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ソウルコンダクター  作者: カカオ
ソウルコンダクター
2/11

あなたは死にました

 気持ちいい。まるで無重力だ。体の重さがまるで無いみたいだ。俺は経験したことの無い気持ち良さに身を任せきっている。

……。

 いや、「みたいだ」でもなく「まるで無重力だ」でもない。俺の体は浮いてしまっている!どうしたというんだ。何がどうなってこうなったんだ!?

 周りを見渡してみると、住宅街のせいかしんと静まっていて、明かりはほとんど消えてしまっている。街灯がぽつぽつと、まるでニキビのような出来具合で点いているぐらいで暗い。

 俺は今どのくらいの高さ浮いてしまっているのだろうか。そう思い、下を向くと、交差点の真ん中で誰か人が倒れている。頭から血を流して、右腕と両足が奇妙な曲がり方をしている。

「あの人はあなたよ、楠木修司くすのきしゅうじさん」

 思わず「ひっ」と驚いてしまった。こんな高さに人がいるわけがない。それを言ったら俺は何なんだということになるだろうけど。いや、本当に何なんだろう。

 振り向くと、ピンク色のスカートとジャケット、手には白い手袋というバスガイドのような格好をした 女の子が立っていた。

 いや、浮いていた。

 高校生ぐらいだろうか。大人びがかった顔にわずかながら幼さが見え隠れしている。髪型はロングで、暗いせいでよく見えないが、少し茶色のようだ。

 空飛ぶバスガイド。

 俺の頭の中でそんな単語がふっとよぎった。右手に見えますのが、痴漢が出没する危ない住宅街でございます、と言ってくれはしないだろうか。

 それにしても……あの死体が俺?

「え……」

 俺が空飛ぶバスガイドのほうを向いたら、彼女は少し驚いたようだ。目を見張り、表情を強張らせたのだ。

 ただ、それが僕が浮いていることに驚いているわけではないのは確かだ。何せ彼女は空飛ぶバスガイドなのだから。バスは見当たらないけれど。

 彼女は急いで小さな手帳を確認し、俺の顔を見比べている。驚いた表情がより一層色濃くなったが、すぐに落ち着きを取り戻した。 

「あなたは死にました、楠木修二さん」

 空飛ぶバスガイドは簡潔に述べた。

 この娘は何を言ってるんだ。

 俺はここにいるじゃないか。

 この空飛ぶバスガイドといい、今の俺の状態といい、これは夢だ。

 きっと飲み過ぎたんだ。

 ああそうだ、思い出してきたぞ。

 俺はバイトが終わったあとに、バイト仲間達と居酒屋に飲みに行ったんだ。店員が可愛い娘で、誰か声をかけろよ、と皆で言い合い、結局声をかけたのは「生三つと枝豆」だけなのだから、俺達は度胸のないただのフリーターなのだろう。

 あれ、でもおかしい。飲んだのは生ビール一杯だ。俺はその程度で酔っ払って寝てしまうような下戸ではない。

 それに皆、金があまり無いということですぐに帰ったんだ。その後、いつものように暗い住宅街を歩いてアパートに帰ろうとして……。

「あなたはなぜ走っていたのですか?」

「走っていた?」

「そうです」

 走っていた?

 俺が?

 ……そうか。そういうことか。

 俺は全てを思い出した。思い出したからと言って、今のこの状態は理解できないけど。

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