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第10話 そんなわけないじゃないですか、パート1

 烏丸さんに先輩の事情を聞いた俺は、何とか人間嫌いを治してもらおうと早速先輩の部屋を訪ねることにした。と、いきたいところだがあの人を下手に刺激して、「シガン!」とか言われた日には間違いなく死んじゃうからね。奇喜怪快、次回からは霊界偏、ってなっちゃうからね。しゃれにならないからね。

 だから俺はホームセンターで六式封じのアイテムを購入することにした。ついでに帰りに商店街の雑貨屋で、彼女に良く似合うと思うプレゼントを買って先輩の部屋に向かった。



 階段を登り廊下の奥まで行くと先輩の部屋の明かりは消えていた。もしかしてもう寝ちゃったのかな?明日でなおすか?いや、出来ればとっとと話したいしな……どうしよう?


 なんて悩んでいると部屋の明かりがつき中からパジャマ姿の先輩が出てきた。


「てめえはさっきから人んちの前で何やってんだよ!!」

「え……あ、あの、よく俺がいるって分かりましたね?」

「猫は耳がいいんだよ!てめえが階段上がってくる前から気づいてたんだよ!」


 ていうか何でこんなにご機嫌ななめ?良君すでにくじけそう……でも頑張る!


「あの……」

「何の用だよ!!」

「今言おうとしたじゃないですか……引越しの挨拶に手ぶらで来ちゃったから、ちょっと遅くなったけど、これどうぞ」


 そう言って俺はホームセンターで購入した小さなゴム製のサッカーボールを渡した。先輩が猫の妖怪というのならこれは嬉しいはず!と思ったんだが……先輩はそれを受け取るとなぜだか困ったような顔をしてもじもじし始めた。


「………………」

「へ……何です?」

「だから………………」

「はい?」

「だから、さっさと中に入れって言ってんだよ!!てめえには耳がついてないのか?」


 いや着いてるには着いてるけど俺のはおまえほど高性能じゃないんだよ。ていうかできれば君のテリトリーの中ではなくいつでもダッシュで逃げられるここでお話ししたいよ。でもねこの人そんな優しくないの。僕に選択肢をくれるほど心が広くないの。


「おら!とっとと入れ!」

「いっ……!」


 先輩は俺の胸倉をつかむと無理やり部屋の中へひきづりこみ、ドアの鍵を閉めるだけでなくチェーンまでかけやがった。はい、もう逃げられない。ヤンキーに絡まれたというよりヤクザに拉致られた気分だ。


「さてと……」


 おーい、先輩。あなたはどうして指の関節をパキパキ鳴らしているのかな?ひょっとしてこの僕をキルするおつもりか?だが、俺だってそうやすやすとやられたりはしないぞ!


 先輩の不審な行動に身の危険を感じた俺は素早く先輩からボールを奪い取り、


「とう!」


 それを奥の間へと投げ付けた。すると先輩はボールめがけて猫まっしぐら。ふ、思ったとおりだ。猫の目というのは動かないものより動くものを捉える方が得意で、先輩が猫の妖怪である以上動くものがあれば本能的に追跡してしまうと思ったがこうまでうまくいくとは。


 片付いたキッチンの前を通り俺も奥の間へ行くと、先輩は俺のことなんか忘れてしまったかのようにベッドの上でボールに夢中になっていた。


「ふふっ……」


 しかし……何と言うか……ボールをつついたり、抱きしめたり、それを投げてキャッチしたり、と戯れるその姿はまるで生まれて初めておもちゃを買ってもらった子供のようで何ともかわいらしい。思わず見とれてしまうほど……


「何見てんだよ!!」


 喋らなければなおかわいらしいのに……ていうかそんなにお怒りになるのならなぜ俺を家に上げた?その上鍵とチェーンまでかけた?いや、今さらだがいくら妖怪とはいえ年頃の女の子が自分の家に男の子を上げるのはどうかと思うぞ?


「あの……なんで俺を家に上げたんですか?」

「べ、別に理由なんかねえよ」


 だったら拉致監禁なんかしないでくれ!すごい恐いから!でも、別に怒ってるみたいじゃないし近づいても大丈夫だろう。

 俺は先輩のベッドに腰掛けて彼女に向き合った。しかし、先輩はすぐに顔をそらすだけでなくベッドのすみにまで離れていった。そんなに俺が嫌なら家に上げるなよ。いや、まあそんな事はどうでもいいか。とっとと本題に入ろう。


「先輩って前の飼い主にひどい捨てられ方したんでしょ?」

「……!!」


 先輩はうつむき、かわいらしい顔に暗い影が差し込んだ。


「知ってるんだ……」

「ええ、烏丸さんに聞きました」

「じゃあ、あたしが人間を憎んでることも知ってるんだ……」

「はい、それも……」

「じゃあ、なんで来たの?」

「はい?」

「あたしがあんたを殺したり食べたりするとは思わなかったの?」


 この子はまたとんでもなく恐ろしいことをさらりと聞きやがって……でもまあ、最もな質問だな。じゃあ、ここは正直にお答えしましょう。


「はい、それは全然思いませんでした」

「えっ……どうして?」

「どうしてって、そりゃこんなかわいい子がそんなことするはずないじゃないですか」


 この言葉に先輩は顔を真っ赤にして怒鳴り返してきた。


「でたらめ言ってんじゃねえよ!」


 だが、それは怒っているというよりどこか恥ずかしがっているように見える。ひょっとしてあんまりかわいいとか言われたことがないのか?そうは思えん。こんなかわいい子を見れば10人中(正体を知らない方限定)10人がかわいいと言うはずだ。


「か、かわいいとか……そんな…そんな事本当は思ってないだろ?お前だって昼間見ただろ?あたしはいらいらしたり、怒った時はあんな姿になるんだよ?だからお前だって本当は化け物みたいに思ってんだろ?」

「いいえ、俺かなり猫好きですから。あれはあれでかわいいもんですよ」

「…………」

「先輩?」

「…………」


 先輩はベッドの隅にしゃがみこむとボールをこねるようにいじくりまわすだけで喋らなくなってしまった。まずい、怒らせたか?

 だが俺の心配とは裏腹に先輩は俺のことをチラッと見るとぼそりとささやくように言った。


「あの……猫のこと……好き?」


 んん!?あ、いや……違うな……


 焦ったぜ……いきなり上目遣いで「あたしのこと好き?」みたいな言い方するもんだからビックリしちゃったよ。でも残念なことにこれ猫のことって言ってるよね……まあ、いいか……


「ええ、だから好きですよ」

「そっか……好きなんだ……ふふっ」


 そう言って先輩は照れくさそうに笑った。初めてみたこの子の笑顔はまるで天使のようにかわいい。妖怪だなんてとても信じられないほど……


「ねえ、管理人さん……」

「え!?あ、はい!」

「あの……その……ごめんやっぱいいや」


 先輩はそう言ってまたうつむいてしまった。どうやら彼女にとってそれは言いづらいというより言い出せない質問らしい。ならばその意図をこちらで読んで答えてやるしかないのだが問題は先輩が何て言おうとしたかだ……


 しかし、それもあんまり大して問題というほどでもない。なぜなら、先輩の事情や気持ちを考えれば彼女が何て質問しようとしたのかすぐに分かったからだ。そして、なぜ俺をこの部屋に閉じ込めたかも。


「大丈夫ですよ。俺は前の飼い主さんと違って先輩のこと嫌いになんかなったりしませんから安心してください」

「……!!」

「それに、鍵なんかかけなくても俺はどこにも行きませんよ」


 というより行けませんよ。このアパート出て行ったら本当にホームレスになってしまうからね。この歳で住所不定は嫌過ぎる……


「どうして?」

「そりゃ、こんなかわいい子を嫌いになんて、そんなバカなことするわけないじゃないですか」

「違うよ。どうしてあたしの考えていることが分かったの?」

「そりゃ、烏丸さんに大体の事情を聞いてますから予想はつきますよ。先輩が考えてることも、烏丸さんにウソをついていたことも」

「……!!」


 先輩が烏丸さんについたウソ……そして、彼女が飼い主に捨てられてた理由、前の管理人さんに対して化け猫モードになった理由とは……次回、全てが明らかに。



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