出逢い
「私はイト。魚取りと水汲みに来たの。ここの魚は焼くとおいしいんだよ」
綺麗な黒髪を結い上げ、ところどころ土や砂で汚れてはいるが色白な肌、澄んだ瞳など、どこか目を引くような美しさをもつ少女イトは、自らの運命を呪う彼にそう語りかける。
「…山に、住んでるのか?」
「うん。あなたは村に住んでるの?」
「そうだよ」
「…そっか。いいなあ」
「よくないよ」
「なんで?村なら、お祭りとか色んな遊びとかあるんでしょう?」
「あるけど…どれもこれも大抵、“勇士”ばっかりだ。勇士ごっことか勇士を称えるための祭りとか、とにかく勇士勇士って」
彼女の毒気のない言葉、そして自分のことを何も知らないゆえか、少年は本音を彼女に語っていた。
「伝説の勇士様のこと?嫌いなの?」
「嫌いというか、嫌だ。…山育ちでも知ってるんだな」
「そう…。かか様から、よく聞いてたんだ」
イトはそう告げると沢の中に入り、水の中に手を突っ込んだかと思うと、さながら熊の如く思い切り岸の方へ水をはらう。
すると勢いよく一匹の魚が見事岸の方へと投げられ、少年の目の前に落ちると跳ね回った。
「あげる。あとで食べようよ」
イトはあっけにとられている少年に得意気な笑みを見せながらそう言うと、しばらく魚取りを続けた。