番外編
レティシアは、宰相府の執務室でアレクシスの向かいに座っていた。
書類の山を前に、アレクシスは淡々と仕事を進めている。
(……なぜ私はここに?)
理由は簡単だった。
「君が隣にいると集中できる」
と言われたからだ。
(……集中できるの? むしろ邪魔では?)
レティシアは無表情のまま、静かに紅茶を飲んだ。
アレクシスは書類に目を通しながら、ふと視線を上げた。
「……今、少し眉が動いたな」
「動いていません」
「動いた」
「動いていません」
「動いた」
レティシアは無表情のまま、ほんの少しだけ視線を逸らした。
アレクシスは満足げに微笑む。
「可愛い」
(……また言われた……!)
レティシアは紅茶を飲む手を止めた。
アレクシスは席を立ち、レティシアの後ろに回り込む。
そして、彼女の肩にそっと手を置いた。
「……緊張している?」
「していません」
「している」
「していません」
「している」
レティシアは無表情のまま、ほんの少しだけ肩が跳ねた。
アレクシスはその反応を見逃さず、静かに抱き寄せた。
「……可愛い」
レティシアは固まった。
(……この人、絶対わざと……!)
しかし、アレクシスの腕は温かく、優しく、
レティシアは無表情のまま、そっと目を閉じた。
「……アレクシス様」
「ん?」
「……少しだけ、このままで」
アレクシスは息を呑んだ。
「……もちろんだ」
その声は、驚くほど甘かった。




