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第1話 加茂良平(15歳)住所不定、職業無職

 3月20日。中学3年の春休み。同年代のヤングボーイアンドガールが4月から始まる高校生活に夢という名の妄想を見ている中、この俺・加茂良平15歳は公園のブランコに揺られながら青い青いお空を眺めていた。まるで俺の心を写し取ったかのような美しい青色だ。てか……ブルーだ……


 事の発端ほったんは1ヶ月前。私立高校の合格発表の日だ。みんなの桜が咲く中、俺は……俺の桜は……



サクラチル……



 What?て気分だったよ、本当。かなりレベルの低い滑り止めの高校だっただけにかなりのショックだったよ、マジで。だがこれで後がなくなった俺は自分でも信じられないほど猛勉強をし、背水の陣で公立高校の受験にいどんだ。その結果!



サクラキエウセル……


 

 Fuck!!なぜだ!?なぜこうなってしまうんだよ!?どう考えてもおかしいだろ!第1話の冒頭部分なんて転校初日の挨拶ぐらい重要だよ!?これで読者に共感してもらえるかどうかという重要な部分なんだよ!?普通はさ、主人公が「4月から俺も高校生だ!高校に入ったら思いっきり青春してやるぜ!」みたいなアホ丸出しのコメントで始めるもんだろ!!なのに何で落ちてんだよ!?主人公なのに青春しちゃダメなの?ていうかお前、高校への進学率ってどのくらいか知ってんのか!?94.4%だよ!?つまりこの時点で94.4%の人たちはついていけなくなっちゃうんだよ!?その辺分かってんのかよ!?賽銭箱に投資したお年玉返せ、神様!!


 いや……いもしない幻想の人物に八つ当たりはよそう。あまりにみっともないじゃないか。悪いのは俺さ。もっと正確に言えば俺の頭だ。そう、昔から俺は何にも出来なかった。体育祭の日、先生に「何で来たんだよ、バカ野郎!こういう日こそ仮病を使えよ!」とマジな顔で笑えない冗談を言われるほど運動神経はない。合唱コンクールの時だってみんなに「お前は口パクでいいからな。ていうか絶対に歌うな」て念押しされるほどの音痴だ。テストの点だってクラスどころか学年最下位。それも毎回。つまり、典型的な駄目人間って訳だ。

 でもよ、神様……こんな虫けらみたいな俺だが生きているんだぞ!一応人権ぐらいあるんだぞ!進学率が94.4%を超えるこのご時世に残りの5.6%の確立で中卒プー太郎にするこたねえだろ!お前もし俺が伝説の勇者とかだったら魔王じゃなくてあんたを殺しに行くところだよ!?あとやっぱ賽銭箱に投資した俺のお年玉返せ!!


 だが待て。5.6%ってことは約20分の1……これはポーカーで言えばツーペアだ。だったらそんなに凄い確立じゃないだろ。そう、俺と同じブルーボーイオアガールが20人に1人の割合でいるということに……なるわけねえな……だってそんなの見たことねえもん……見たのは周りの冷たい視線だけだよ……

 担任の先生からは「マジかよ……かける言葉がみつからねえよ……」みたいな目で見られ、親からは「実はお前は本当の子供じゃないんだ……コインロッカーで拾ってきた子なんだよ……」みたいな目で見られ、ハローワークの職員に「中卒で職探しって……マジ笑えないんですけど……」みたいな目で見られ……何でそんな目で見るんだよ……一体俺が何したっていうんだよ……別に間違ったことをしたわけじゃないだろ……


 俺ははっきり言って勉強が嫌いだ。頭のはげかけた教師が一方的に押し付けてくる面白くもなんともない話に興味がわくわけがない。縄文時代の人たちはこんな暮らしをしていました?この公式はこうなります?被子植物と裸子植物?アイアムジャパニーズ?そんなことを一生懸命勉強して一体何の役に立つっていうんだ?役に立つのは受験のときだけだろ?ああ、そうか……だからみんなあんな必死に受験勉強してたのか……

 でも、後悔なんかしていないぞ。また机に座って黒板に向かって聞きたくもない話を聞き、書きたくもない興味のない話をノートにまとめなければいけないというなら、みんなより一足先に社会に出て働くのも悪くない。いやその方が遥かにマシだ。だが問題はその社会が俺を受け入れてくれないということだ。就職先を探そうにも15歳の少年を雇ってくれるところなんてない。求人情報誌のどのページをめくっても募集しているのは18歳以上の高卒ばかりなんだよ!何なんだよ一体!何で18歳以上なんだよ!18禁にしなきゃいけないようなやばい仕事なのか!?まあ、いいか……


 いつまでもブランコに揺られてブルーな気分に浸っていても仕方ないので俺は公園を出て歩き出した。ハローワークのある商店街、ついこの間まで通っていた中学校。そして、見慣れた住宅街。

 頬をなでる風は冷たい。まだ春先とはいえこの季節だから仕方ない。世間の視線が冷たい。まだ15歳とはすでに無職だから仕方ない。近所の人が気まずい顔丸出しで苦しい挨拶をしてくるが気にしないことにした。そんな俺でも温めてくれる場所がある。迎え入れてくれる人がいる。

 多少メルヘンチックな外観の庭付き一戸建てに住む少し変わった夫婦。俺の家と俺の両親だ。やっぱ家族てのはいいな。どんなに世間が冷たく見放そうとも俺を見捨てたりなんかしない。世界と世間を敵に回しても俺の味方でいてくれるに違いない。


 ただ、気になるのはドアの前に置かれた妙に見覚えのある俺のスポーツバッグ。中身は俺の着替えと歯ブラシといった私物だ。そしてドアには鍵がかかってる。うーん、と……これはどういうことなのかな?よし、この状況を冷静に推理してみよう。


……


…………


………………


追い出された!?


 いやいやいやいや!!これ冷静になっている場合じゃないよ!こうなったらインターホン連射だよ!ぶっ壊れてもぜってー弁償しねえからな!!


“ガチャ”


 よし、出たな!俺の怒りの叫びを聞きやがれ!といきたいとろだが……


「パパ!ママ!お願い!お家入れて!良君、今とってもナーバスなの!」


 この不利な状況ではまず下手に出て様子を見るのがベストだろう。さあ、どう出る?


「良平、よく聞きなさい……」


 しばらくしてとても聞き覚えのある女性の声(母さんの声)が聞こえてきた。


「この家は現在あなたの家ではありません。もう一度お帰りの住所をお確かめになって諦めてください」


 なんですと!?そんな「この電話番号は現在使われておりません」みたいな言い方されても困るよ!?確認なんぞしなくてもここは俺んちだよ!?あと諦めろってどういう意味かな!?そんなブラック過ぎるジョーク笑えないし突っ込めないよ!!


 俺は必死にドアを殴りまくり叫んだ。


「おい、ふざけんな!いくら高校落ちたからってこの仕打ちはねえだろ!ていうかむしろ暖かいケアーを要求します!!」


 するとドアポストから一枚の封筒が出てきた。筆跡から察するに父さんからの手紙のようだ。なになに……


――――――



良平へ


 君ももう15歳です。15歳と言えば平安時代ならもう成人、つまり大人にあたるのです。だから私も君を大人として暖かく見守ることにしました。仕事と家が見つかったら連絡ください。頑張れ。 P・S当面の生活資金として3万円を入れておきます。



――――――


 パピー?あんた、何言ってんの?今は平安じゃないよ?平成だよ!?俺が成人するまであと5年かかるんだよ!?でも3万ありがと。じゃなかった!!


「そりゃねえだろとっつぁん!こんなケアーじゃなくてまず入れてくれ!」


 するとまた一枚の紙切れが出てきた。今度は母親からみたいだがやたらとカラフルな便箋……


――――――



大特価

卵L玉10個いり1パック98円(お一人様一点限り)

デテケ



――――――


 クソババアァァ!!よりによってスーパーのチラシに走り書きだと!?しかも最後のメッセージがたった一言!たった三文字!「デテケ」とはどういうことだ!?こんなの注意深く見ねえと「あ、卵買ってきてって意味かな?」って、誤解するだろうが!!

 どうなってんだよ、俺の両親は!!暖かく迎え入れるどころか冷たく追い出しやがったよ!?あいつら本当に血の繋がった肉親!?てか、血の通った人間か!? 俺はどうしたらいいんだよ!!

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