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廻り出した歯車

 人は、いつもどこかで何かを選択している。そして、その選択によって未来は大きく変わっていくのだ。

 そんなことなど嫌でも理解している。

 そして、私は今から選択することになる。

 全てが遅すぎた。事を起こすには私は、あまりにも傍観し過ぎた。

 だからこそ、私はなおさら選択をしなければならないのだ。

 たとえ、それが最悪な結末を招こうとも立ち止まる事など許されはしないだろう。


「ごめんなさい」


 呟いた言葉は誰が為に出た言葉であったのか。

 それは、彼女自身にしか分からない。


 + +


「今、何と言った?」


 いつもよりも低めの声が自分の耳に届く。

 用意された紅茶を口にしていた有花は、唇からカップをはなすと窓際に立ったままの相手へ視線を向けた。

 予想通りに目元も険しいものになっていて相手の怒りが窺える。

 けれども、それに戸惑う素振りも見せず、いつもの無表情を携えて口を開いた。


「エデンに行きたいの」

「それは、自分の立場を弁えた上で言っているのか?」

「ええ」

「では、私の答えなど言わずとも分かっているだろう。二度と、あのような輩に近寄るな」


 男の言葉は、有花にとって予想の範疇であった。だから、表情を変えることなく再度ティーカップに口を付けた。唇を離した後、ゆっくりと口を開けた。


「私が言った言葉を覚えている?」


 有花の言葉に当時の事を思い出したのか男の表情が更に歪む。


「“あんな醜い奴らのことなんか好きになれないわ”」


 あの時の言葉を、有花は過去に彼の前で何度繰り返しただろうか。それは、まるで魔女のまじないのようだと思った。その言葉があるからこそ彼は今も私にだけに意識を向けてくれるのだろうか。


「それとも、余所者は招き入れても私のような者はエデンには入れない決まりでもあるの?」


 その言葉に、今まで怒りの炎を燃やしていた男の瞳が揺れた。


「なぜ、」

「知っているのか? “貴方”が、私にそれを聞くの?」


 そう告げると、有花はゆっくりと首を傾げた。その瞳の奥は何もかも見通しているように黒い闇にも似た輝きを放っている。

 男は、彼女のその瞳に惚れた。否、そうなる事が男と有花の間にある因果であった。有花が自分から離れられない事を男は知っていた。たとえ知らずとも彼女を手放すつもりは端からない。男は、それだけ彼女に入れ込んでいるのだ。


「有花。こちらに来い」


 男の言葉に有花は、手にしていたティーカップをテーブルに置く。そして、ソファから立ち上がると窓際へと歩を進めた。

 彼のすぐ傍まで来ると腕を引っ張られ、そのまま男の腕の中に閉じ込められる。


「お前は、誰のものだ?」


 真上から声が降りかかってくる。いつも聞くその声色は、どれも心地の良いものばかりだ。

 けれども、その声を聞くたびに己の中に潜む棘が増えていくことなど、この男は知らないだろう。

 有花は、男の背に腕を回した。


「私は、貴方のものよ、れい


 有花がそう告げると、自分を抱きしめる腕の力が強まる。


「……エデンの事は、初深はつみに伝えておこう」



 その答えを聞いて有花の口の端が上がった事など、この男が知るはずもなかった。



 歯車は既に回り始めている―――

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