大金
(まさかあんな物がこんな金になるとは)
古びた建物が立ち並ぶ通りを男が歩いていた。その男の両手にはパンパンに膨らんだ袋が握られている。男が袋の中身を確認すると、そこには大量の金貨が敷き詰められており二つ合わせて金貨800枚が入っていた。
(これだけあればしばらくは楽できるな。今日はツイてる)
男は質屋にある物を売りに行っていた。それはとてもじゃないが高価なものには見えず、精々銀貨1枚にでもなったら儲けものだと男は思っていた。それが金貨800枚で売れたのだからツイいる所での話では無かった。
(楽して手に入れた金なんてすぐに使い切ってしまうだろうけどな。まぁ無いよりか有るに越したことはないか)
男は得た大金の割には反応が薄く至って冷静だった。傍から見れば大金を手に入れた人とは思えずあまり喜んでいる様には見えなかった。それは男が元々物欲に乏しい性格をしていたからだ。
男の名はルーク。年齢は18歳。灰色の髪に中性的な顔立ちで容姿は中々に整っている。しかし表情は常に不愛想である為、整った容姿を生かせていない。性格もそれに拍車をかけていた。感情の起伏が乏しく滅多に笑わない。それに加えて人を簡単には信用せず本人に自覚はないが常に壁を作っているため誰も寄り付こうとはしなかった。それでも交友関係を築こうとした者たちもいたがルークが中々心を開かないため愛想を尽かし大抵の者は離れていった。しかし世の中には物好きな人間もそれなりにいる様だ。その物好きな者の前では意外な一面もある様で数少ない仲間内でのルークの評価は概ね良好だった。ある者曰く「友人になるには時間が掛かるが一度受け入れられるとこんな楽に付き合える奴はいない」との事。良くも悪くもルークには表と裏の顔があった。
(金もあるしあいつの店にでも行くか。久しぶりに高い酒でも買って売り上げに貢献してやろう)
ルークはここにきて初めて表情を崩し少し顔を綻ばせる。高い酒を買って驚く相手の間抜け頭が目に浮かんだからだ。ルークは足取りが軽くなるのを自覚しつつ目的地に足を進めた。今日という日がルークにとって人生の分岐点になる等想像すらもせずに、、、