第1章:神魔の産声(完結編)
燃え盛る炎の中、ロイドは瓦礫を踏み越えて進む。命乞いの叫びなど、今の彼にはただの雑音に過ぎない。しかし、一人の影がその行く手を阻んだとき、彼の足が止まった。
「止まれ、ロイド! もうやめるんだ!」
それは 「カイン」 だった。飢えに苦しんでいたロイドにパンを分け与え、村中の人間から暴行を受けていた彼の手当てを隠れてしてくれた、唯一の親友だ。カインは全身を震わせ、恐怖と悲しみが混ざった瞳でロイドを見つめていた。
ロイドは虚無の眼差しで旧友を見つめる。彼から放たれる圧倒的な威圧感にカインは膝をつくが、ロイドはわずかに力を抑え、友が塵に変わるのを防いだ。
「どけ、カイン。お前には関係のないことだ」 静かな、しかし大気を震わせるほどの重みがある声だった。
「どけるわけないだろう! 全員殺してしまったら、お前はもう元には戻れないんだぞ!」 カインが涙ながらに叫ぶ。
ロイドは薄く笑った。それは悲しく、そして冷酷な笑みだった。 「元の人間に? 奴らに唾を吐かれ、犬のように追い回されていたあの無力な男にか? ……カイン、あの男は雨の夜に死んだんだよ」
ロイドはカインに歩み寄り、唯一の友の肩に手を置いた。淡い黄金の光がカインの体に流れ込み、彼の傷と疲労を一瞬で癒していく。同時に、不可視の障壁がカインの身を包み込んだ。
「俺を人間として見てくれたのは、お前だけだった。だから、お前だけは生かしてやる」 ロイドは囁いた。「逃げろ、カイン。このゴミ溜めから去り、二度と俺の前に現れるな。次に出会った時……その名はお前を救う理由にはならない」
「ロイド……お前……」 カインは言葉を失った。ロイドの決意が、もはや神の域に達していることを悟ったからだ。
「さらばだ。俺の、たった一人の友よ」
ロイドが手を一振りすると、柔らかな旋風がカインを村の圏外へと運び去った。そして彼は、残された村へと再び向き直る。黄金の瞳が激しく燃え上がり、その掌からは漆黒の炎が溢れ出した。
「俺の視界から、消え失せろ」
その命令が下された瞬間、壊滅的なエネルギーが村全体を飲み込んだ。数秒後、そこには何も残らなかった。ただ、灰の中で孤独に立つ一人の「神」の姿があるだけだった。




