出逢い
「…ほんとはね」
無言で思考を巡らせていたゲンに、俯いていたイトが口を開く。
「こうも言われてた。…村の人達、子供とも祭りの時以外では話してはいけないよ、って」
ゲンは目を見開いた。
「それじゃ、俺と話したのは…」
「…うん。ほんとはいけないの。村に住んでる人とは会っても話しちゃいけない。だけど…」
イトが拳を握り、小さく震えていた。
「私は…友達が、欲しかったの…。一緒に遊んだり、笑ったり…毎日話せるような、普通の、子どもみたいに」
「!」
ゲンは震える彼女が告げた言葉に目を見開いた。
普通の子のように過ごせない人間。
イトも、先祖代々からの言いつけという縛りに従って生きてきたのだ。
境遇こそ違えど、ゲンとイトの思いは似ていた。
「それに沢でゲンを見た時、最初は戻ろうとしたの。…でも、ゲンが…なんだか、つらそうに見えて」
「え…俺、そんな顔してた?」
イトの思わぬ言葉に、ゲンは瞬きをした。
「うん…それに元気なかったようにも見えたから」
「…そうか」
イトが先ほどとはうって変わり心配そうに見てくるので、ゲンは安心させようと笑ってみせる。
「大丈夫だよ。…村の勇士のことで嫌気がさしてただけで」
ゲンは自分が勇士であり、この先の幾年の間かの新月の夜に、化け物を退治しなくてはならない運命にある…とは、言えなかった。
今それを知られると、イトまでもが村の者と同じになりそうな気がしたからだ。