出逢い
「…とにかく。イトが、ご先祖からの、親御さんからの言いつけ守らなかったからって、誰かに怒られるわけでもないし、仕置きされるわけじゃない。…イトの親御さんはどっかで見ているかもしれないけど、今のイトや俺には見えないし、声は聞こえない」
ゲンは焼き上がった魚を一本取りながらそう告げる。一口齧って食べると、不安そうな表情のイトを見つめた。
「だから、怒られるとしたら、イトが死んで親御さん達の元へ行った時だ」
「…私が、死んだ時…」
イトはゲンの言葉を呟くと目を閉じ、小さく苦笑に似た笑みをうかべた。
「…そうだね、そうかもしれないね」
そして長いため息をつくと、手を合わせて祈るような仕草をした。
「…とと様かか様、イトがいつか行く時までは…ごめんなさい」
ゲンはその様子を見ながら魚を食べ終え、イトの近くへ座り直す。彼は何かを決意したような表情をすると、体ごとイトの方を向いた。
「イト」
呼び声にイトは合わせていた手を解き、ゲンの方へ振り向いた。
ゲンは真っ直ぐに彼女を見つめていた。
「…俺と友達になろう」
そう告げて、手を差し出す。
イトは目を見開いて驚くと、ゲンの顔と手を交互に見る。
「返事」
友達になるためにこれほど真っ直ぐに言ったことが今までなく、だんだん照れくさくなってきたゲンは、ぶっきらぼうにそう言うと手をずいとイトの前に差し出した。
「っ…うん!私でいいなら…喜んで!」
イトは涙を目に溜めながら、とても嬉しそうに両手でゲンの片手を包み、握手を交わした。
この時からゲンとイトは、誰も知らない、秘密の友となったのだった。