりアクティブな発言をして、俺が下心という誘惑に完敗し、先輩が別な意味でアクティブな行動に出たことは言うまでもなく言わなかった。
『なるほどね……しかし、君もうまいこと言ったようだけど、詰めが甘いのではないのかな?』
「え?どういうことです?」
『確かに女の子はおしゃれをする生き物だけどさ……その前にコンクリの壁を素手で破壊しないとか、部屋はキレイに掃除するとか、もっと色々教えてあげなきゃいけないことがあったのではないのかな?』
まあ……確かにその通りかもしれない。でもそうじゃないような気がするのも確かだ。だからこそ俺はそういうことは先輩に教えなかった。だって、それをすれば何だか先輩が素直なのをいいことに、自分の都合のいいようにしようとする、それこそ変態という名の新種のゴキブリのようで自分が嫌になる。だから……というのも変な話だが、先輩にはそういうことを俺や誰かから教わるのではなく、自分で気づいていってもらいたい。それが人間だと思うから……
なんて台詞を年上のお姉さんに言えるはずもなく俺は適当な台詞でごまかしておいた。
「いや、俺も人に何かを教えられるほど偉そうな人間じゃないんで……まあ、あれが俺の限界です」
『ふ〜ん……なるほどね……分かったよ。話はそれだけ?』
「あ、いや、あともう一つだけ教えて欲しいんですが……」
『なんだい?何でも聞いてとくれ』
「隣に住んでる天童ってどんな奴ですか?」
『天ちゃんか……天ちゃんはね……』
先輩のことはよく分かったんだが、俺は天童のことをあまりにも知らない。烏丸さんから聞いた話によれば、あいつはハリウッドのダークヒーローのようなことを現実にやっているということだけだ。どんな性格なのかとか、普段は何をしているかとか、そんなことは教えてもらってないのだ。俺に分かったのは……前の管理人さんに天ちゃんという、かわいらしいあだ名で呼ばれていたことだけだが、そんなことどうでもいい。俺は奴の素顔が知りたい。
『一言で言うならいい子だけど、凄い悪い奴?』
「美樹ちゃんと同じ意見じゃないですか……ていうか何で疑問系?」
『ヌハハ!ごめんごめん。ぶっちゃけ、よく分かんないんだわ。だってあの子、周りに近寄るなオーラを出しまくってんじゃん?』
「そうですね……」
そうなんだ。確かに天童は無言で「自分に近寄るな」というオーラを放ちまくっている、ちょっとどころかかなり危ない奴だ。それは、たぶん奴が妖怪警察の死刑執行官という、化け物たちと命がけの殺し合いをするような危ない仕事をしているせいだろう。きっと自分のせいで周りにいる誰かを巻き込みたくない、という優しさがそうさせてると思う……でも、それだけじゃないような気がする。
俺にはなぜかあいつの顔が寂しそうに見えたんだ。ひょっとしたら人を寄せ付けないのは別の理由があるのか……それはなんだ……?
『天ちゃんはさ……』
俺の思考を遮るように藤崎さんが話し出した。似合わないぐらい真面目な声で。
『あたしの命を助けてくれたこともあるし……本当はいい子なんだよ。けれど……なんでかあたしは特に避けられていたんだよね……君は歳も同じだし、同じ男の子だし、よかったらあの子と仲良くしてあげてくれない?』
「はい、もちろんです」
安請けやいをしてしまった感は否めないが、あいつとも仲良くなりたいと思ったのは本当だ。お隣さんだしな。ああ、ちなみにもう一方のお隣さんはどうでもいいや。だってエロ天狗だもん。変態という新種のゴキブリだもん。
まあ、何はともあれ藤崎さんに報告を済ました俺は一応「何度もすいません」と謝ってから電話を切った。
そして、半日ぶりにやっと新しい我が家へ生還したのだが……そこには鬼のような奴が鬼のように怒っていたのだった。