プロローグ
シャーペンを握る指にいらぬ力が入ってしまう。力を入れたところで、点が良くなるわけでもないのに。シャッターが閉まりかかっているところへ滑り込こんで、その向こうへ行こうとしている気分だ。
明日は大学の入学試験。この日のために、僕は予備校に通い、電車の中でも嫌いな英単語や現代では使用用途が無くなってしまって久しい古文単語などを単語帳を睨み頭に叩き込む日々を送っていた。勉強は嫌いだ。
それにしても落ち着かない。受験前日ということもあるけれど、いつも勉強している予備校の自習室や自分の部屋の机ではない。
僕は東京の大学を受験するために、地元の北海道の稚内から上京してきている。今居る場所は新宿にあるウィークリーマンションで、一週間前からここに滞在している。
一週間も居て落ち着かないなんておかしいと思われるかもしれないが、慣れない大都会新宿と慣れないきれいな部屋で、気分が高揚してしまっているのかもしれない。
僕が宿泊している部屋は六畳の洋室で、ワックスできれいに磨かれたと思われるフローリングに真っ白いシーツと掛け布団のベッドがある。さらに、これまた真っ白い簡易デスクに横には14インチ程度の液晶テレビ。
どうせ狭苦しいユニットバスだろうと思ってシャワーを浴びようと思ったら、これまたまた真っ白い内装の大きめの浴槽と大きな鏡が設置してある浴室ときた。さすが都会とでもいうべきなんだろうか。
ただ、真っ白いばかりのこの部屋は、僕の頭まで真っ白にしてしまうようで恐い。真っ白になるのは、受験が終わってからだ。
不安だ。
頭の中でそう呟いた。ちなみに98回目の「不安だ」だ。
100回になったら、もう寝よう。