4/9
出逢い
だが。
「それは、できないの」
イトは、ゲンの言葉に目を伏せて強く首を振った。
「なんでだ?確かにここには暮らせるだけの家も畑も卵も、水も樹もあるけど…何かあったら誰も頼れない」
「……とと様もかか様も、言ってたの」
再びイトは首を振ると、ゲンを悲しげな目で見つめた。
「山を下りて、村へ行ったらだめだって。行っていいのは、お祭りの時に旅の人として行く時くらいだって」
「そんな言いつけ…」
「…とと様のとと様、じじ様も…その前の大じじ様もその前も…昔からみんな、そうしてきたんだって」
「………」
イトがとても寂しげにそう語る姿を、ゲンは黙って見ていた。
彼女の先祖は、何か追われる様なことをしたのだろうか。
ゲンの住む村は小国の一村。その中でずっと暮らしてきた彼には、罪人の話など一切覚えがなかった。
だとすると、国に対して何かをしでかしたのか…しかしそれも、イトの曾祖父、それより前からとなれば、国から各村に何かしら御達しがくるはずだ。
考えても頭に答えは出なかった。