勇士の祭り
月日は経って、ゲンが二十、イトが十八となったの春のこと。
ゲンは朝のうちから、イトの家へとやって来ていた。
「おはよう、イト。俺だ。入るぞ」
「ゲン!おはよう、今日は早かったのね」
ゲンが戸を開けて入ると、イトが笑顔で出迎える。そこに柔らかく笑みを返すと、ゲンは居間へと進み、囲炉裏のそばへ座った。
「今日はあまり家の仕事がなかったんだ。それに、良い知らせがあって」
茶を用意するイトの背中にそう声をかける。
未だに勇士であることは話しておらず、仕事というのは嘘で、本当は鍛練と畑仕事のことだった。
しかし二十を迎え、それまで鍛え続けてきたゲンは、鍛練で村一番の強者と呼ばれた者まで倒し、もはや大掛かりな修行は不要とされた。故に、それからは鍛錬とはいってもひたすら自主的に刀の稽古をしているのみなのだ。
「良い知らせって?」
イトはゲンに茶を渡し、自分の分をもって隣に座りながら小首を傾げた。
ゲンは茶を一口飲むとにっと笑みを見せる。
「明後日にな、村で祭りが開かれるんだ」
ゲンの口から出た言葉に、イトは目を輝かせた。
「本当!?」
「本当だ。村長から聞いたから確かだよ。…勇士を称える祭り、だけどな。国の都からの商人が来て、こっちにはない物を売ったりすることもあるし…踊りや花火も、夜晴れてれば見れる」
「行きたい!」
聞くなり即座にそう言い、願うように見つめるイトに、ゲンは思わず微笑んだ。
「もちろん、俺と一緒に行こう。旅人のふりしてな」
「うん!…嬉しい…!とうとうお祭りに行けるんだ…!」
花が咲くかのように、とても嬉しそうに笑うイト。
ゲンはその様子を見ながら笑うも、少し肩を竦めていた。
「…?どうかした?」
「……いや」
ゲンの様子に気づいたイトが首を傾げると、彼は目を閉じて首を横に振った。
「祭り、昼から始まるんだ。九つ時に迎えに来るから、旅装束に着替えておいて」
「分かった!それまでに用意しておくね!」
ずっと行きたかった祭りに行ける嬉しさが溢れるのか、イトは笑みをこぼす。
ゲンはその様子に微笑みながら、自分の内に抱える複雑な心情に、目だけを伏せた。