勇士の祭り
そしてその明後日。
とうとう、祭りの日を迎えた。
「ゲン、外に行くのは構わんが、祭事の頃には戻れ。勇士の儀を行わなきゃならんからな」
「…分かってる」
ゲンがイトを迎えに行こうとした時、彼は父からそう言われ、返事をしながらも、心の内はどこか沈み込んでいた。
今までイトには、自分が勇士だということを言わなかった。しかし、自分が勇士の儀をする姿を彼女が見れば、もはやこのまま言わないでいるということは難しい。
「………」
そして山の中にあるイトの家の前へと着いたゲンは、いつになく深呼吸をした。普通に迎えに行けば良いのだが、今日ばかりは緊張していた。
「イト、俺だ、ゲンだ。迎えに来たぞ」
軽く玄関の戸を二度叩き、中へそう呼びかけると、小走りする音が聞こえた。
「はーい、今開けるよ!」
続いて元気の良い声が返ってきて、戸がゆっくりと開く。
「……!」
ゲンの目に入ってきたのは一人の綺麗な旅娘…のように扮した、イトだった。
いつも土や砂で茶色がかっていた肌は綺麗になっており、長く艶のある黒髪も上げるように結わず、下へ下ろして一つで結んでいた。着物も単色ではなく、白地に青い紫陽花柄で、藍色の帯で締めていた。
ゲンは思わずその姿に見惚れ、何も言葉が出てこなかった。
「ゲン?…格好、変かな?」
イトはゲンの視線に気づくと、彼と自身を交互に見つつそう聞いてきた。
「あ…いや、そんなことはない。似合ってる、それに…綺麗だ」
慌ててイトにそう告げると、彼女は顔を綻ばせた。
「本当?良かった。これ、かか様がお祭りに行く時使ってたお着物で…昨日直してみたの」
「形見の着物か」
「うん…大きくなって、お祭りに行けるようになったらこれを着て行っていいわよ、って。…行けることも嬉しいけど、着れることも嬉しいな」
イトは片手で少し袖を持って見せると、着物の生地に触れて微笑んだ。
「きっとイトのお袋さん、今の姿、見てくれてるよ」
その様子に微笑みながら、ゲンはそう言って手を差し出した。
「行こう、祭りへ」
「…うん!」
イトは笑顔でゲンの手を取った。