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月と電波とスタンガン  作者: 椎名乃奈
第〇章 月と少女とプロローグ
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【006】

 だとすれば、この状況で犯人だと疑われても可笑しくないのって、誰がどう考えても僕だよな。もしかして、一番危険なのって誰がどう考えても僕だよな。つまり、僕にとってこの状況って最悪なんじゃないか。


 僕は、思わず息を飲む。

 兎に角、少女の生死を確認しなければ。


 恐る恐る、少女の生死を確認する為に、再び段ボール箱の蓋を開き覗き込む。

 ダンボール箱の中には、死んでいるにはあまりに綺麗過ぎる少女がそこに居た。あの時と同じ、白いワンピースに便所サンダル姿の少女。探せばどこかに、あの時持っていたスタンガンも入っているのだろうか。


 それよりも、生死の確認だ。

 よくドラマで首元の頚動脈から生死の確認をする方法と同じようにすると、トクントクンと打つ脈を指先に感じることが出来た。つまり、歪な愛の形も偽装工作による冤罪も違っていたと言うわけだ。


 まあ、冷静になって考えればそんなことなど有り得ない。


 となると、一体少女はどうやって僕の家に入ったのか。


 宇宙人だから、特別な技術で作られた道具でも使って、鍵が掛かっていてもお構いなしに入って来れるのだろうか。そんな馬鹿な話あるわけが無い。あったとして、アニメやマンガの世界での話だ。

 ここは、そう言う世界では無いのだ。


 と言うより、在るはずが無いのだ。

 あり得てはなら無いのだ。

 それが僕の住んで居る地球と言う名の惑星の常識だからだ。

 何気なく少女を眺めていると、僕はあることに気付いた。


 少女の髪は、月の光で照らされて輝いていたのだと思っていたが、髪の色が透明に近い蒼であることに気が付いた。だから、月の光に照らされることで、髪の毛が輝くように見えていたのかもしれない。


 すると、ダンボール箱を詮索するうちに、少女の目が唐突に開き、その眼と合った。合っただけならまだ良かった。だが、僕にはそれだけで済まないのが分かっていた。その一部始終が、緩慢に動いているかのように僕の瞳に映っていたからだ。


 そして、鈍い音が響き渡る。


「痛ってええええええッ!」


 僕は、弾き飛ばされた。


「ふわああああ……良く寝たのう」


 顎に思い切り頭突きされ、のた打ち回る被害者である僕を他所に、加害者である少女は、何事も無かったかのように呑気な声を上げ、その身をゆっくりと起こし、その場で大きく伸びをする。


 起きるや否や、眠た眼を擦りながら、辺りをキョロキョロと見回し、自信の身に起きたことに気付くことになる。この少女にとって、この光景、風景、情景が見慣れないモノであることは当然だ。


 それは、ここが僕の家の中だからだ。


「どこじゃ……ここ?」


 少女は、一つ欠伸をする。


「まあ良いか」

「良いわけあるかッ!」


 再び段ボール箱の中で丸くなり、眠り始めようとしたところで、僕は慌ててそれを止めた。僕のその声に、自分以外に誰か居たのか――と言わんばかりの眼を、少女はこちらに向けて来る。



「なんじゃ?」

「なんじゃ、じゃないッ!」

「五月蠅いのう」


 睡眠の邪魔をされた少女は、不愉快極まりないと言った表情を浮かべているが、それは僕にも同じことが言えた。最早、不愉快が極まるどころか、不愉快が窮まってしまいそうな程に。


 だが、苛立ちを抑え冷静に努める。


「どうやって僕の家に入ったんだ」


 少女は首を傾げ、呆けていた。


「惚ける気か」


 僕は問い質す。


「惚ける? 主は、滑稽なことを聞くのう」


 少女は、僕の質問にクククと笑いを堪えていた。

 僕には、少女が僕の質問で何故笑いを堪えているのか、その意味が全く理解出来なかった。僕は、単純にこの少女に揶揄われているだけなのだろうか。事実、少女は僕を揶揄っているように見える。


 しかし、笑い終えた少女のその眼は、既に違うことを見ていた。


「本当に、主はそんなことをわっちに聞きたいのかや?」


 鋭く、厳しく、刺々しいその眼は、僕の心の奥底を見透かしているかのようだった。僕の家にどうやって入ったのか、と言うことも聞きたいことの一つに違いなかった。


 けれど、それ以上に聞きたいことは確かにあった。


 それは、


「君は――」


 僕は聞きたいことを単刀直入に聞いた。


「どうして僕にお礼を言ったんだ?」


 少女は、その言葉に神妙な面持ちを見せた。


「不可解な問い掛けをするのはワザとかや? 如何にもわっちが主のことを知っており、わっちのことも主は知っているかのように聞こえるが、それは気の性かのう、主や? その上、わっちが主に礼を言うじゃと? 馬鹿馬鹿しい、在り得ん話じゃな」


 どうやら、プライドが高いらしく、少女はそっぽを向いてしまった。


 あの日、僕が出会った少女と姿形は同じはずなのだが、どうにも話が噛み合っていないようだった。少女が言うには、僕と遭ったことなど無く、お礼を言った覚えなんて全く無いとのことだ。


 やはり、あれはただの夢だったのだろうか。


 むしろ、宇宙人が満月の夜道を出歩いていると言う話自体に、無理があったのだ。その容姿にしたって、宇宙人らしさなど微塵も無かったではないか。何なら、何処からどう見ても、地球人だったではないか。


 何を今更がっかりする必要があるのだ。


 そう、偶々夢で見た少女が僕の家の中で、段ボール箱に入って眠っていただけのことで、世界的に見ても稀な事例に違い無いが、きっと世界中を探してみれば何人かは同じ境遇に遭っている人達だっているに違いない。


 だから、諦めるつもりで最後の質問をした。


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