月と太陽
僕が高校生のとき
彼女と出逢った
心を病んでいる僕と
心臓を病んでいる彼女
『私たちなんだか似ていますね』
そういって笑う彼女の顔がとても印象的だった
10歳年上の彼女は
僕にいつも敬語で話してくれた
『一生懸命に生きてるあなたを尊敬していますから』
彼女は最後まで敬語だった
薬の影響で太った僕を
彼女は頼もしいという
『ダイエットのしがいがあって楽しみですね』
冗談とも取れるようなことを
いつも彼女の真顔で言うから
僕はいつも笑ってしまう
それを見た彼女も
楽しそうに笑ってくれた
デートの時は
いつもこっちに来てくれた
バスで五時間かけて
朝一番で会いに来てくれる
おっきなバッグに
手作りのお弁当を2つと水筒が1つ入っていて
バスから降りてきた彼女から
それを受け取って持つのが
いつものことになっていた
デートの時はいつも僕は手ぶらだった
それは彼女が決めたことだった
『だって、私が倒れたらあなたに運んでもらわないといけないですから』
冗談なんかじゃないことは
彼女の心細そうな表情を見ればわかった
彼女といったカラオケで
僕はMr.Childrenの君が好きを歌った
彼女はモニターに映る歌詞をじっと見つめている
[君が好き
僕が生きるうえで
これ以上の意味はなくたっていい]
歌い終わった僕の目を見つめて
彼女は言った
『あなたはこんな悲しい生き方はしないでくださいね。
あなたはあなたのために、、、
私がいなくても生きてください』
彼女の目には涙が浮かんでいた
抱き締めたその体は
枯れ枝のように細かった
最後のデートは
少し肌寒い秋の日
長くは歩けない彼女と
ベンチで休憩を取りながら
真っ赤な紅葉を見てまわった
別れが近づくにつれて
徐々に無口になる二人
彼女のおかあさんの車が見えた
挨拶をして
彼女が車に乗るのを手伝う
今日を最後にすることは
二人で話し合って決めたことだった
最後まで一緒にいたいという僕を
一生のお願いですと頑なに拒む彼女の意志はとても固かった
別れ際
泣かないと決めたのに
二人の目からは涙があふれてとまらない
彼女から一通の手紙を受け取り
車は出発した
手を振る彼女を
いつまでも見送った
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話したいことは沢山あったんですが
きっと泣いちゃって
上手く話せないと思いますから
お手紙でごめんなさい
あなたと過ごせた二年間
とても幸せでした
あなたのそばにいるだけで
私も元気になれる
そんな気がしていました
あなたが元気になるのを
一番近くで見れたこと
すごく嬉しく思います
私は
遠くに行くことになりました
だけど
ずっとあなたを見守っていますね
あなたが
私のことをまるで太陽のようだ
と話してくれたこと
覚えていますか
すごく嬉かったんですよ
だけど
私はあなたの太陽にはなれませんでした
元気になったあなたと
私は一緒にいられないから、、、
でも大丈夫
今までと同じように
私はあなたの月でいたいと思います
あなたが暗闇で道に迷うとき
私があなたを照らすでしょう
辛いときは
私を思い出してください
そばにいますからね
だけど
あなたを暖かい日差しが包んでいるときは
私のことを忘れて欲しいんです
あなたにとっての太陽は
これからきっと現れますから
だから
その人と必ず幸せになってください
それが私の最後の願いです
わがままばかりでごめんなさい
わがままをたくさんきいてくれてありがとう
私を見つけてくれてありがとう
それじゃあ
月になってきます
今まで本当に
ありがとうございました
私の太陽 へ
あなたの月 より
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