第2章:前世の影
村だった灰の山の中で、ロイドは独り立っていた。静寂を切り裂くように、あの雨の夜に現れた「謎の黒い影」が地面から這い上がる。姿形は定かではないが、そこからは奇妙なほど懐かしい気配が漂っていた。
「ふん……この破壊を欲する魔力、間違いあるまい」影の声は低く、万物を嘲笑うような響きを含んでいる。
ロイドは冷徹な眼差しで振り返った。「貴様は何者だ? なぜ俺の力を知っている」
影は低く笑い、徐々に姿を変えていく。現れたのは、ロイドと瓜二つの容姿を持つ青年だった。ただ一つ違うのは、その瞳が血の海のように赤く、放つ殺気が数倍も苛烈であることだ。
「俺はお前だ……そして、お前は俺だ。『ロイド』、いや、かつての名で呼ぶべきか? 『魔神アシュラ』。かつて神々を震え上がらせ、天界を壊滅寸前まで追い込んだ存在よ」
ロイドは眉をひそめる。「魔神だと? 何を馬鹿なことを」
「忘れたか? この矮小な人間の肉体に宿る前、お前は魔と神の頂点に君臨する者だった。神ですら恐れる闇の次元の支配者だ。だが、永遠という退屈に飽き果てたお前は、自ら肉体を捨て、人間の苦痛を味わうために転生を選んだのだ!」
影はロイドに歩み寄り、至近距離で言い放った。 「洞窟で聞いたあの声……力を欲するかと問うた声。あれは他人の声ではない。この魂の奥底に眠る、お前自身の 『元の意志』 だ!」
ロイドは絶句した。脳裏に、天界を焼き尽くす戦争の断片的な記憶が、割れた鏡のように浮かんでは消える。体内の魔力がその言葉に呼応し、周囲に漆黒の雷鳴を轟かせた。
「そうか……すべてを足蹴にしたいというこの衝動、それは俺の性根そのものだったというわけか」ロイドは狂気じみた笑みを浮かべた。
「左様だ! 今、お前は最初の鍵を取り戻した。かつての玉座を取り戻せ。お前を人間の殻に閉じ込めた偽りの神々を、一人残らず蹂躙しろ!」影は叫び、黒い霧となってロイドの体へと吸い込まれていった。
ロイドは目を閉じ、恐るべき真実を飲み込んだ。再び目を開けたとき、黄金の瞳には薄らと赤き輝きが混じっていた。 「ふん……魔神か。俺にはお似合いの肩書きだ」




