第7章:次元の虚無
ロイドは次元の裂け目を越え、高天神界へと降り立った。だが、そこにあったのは黄金の城でも聖なる草原でもなく、方向も時間も距離も意味をなさない 「白銀の虚無」 だった。その中心、存在するようで存在しない玉座に、一柱の存在が静かに座していた。
それこそが 『最高神』。ロイドの前世の魂が、かつて超えようと渇望した存在だ。
「ようやく辿り着いたか、アシュラよ。貴様が汚らわしいと呼ぶその器でな」 最高神の声は耳ではなく、次元のあらゆる方向から響いた。「だが、一つ勘違いをしている。貴様が今、時空を歪めているその力……それは、少し広くなった檻の中での足掻きに過ぎぬ」
最高神が立ち上がると、ロイドは肉体だけでなく『現実』そのものが圧殺されるような圧力を感じた。
「すべては 第3次元 から始まる……脆弱な物理平面であり、上の段階に比べれば無意味な点に過ぎぬ。第4次元 へ昇ることは、単に空間を得ることではない。第3次元の時間と物質のすべてを、静止した断面として完全に包含することなのだ」
最高神が歩み寄る。その一歩ごとに、ロイドの周囲の次元が歪み、自分の体があらゆる瞬間に存在する数百万の残像として分離して見える。
「第5、第6、そしてさらに高く、ついには 無限次元 へと至るとき、各階層は『観測者』として機能する。一つ下の次元は、不完全な二次元の画像としてしか認識されぬのだ」
ロイドは空間を歪め、攻撃を仕掛けようとした。だが、彼の拳は最高神に触れることすらできない。まるで、紙の中に描かれたキャラクターが、紙の外の存在を殴ろうとしているかのようだ。
「最も致命的な誤解は、『無限の第3次元』が上位次元に匹敵し得ると信じることだ。現実には、第3次元をどれほど拡張しようと、第4次元から見れば『平坦な面』に囚われたままだ。無限に積み重なった次元の階層構造でさえ、次元の枠組み の法に縛られている」
最高神はロイドを冷酷に見据えた。「ゆえに、次元の上昇とは量や規模、無限の問題ではない。存在の『視点』と『状態』の根本的な転換なのだ。上位次元は単に下位を凌駕するのではない……下位次元を完全に再定義し、現実ではなく『抽象概念』へと変えてしまうのだ」
「私は次元の枠組みそのものの階層にいる。貴様は……私の紙に描かれた色に過ぎぬ」
最高神が指先でロイドの額を軽く突いた。 「相応しき闇の底へ帰るがいい」
ドォォォォォォォォォォン!!
魔神の力をもってしても抗えぬ衝撃。ロイドは己の存在が現実から消去される感覚に襲われた。彼は神界から突き落とされ、数百万の次元を突き抜け、かつての力は霧散した。最後に感じたのは底知れぬ虚無感……。彼は、以前よりも無惨な姿で、再び人間界へと墜落した!




