空飛ぶバスガイド
俺は高校時代バスケット部に入っていた。青春の全てをバスケに捧げた、と言っても過言ではないと思う。自分で言うのは気恥ずかしいが、実力はエース級で攻めの姿勢を崩さなかった。オフェンスの鬼なんて呼ばれたりもしていたらしい。
いつもだったら交差点を右に曲がり30メートルほど先にある自分が住むアパートへ帰っているのだけど、その日は交差点を真っ直ぐに進んだ。全速力で走って。
真っ直ぐ行った先にバスケットボールが転がっていたのだ。たぶん、近所の子供が遊んでいてそのままにしたのではないだろうか。そのボール目掛けて俺は走った。早くボールを取らなくては、というバスケ部時代の気持ちに切り替わってしまっていたのだ。それに、久しぶりにバスケットボールに触れたかったという気持ちもあった。
左右を確認せずに交差点に飛び出した時にちょうど車が来て撥ねられたのだ。かなり大きい車だった。あれはトラックだったのか? 咄嗟のことでよく覚えていない。
「あれはトラックです」
と、空飛ぶバスガイドが言った。
この娘は俺の心が読めるのだろうか。
「本当に俺は死んだのか?」
「はい」
「本当にあの死体は俺なのか? ここからじゃよく見えない」
というのも、俺は地面から15メートルぐらいの高さにいたから。
「じゃあ下に行ってみてみればいいじゃないですか」
「どうやって下に行くんだよ。体がフワフワして上手く動けないんだ」
「下に行きたい、と思えばいいんですよ」
思えばいい?
もう何も理解できない。でも、確かめなくては。
(下へ行きたい)
重力を感じたかと思うと、体がみるみるうちに地面へと近づいてきた。と、同時に死体に近づいている……もう、いい。
死体から3メートル程度の高さで、下へと行く動きが止まった。また無重力状態となり体が浮いた。
死体はまぎれもなく俺だった。
「もう死んでいるのか? あれは本当に死体なのか?」
「そうです。ご自身の今の状態がもうわかっているのではないですか?」
「……」
今の俺の状態、これは魂ってやつだ。
死んでしまって体から抜け出てきたのか? そんな、漫画やアニメじゃあるまいし。でも、ほかに説明がつかない。
「おまえはいったいなんなんだ?」
これは当然の疑問だ。
俺がそう口にすると、空飛ぶバスガイドの表情が少し暗くなった。目を見開いたあとに少し俯いて。表情が暗くなると、幼さがより一層表に出ているように見える。そして、
「やっぱり、そうだよね……」
と、呟いた。
なにがやっぱりなんだよ。まったく。
空飛ぶバスガイドが顔を上げて俺のほうを見た。表情はまた落ち着きを取り戻している。
「私は案内人。魂の案内人です。」
バスガイドじゃなくて魂ガイドだったか。