第1章:神魔の産声(承)
大気に漂う死の残滓を、ロイドは深く、そして穏やかに吸い込んだ。体内で脈打つ力は、単なる暴力ではない。それは、世界そのものを書き換える「権能」だ。彼は消え果てた傭兵たちの灰を冷酷に踏みつけ、一歩を踏み出した。向かう先は、かつて故郷と呼んだ場所であり、彼に絶望という名の烙印を押した地、**「白石の村」**だ。
村の光景を脳裏に描いた瞬間、彼の肉体は質量を失ったかのように加速し、木々をすり抜け、視界が歪んだ。次の刹那、彼は村を見下ろす丘の上に立っていた。
「ああ……相変わらずだ。反吐が出るほど、平穏を装っているな」 金色の瞳が憎悪に濡れ、冷たく光った。
彼が村の入り口に姿を現すと、警鐘が鳴り響いた。かつて彼を石でもてなした村人たちが、武器を手に集まってくる。その中心に立つ村長が、ロイドの姿を認めて顔を歪めた。
「あれは……ロイドか! 追放された厄災の子が、なぜ生きて戻った!」 かつてロイドの家を焼き払えと命じた老人は、狂ったように叫ぶ。 「兵士たちよ、早く捕らえろ! 奴が生きているだけで、この村に災厄が降りかかる!」
十数人の衛兵が槍を構え、一斉に襲いかかる。ロイドは逃げるどころか、わずかに首をかしげ、憐れみすら含んだ笑みを浮かべた。
「災厄だと? お前たちは、まだ本当の地獄を見てさえいない」
ドォォォォォン!!
手首を軽く払った。ただそれだけの動作で、衛兵たちを取り囲む大気が一瞬にして爆縮した。強固な鉄の槍は飴細工のように捻じ曲がり、男たちは叫ぶ暇もなく吹き飛ばされた。静寂が村を支配し、ただロイドの冷徹な足音だけが響く。
「な……何の魔術だ! 貴様、どこでその悪魔の力を手に入れた!」 村長は腰を抜かし、無様に地面を這いずりながら後ずさる。
ロイドは老人の前に立ち止まり、骨まで凍り付くような声で囁いた。 「これは悪魔の力じゃない。お前たちがいつも、俺を追い詰めるために口にしていた『神の裁き』そのものだ。……望み通り、見せてやるよ」
彼が、偽りの信仰の象徴である教会の尖塔を指差した。 「滅べ」
雲一つない空から、漆黒の雷鳴が降り注いだ。教会が、そして彼を虐げた者たちの家々が、一瞬にして瓦礫へと変わる。響き渡る悲鳴の中で、ロイドは心地よい虚無感に浸っていた。
もはや彼は、追われる身ではない。慈悲なき「造物主」であり、同時にすべてを無に帰す「破壊神」へと至ったのだ。




