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月と電波とスタンガン  作者: 椎名乃奈
第一章 剣と邪眼とヘルメット
14/58

【013】


 まさかのことだった。

 夕食を終え一息つき、中間テストに備える為に天羽のノートを使って勉強しようと鞄を開き、探してみるものの、それがどこにもそれが見つからないのだ。確かに、天羽の手から直接受け取り、それを鞄に入れた。

 間違いなく入れたはずだ。


 けれど、中身が何も出なくなるまで、鞄を引っ繰り返しても天羽のノートを見つけることが出来なかったのだから、入れたつもりになっていただけなのだろう。何で、よりにもよってこんな大事な物に限って失くしてしまったんだ。


 もし、失くした可能性があるとしたら、図書室か。


 別に、自分のノートだったらわざわざ探しに行くなんてことをしないだろう。あっても大して役に立たないからな。

 けれど、僕が失くしてしまったのは天羽のノートだ。それを、他の生徒に見つけられ、流出でもしようものなら、高得点が続出することも問題だが、何より失くしたことが天羽の耳に届くことの方が深刻だ。


 仕方ない。


「ゆん。ちょっと出掛けて来るから、留守番を頼めるか?」

「何処かへ行くのかや?」

「学校に忘れ物を取りに行ってくる」

「なら、わっちも行く」


 特に断る理由も無かった僕は、連れて行くことにした。


「じゃあ、行くか」

「うむ――おっと、ちょっと待っておれ」


 そう言い、ゆんは寝床である段ボールの中から何かを取り出し、ワンピースのポケットへしまった。僕の位置からでは、何をポケットの中へ入れたのか分からなかったが、それが何だったのか気にすることも無く、ゆんと一緒に家を出た。


 今夜は、半月だった。

 けれど、雲が月に覆い被さり、半分よりももう少し欠けて、暗い夜道がより薄暗く演出されていた。


「んー。やっぱり、電波浴は気持ち良いのう。じゃが、今宵の月ではこんなもんかのう」


 ゆんは、月に向かって大きく伸びをしていた。


「何だ、電波浴って?」

「何じゃ、月面反射通信を知らんのかや? 地球から月へ電波をビビビっと発信して、反射させることによって、通信する技術じゃぞ? 地球に住んでおるのに何も知らんのじゃな」


 いや、ほとんどの人が間違いなく知らないだろう。


「地球から月に反射して来る電波を感じられるのか?」

「まあのう。そうじゃな――多分、地球人達が太陽の光を浴びて気持ち良い、と感じるのと同じなんじゃ無いかのう。まあ、わっちは太陽が苦手じゃからわっちのイメージと言うことになるがのう」

「太陽、苦手なのか?」

「髪の色を見れば分かるじゃろう」


 ゆんは、自分の髪の毛を掻き揚げ、得意気な顔をしていた。髪の色を見たところで太陽が苦手な理由など皆目見当が付かなかった。そもそも、相手は宇宙人だ。ゆんの言うところの、地球育ちの宇宙人である僕が、その理由なんて知るはずも無い。


「何で、銀髪なんだ?」

「今の話を聞いてその理由も分からんのかや? これだから、地球人は。先に言っておくが、わっちはアルビノではないぞ。わっち等は、普段、月の中に住んでおるでのう、紫外線を浴びる機会がほとんど無いから、色素が必要なく髪が真っ白なんじゃ。じゃから、余程のことでもない限り、太陽が出ている時はまず外へは出んのう」


 つまり、それって。


「ちょっと待て。えっと――紫外線を浴びるのはあまり体に良くないから、基本的に、夜行性ってことか?」

「そう言うことじゃ」


 ということは。


「ゲーム買った意味ないじゃん」

「まあ、そう言うことじゃな」


 カカカ、とゆん。

 結局、ゲーム代は高く付いたようだ。


 家から学校まで僅か十数分と言う距離だったが、授業を受ける為に行くとなると、この距離感は微妙に長く感じる。今は、目的が違うのもあるが、何より誰かと話をしながら登校をすると言うのは、この距離感をあまり感じさせなかった。


 案の定、光が漏れていないところを見ると、皆帰宅したようだ。取り敢えず、今この場で誰かに見つかると言うことはなさそうだが、誰も居ないこの状況では、鍵が掛けられており、校内に入るのは不可能だろう。


「コータ、あそこ」


 ゆんは、校舎を指した。

 けれど、僕には、その指の先を辿っても、いつもと何ら変わらない校舎意外に変化を見つけることは出来なかった。暗かったことや、少し距離があることも要因の一つとしてあるが、僕の目には特段変わったことは映らなかった。


「何もないぞ」

「いいや、絶対ありんす」


 ゆんは、ムキになっている様にも見えた。


「ほら、帰るぞ」


 ノートなら、朝一にでも探しに行けば、何とかなるだろうし――そう思い、ちょっと目を離した隙だった。何かが地面に落ちる音が聞こえた。


 僕は、その音の鳴る方へ反応し、後ろを振り返る。すると、ついさっきまで僕の隣に居たゆんは、校門の向こう側に居た。今の音は、ゆんが校門を乗り越え、着地した音だったようだ。


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