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夜鳴きジョー  作者: hsgwwr
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血みどろのヒーロー

───ジョーは目醒めていた。

祓師としての矜持を捨て、殴り、蹴り、大切な人を人質にとられた。

彼を奮い立たせる理由としては充分だった。


地面に叩きつけられるほんの60cmのタイミングで、術の解けた自由落下になっていることに気づき、宙返りして脚を地面側に向けることができていた。


着地と同時に『破』を唱え、天狗の翼の結界を解除、同時に落ちてきたロクを抱え、降ろす。


裂声天は声を上げ、ジョーへ精神系の攻撃を続けていた。

トラウマや、傷になる言葉を記憶の底から穿り出してジョーを煽った。


するとジョーの動きは止まった。

その声が心に突き刺さっているからだ。


ジョーの右中指が青白く光り、『護』でそれを打ち消したことがわかる。


だが───、ジョーの一番触れてはいけないところに触れていた。

「護れなかった」人の言葉を掘り返して、ジョーにそれをフラッシュバックさせる。


裂声天はそれに気づかず、それを煽り続ける。

「護れなかった、という音が芯まで沁みているようですねェ!」

と、抉る。


ロクを立たせると、今度はそこから動かないように指示し、右親指の『奮』を発動させ、電光石火の如く裂声天の元へと駆け出した。


瞬時に裂声天は後ろへ歩みを戻すが、ジョーは既に煽り続ける口を閉すべく、アッパーを喰らわせ、舌を噛み切らせた。


───動かないで、と告げられた。

それはあまりに一瞬のことだったのに、言われた瞬間石になったかのように私の体は止まった。

震えもなくなっていた。

ああ、勝つんだな、と確信した。


天狗の顎を捉え、踏ん張った足を軸に右腕を下から上へ振り抜いた。


怖いほどだった。さらに人間離れした技を繰り出したのだから。


「…ったく、声がデケェだけなのに調子乗りやがって。ようやく鼓膜が治ってきたばっかなんだよ」


足元はフラつき、立っているのに必死な様子だった。

けれど、ジョーの口は絶好調で動く。


「ロクちゃんが人質でー?タチが悪いにも程があるでしょうよ、雑魚天狗さん」


裂声天が歪んだ声で囁く。


「でも、もうそれ以上動けないでしょう、あなたの心はもう折れてる」


「たしかにーまあー、三割は折れたかな?」


ジョーは口の端をぬぐう。

血が指輪にべっとり付いた。

青白い炎が、血を飲んでいくみたいに揺れた。


「でも───卑怯なやつ相手には七割もあればお釣りが返ってくるくらいかなあ!」


と、声を荒げていた。


裂声天の声がさらに深く突き刺さる。

過去の怒鳴り声、失敗、後悔。

“護れない”という傷だけを突く残響が辺りに響いた。


立ち上がれなくてもおかしくない。

心配になった。

彼をなんとか救えないものだろうか…。


「ジョー…」


ただ、名前を呼んだ。


─── 一瞬で全ての雑音が吹き飛んだ。

自分でもわかるくらい歪んだ笑みが浮かんだ。

「スケベで生臭坊主だけどよー、護りたいものの声はしっかり拾ってくれるんだよな、この耳は」


次の瞬間、世界が"無音"になる。

十三あるピアスとリングが一斉に震え、まるで血を吸ったかのように赤く、黒く、灼け落ちるように光った。


裂声天が息を呑み、発する。


「なに…それ…」


血に染まったスカジャンの袖をまた捲り、腕をぐるぐる回す。


───ボロボロなのに、戦う前かのように余裕綽々で悪戯っぽく笑っている。


ドク…ドク…とまるでジョーの心臓の音だけが鳴り響いているかのような環境音。


裂声天が後ずさる。

「なんだ、その音───」


───ジョーは語る。

「追い込んでくれたおかげで、俺の頭ん中に溜まってたタバコの煙が消えてさぁ…今自分がどうしたらいいかってハッキリわかんだよね───聞こえる?俺の心臓の音。俺には音が形になって見えるくらい鮮明に聞こえてるから───多分聞こえているよね」


「裂声天さん───女天狗さん、受け取ってくれよ、俺の必殺技二つ…」


左の中指を立ててリングに触れる。

リングとピアスが光り、共鳴しているのがわかる。

音でわかる。心地の良い、木魚を叩いているような、牧師が祈りを捧げているような音。


『空』

『D’une ardeur brûlante, l’innocence-灼熱にて純情──心焔』


指をパチンと鳴らす。


───無音、遅れて業火が音を立てて裂声天の体に発生する。


裂声天の絶叫、だがジョーは歩みを止めない。


「あぁ、まだまだ行かないで。もう一つ贈りたい(プレゼント)があるんだから」


左耳のピアスを下から全てなぞり、左人差し指のリングに触れる。

『戒』『輝』

『Un bouquet de fleurs avec amour──愛を込めて花束を』


最大の皮肉を込めて、人差し指を天狗の頭に突き刺す。


地が揺れ、天狗は地面に叩きつけられ、祓力に焼かれていく。


ジョーは肩で息をしながらも、笑う。


「おい、まだ喋れるか? なら……」


拳を鳴らす。


「ロクに謝れ。話はそれからだ」


血まみれ、ボロボロ、立ってるだけでギリギリ。

でも笑っている。

それがジョーの強さだった。

そうして灼かれながら天狗は霧散した。


───ジョーが勝った。

血みどろだけど、確かに同時に現れた天狗二体を祓った。


ジョーは振り向きこう言った。

「生牡蠣の味わふれちゃったひょ、戻る?」

口の中に血が溢れていて、言葉がハッキリしていない。

「そんなカッコで戻れるわけないでしょ」

そう返すとガッカリした表情で、スカジャンの袖を元に戻し、真っ黒になった袖を見て更に肩を落とし

「これ落ちるかなあ、結構黒ずんじゃったね」


まずは───自分の心配をして欲しい。

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