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夜鳴きジョー  作者: hsgwwr
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『縛』

《NEON》で割れたグラスやガラスは、記憶をいじって、俺の経費から落とした。

祓師はボランティアではない。

一応、高尾山の寺院から、神社から給料をもらい働いている。

福利厚生、社保完備、住宅費一部補助、必要経費は申請すれば落ちる。

命ギリギリのラインで祓っている会社員なのだ、正直、当然のことだ。


俺は直した《NEON》でまたロクと飲んた。

「本当、よくあんなこと続けられてるね」

しゃがんだバニーガールのお尻のラインが喋っていた。

「そりゃあここでお酒が飲むのが俺のお仕事で推し事だから」

「嬉しいけどさ、心配だよ」

「新卒一年目、苦労は買ってでもしろって、親父が言ってたんだよ」

「…ご両親いないんでしょ?」

「あれ、バレてる」


わはは、と笑った後無糖の紅茶ハイを平らげた。


───吠天を祓った時の『縛』、『空』の影響がジリジリと俺の指を焼きつけていた。

どこか怒りを感じるような、そんな感覚だった。


指は赤黒く変色しているが、骨が折れてる訳ではない。


そうして、少し嫌なことに「ロクの声」が聞こえると、ズキンと痛むのだ。

何が原因なのかはわからない。


ただ、彼女の声は俺の指を痛めた。

飲み過ぎで手に痛風ができたか?と思ったほどだった。


齢23にして生活習慣病になるのは、ごめんだ。


「ジョー、指ホントに赤いじゃん?大丈夫…?」


話したいのに、ジリジリとした痛みが口を開くのを妨げる。


「天狗の鼻みたいな色になってるよね」

と笑ってみせる。


「それ、ジョークのつもり?」

と真剣に返されてしまった。

渾身のギャグだったのにな…。


氷で指を冷やしながら、酒を飲んだが、ロクの声が痛すぎて、ワンタイで退店してしまった。


困ったもんだな、このタイミングで天狗が出たら、祓える気がしない。


深夜一時、NEONを出た後に歓楽街をグルリと回って異変がないことを確認して、高尾までの道を歩いた。


吠天は確実に地位のある天狗だった。

その天狗が祓われたのだ、天狗側もこちらを警戒してくれているのだろう。


その分回復に充てられるからこちらとしては願ってもないことなのだが。

それを察して襲われてしまっては仕方がない。


春くらいまで出ないでくれ、と願いながら夜道を歩いた。


すると、ポケットに入れていた左手の薬指が、ピリリと痺れた。

思わずポケットから手を出してしまった。


カタン、と小さく音がした。


戒輪がわずかに鳴った。

生き物のような音。


薬指と契約した仏の声がした。


───穣。


低く、乾いた声が、骨の中から響く。


「契約時以降は話さないのが仏の常だって、言ってませんでしたっけ?」


───喋らされているのだ。お前の迷いによってな。


「迷い?迷っちゃいないっすよ」


─────あの娘だ。天狗に愛される匂いを持つ女。その女を側に置いて、迷わぬ祓師がいるか。


嫌な勘は当たった。やはり"ロク"が引き寄せているのだ。

夜酔い天狗、嫉ノ影天狗、さらに吠天。

いずれにもロクはいた。


───お前は目を背けるか?また手のひらから命を溢すのか?あの花を、また失うつもりか?


俺は黙ってまたポケットに手を入れた。


「どう祓えばいいんだよ…」


その問いは、夜の静けさに飲み込まれていった。


薬指は、何も答えなかった。


───朝6時、ようやく帰路についた私は、「藤城ミナ」とイヤホンをしているのに、背中側から呼ばれた気がした。

「ロク」じゃない。

親にもらった名前だ、振り返っても、誰もいなかった。


ゾッと鳥肌がたった。

絶対、呼ばれた。


風が、前後から吹いていた。

髪の毛が上に持ち上げられた。

十字架の形をしたピアスが揺れる。


「まただ、嫌だな、この感じ」


ジョーに連絡すべきか、悩んだ。

ただ、天狗のものなのか確信が持てなかった。

ビル群に立っているのだ。

風が強く吹くくらいなら、普通か…。


───次の晩、天狗が現れてしまった。

「あーあ、まーた嫉ノ影天狗(しっとのえいてんぐ)さんの類か、さすがにしつこいかもなー」

「夜ノコノ街ハ、儂ヲ濃クスル。何度デモオマエノ前ニ現レテ見セヨウゾ」


以前よりも片言だ、人の体をうまく扱えていない───声帯までコントロールできないほどになったんだろう。


『破』と『輝』、『滅』と五願輪でなんとか対応できるだろう。

『空』を使えるほど、回復していないし、放てる自信もない。

『縛』は───弱体化しているし、何よりまだ痛みがまだ強い。

指2本は使えないものとして、祓わなければならない。


「効いてくださいよー、頼みますよー!」


『破』


左腕を振るい、天狗の翼の結界を落とす。

影から落ち出た天狗が地面に立った時、これまで見たことのない大きな葉のうちわでこちらを煽った。


暴風がこちらの歩みを止める。


「天狗らしいこと、してくれるんすね!久しぶりですよ、こういうの!」


左の小指のリングに触れ、発した。


『滅』


───消えない、風の量が減らない!

技じゃないのか?


一瞬の動揺を、天狗は見逃さなかった。

その風に乗り俺の腹に強烈な蹴りを入れた。


肋が折れる音がした。

瞬間、吹き飛ばされ、ガードレールに背中を強打して、倒れた。


肋がどこか大切なところに刺さっているのがわかる、強烈な激痛だ。

右の薬指、『蘇』をつかう。

だが痛みは消えない、軽傷にしか効かないのだ、これは。


誤魔化しながらやるか、と立ち上がると、もうそこに天狗はいなかった。


「うわー、マジか…」


ガクッと首を下げたところで、鼻血が出た。

顔には一撃も喰らっていない。

ということは技の連発が原因か?

3発だけで…?


「アタリ判定厳しすぎんだろ…」


肋が刺さっているのは、肺だろう。

血が入り、呼吸するたびにゴロゴロと痛む。


「こりゃ流石に救急車かなあ…」

スマホを取り出し、状況を伝えたところで、意識が途絶えた。

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