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解けない、溶ける。

作者: 星見有春
掲載日:2026/02/14

 帰らないでください、と叫べば、何かが変わったのだろうか。愛を解けるほど私は頭が良くないし、恋愛について理解しているわけでもない。だから解けないのであって、今さっき帰っていった名も知らぬ男性にどう答えていいのかわからなかった。

 

 なにかがあったわけではない。告白をされたわけでもない。ただ、とある場所で知り合って、何度かチャットをして、電話をして、会った。食事をした。それだけのことだ。

 

 会計が前払いのカフェチェーンに入った私と彼は、なんてことない常設メニューのドリンクを頼んで、他愛のない会話をした。

 顔はすでに知っていたが、実際に会うと思っていたより若く見えた。服装にこだわりがないのか、パーカーにジーンズという出で立ちだ。

 私は一応、ブラウスにスカートを履いてきたが、普段はこんな格好はしない。むしろ相手が着てきた服装の方が私の普段の服装で、変にカッコつけてめかし込んでしまったのが恥ずかしくなる。

 一年は確実に履いていないヒールを履いて、石畳を歩いた。二度コケた。もう履かないだろう。


 ドリンクを飲みながら、お互いの話をする。好きな漫画の話、ゲームの話、音楽の話。仕事のことを簡単に話したりもした。相手が自分の仕事をカッコつけて話し始めたのがわかったのは面白かった。マーケティングをしているらしい。それを、あの会社がどうだあのビジネス書がどうだと話だし、私のドリンクが飲み終わったのにも気が付かないでいた。

 その人のドリンクはまだ残ったままだ。話を聞くのは嫌いではないが、こうも興味のない話を熱弁されると飲み干したドリンクが恋しくなる。

 仕事熱心は結構だけど、少し止まって欲しい。


 願いが通じたのか、それとも私の冷めた態度が気に障ったのか。その人は先程の話っぷりがウソのように言葉を止めた。

 そして、スマートフォンを手に取り、少し操作してからこう言った。


「すみません。急な仕事が入っちゃって……。家に帰ってリモートで仕事することになりました」


 今日は楽しかったです、と無機質な声で言いながら、私が口を挟む間もなく荷物をまとめて出ていった。帰らないでくださいだとか、また今度どこかに行きましょうだとか、そんなこと言わせてはくれなかった。無論、言うつもりもなかった。

 言えるわけがない。そんなこと思ってないのだから。

 

 だけれど、私は確かに恋人が欲しくてこういったことをしていて、せっかくこうして会う人がいた。そんな人が帰ろうとしていたのに、何の言葉も出てこないなんて、そんなことがあるのか。

 

 あるのだ。なぜなら、恋人が欲しいのかもわからないからだ。恋人が欲しいか、という答えに、私は「はい」と答えられない。

 その答えを探すためにこういったことをしているわけ、なのだが……これは不誠実なのだろう。

 私にだってわからないのだ。恋人が欲しいのか、いらないのか、恋愛がしたいのか、したくないのか。それがなんなのかすら、わからない。


 私のいる席の隣りにある飲み残し用ゴミ箱には、先程の彼が飲んでいたチョコレートドリンクがベッタリとついていて、彼への好意とともにドロドロに溶けてゴミ箱の中へ落ちていった。

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