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時の糸  作者: 茅凪幸葉
9/9

勇士の祭り

そしてその明後日。

とうとう、祭りの日を迎えた。


「ゲン、外に行くのは構わんが、祭事の頃には戻れ。勇士の儀を行わなきゃならんからな」


「…分かってる」


ゲンがイトを迎えに行こうとした時、彼は父からそう言われ、返事をしながらも、心の内はどこか沈み込んでいた。

今までイトには、自分が勇士だということを言わなかった。しかし、自分が勇士の儀をする姿を彼女が見れば、もはやこのまま言わないでいるということは難しい。




「………」


そして山の中にあるイトの家の前へと着いたゲンは、いつになく深呼吸をした。普通に迎えに行けば良いのだが、今日ばかりは緊張していた。


「イト、俺だ、ゲンだ。迎えに来たぞ」


軽く玄関の戸を二度叩き、中へそう呼びかけると、小走りする音が聞こえた。


「はーい、今開けるよ!」


続いて元気の良い声が返ってきて、戸がゆっくりと開く。


「……!」


ゲンの目に入ってきたのは一人の綺麗な旅娘…のように扮した、イトだった。

いつも土や砂で茶色がかっていた肌は綺麗になっており、長く艶のある黒髪も上げるように結わず、下へ下ろして一つで結んでいた。着物も単色ではなく、白地に青い紫陽花柄で、藍色の帯で締めていた。

ゲンは思わずその姿に見惚れ、何も言葉が出てこなかった。


「ゲン?…格好、変かな?」


イトはゲンの視線に気づくと、彼と自身を交互に見つつそう聞いてきた。


「あ…いや、そんなことはない。似合ってる、それに…綺麗だ」


慌ててイトにそう告げると、彼女は顔を綻ばせた。


「本当?良かった。これ、かか様がお祭りに行く時使ってたお着物で…昨日直してみたの」


「形見の着物か」


「うん…大きくなって、お祭りに行けるようになったらこれを着て行っていいわよ、って。…行けることも嬉しいけど、着れることも嬉しいな」


イトは片手で少し袖を持って見せると、着物の生地に触れて微笑んだ。


「きっとイトのお袋さん、今の姿、見てくれてるよ」


その様子に微笑みながら、ゲンはそう言って手を差し出した。


「行こう、祭りへ」


「…うん!」


イトは笑顔でゲンの手を取った。

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