出逢い
「名前はなんていうの?」
「…ゲンイチ。ゲンって呼ばれてる」
「ゲンイチ…ゲンね。うん、覚えた」
パチパチという音と共に火が揺らめく。
魚を取り終えたイトは水を汲み、家で火を焚けるからと少年、ゲンイチ…ゲンを自分の家まで連れていった。
イトの家は、山の中にしては豊かなものだった。畑もあれば鶏もおり、柿の木や林檎の成る木まであるようで、イトの先祖から代々暮らしてきた地なのだという。
「はい、どうぞ」
イトは焼き上がった魚をゲンに差し出す。彼女は料理などは手慣れているのか、ゲンからはかなり手際よくこなしているように見えた。
「ありがとう」
ゲンは焼き魚を受け取ると早速口に運んだ。
村から出てきてから帰らなかったため、水以外何も口にしておらず腹を空かせていたのだ。
焼き魚の熱さに少し咽せつつも、イトの言った通りかなり美味しく、ほぼ一本をすぐにたいらげたゲンに、イトは自分の焼き魚を食べながら目を丸くしていた。
「…もう一本、いる?」
「…いや、でもイトの家族の分が」
次の分を用意しようと魚をくわえながら動いたイトに、ゲンはそう言って制止しようとした。
しかしイトは、彼の言葉に眉を伏せて笑う。
「…大丈夫。うちは、私だけしかいないから」
「え」
固まったゲンを見て、イトは魚を串に刺しながら小さく苦笑した。
「…とと様が死んで、次にかか様が。…かか様は私が十二の時だから、今から三年くらい前」
「…それから…ずっと一人で?」
「うん」
イトは自分の焼き魚を食べ終えてから、遠い目をして微笑む。
「外には小さい頃から飼ってる鶏さんや小鳥さんはいるけど、家の中には誰も居なくなっちゃって」
彼女の声には寂しさが混じり、次第に顔を俯かせていった。
「今では少し慣れたけど…家の中にばかりいるとだんだん元気がなくなってくるから、時々さっきみたいに沢に行ったり、野草とかを摘んできたりするの」
「…山を下りて、村に来ればいいのに」
ゲンは思わず彼女にそう呟いた。
暮らせるだけの物、飼っている動物の存在があっても、人と過ごさずにいるとなれば孤独であることは拭いきれない。
それならばいっそ、村へ来てどこかで世話になった方が…。彼はそう思ったのだった。