表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
時の糸  作者: 茅凪幸葉
3/9

出逢い

「名前はなんていうの?」


「…ゲンイチ。ゲンって呼ばれてる」


「ゲンイチ…ゲンね。うん、覚えた」


パチパチという音と共に火が揺らめく。

魚を取り終えたイトは水を汲み、家で火を焚けるからと少年、ゲンイチ…ゲンを自分の家まで連れていった。

イトの家は、山の中にしては豊かなものだった。畑もあれば鶏もおり、柿の木や林檎の成る木まであるようで、イトの先祖から代々暮らしてきた地なのだという。


「はい、どうぞ」


イトは焼き上がった魚をゲンに差し出す。彼女は料理などは手慣れているのか、ゲンからはかなり手際よくこなしているように見えた。


「ありがとう」


ゲンは焼き魚を受け取ると早速口に運んだ。

村から出てきてから帰らなかったため、水以外何も口にしておらず腹を空かせていたのだ。

焼き魚の熱さに少し咽せつつも、イトの言った通りかなり美味しく、ほぼ一本をすぐにたいらげたゲンに、イトは自分の焼き魚を食べながら目を丸くしていた。


「…もう一本、いる?」


「…いや、でもイトの家族の分が」


次の分を用意しようと魚をくわえながら動いたイトに、ゲンはそう言って制止しようとした。

しかしイトは、彼の言葉に眉を伏せて笑う。


「…大丈夫。うちは、私だけしかいないから」


「え」


固まったゲンを見て、イトは魚を串に刺しながら小さく苦笑した。


「…とと様が死んで、次にかか様が。…かか様は私が十二の時だから、今から三年くらい前」


「…それから…ずっと一人で?」


「うん」


イトは自分の焼き魚を食べ終えてから、遠い目をして微笑む。


「外には小さい頃から飼ってる鶏さんや小鳥さんはいるけど、家の中には誰も居なくなっちゃって」


彼女の声には寂しさが混じり、次第に顔を俯かせていった。


「今では少し慣れたけど…家の中にばかりいるとだんだん元気がなくなってくるから、時々さっきみたいに沢に行ったり、野草とかを摘んできたりするの」


「…山を下りて、村に来ればいいのに」


ゲンは思わず彼女にそう呟いた。

暮らせるだけの物、飼っている動物の存在があっても、人と過ごさずにいるとなれば孤独であることは拭いきれない。

それならばいっそ、村へ来てどこかで世話になった方が…。彼はそう思ったのだった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ