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三題噺もどき4

寒い朝

作者: 狐彪

三題噺もどき―ななひゃくごじゅうなな。

 




 ぱち―

 と、目が覚めた。

「……」

 視界に飛び込むのは、視界にはぼんやりした暗闇が広がる。

 いつもの時間なら、部屋の中はもう少し明るいはずなのだけど……。

 そう不思議に思ったが。

「……」

 気付かぬうちに、布団を頭までかぶっていたようだ。

 ぼやけた温もりが頭からつま先まで、全身を包んでいたことに気づいた。

 相当寒かったのか、それとも嫌な夢でも見たのか。何かに怯えて隠れるように、何かに守られるようとするように……赤子のような姿勢で、体を丸めて眠っていたようだ。

「……」

 おかげで体重をかけていた半身が、麻酔をかけたように痺れている。

 下敷きになっていた右手は、感覚が抜けたように返ってこない。

 若干首も肩も痛むような気がするが……どれだけの時間この姿勢で眠っていたのだろう。

 不思議と息苦しい感覚はないから、寝苦しくはなかった。

「……」

 普段とは違う姿勢で眠っていたせいで、関節が軋む。

 動くたびに関節がきしきしと、変な音がするなぁ、と思いながらも、丸くなっていた体を伸ばしながら。ゆっくりと、天井を見るように仰向けの姿勢になる。

 猫の背伸びのをしているような気分だ。

「……」

 足先は冷えた掛け布団に触れ、頭は冷気にさらされる。

 思わず身震いしてしまう程に、今日は冷えている。

 こう、急に冷え込まれるとたまったものではないな。

「……」

 まだ少し痺れている感覚のある、右手を布団の中から引き出し、空気にさらしてみる。

 陽に当たることもあまりない、血の気の失せた青白い死人のような腕が視界に入る。爪先も色はなく、ただの肌がその分延長されただけのように見える。

 一応、血は通っているはずなのだけど。

「……」

 冷えた空気に当たったせいで、その腕には鳥肌が立っていた。

 試しに、ぐっと拳を握ってみる。

 その一瞬だけ、血が廻ったような感覚と、少し電気の走るような感覚がした。

「……」

 何かで、あまり朝はネガティブ思考に陥ることはないと読んだのだけど。

 それは何を根拠にしているのだろうか……。

 まぁ、毎日そちら側の思考に偏ることはないだろうけど。

「……」

 私だって別に、毎日毎日、嫌な気持ちで起きているわけではない。

 気分よく起きることもあまりないのだが。

「……」

 目の前にさらされた腕。

 人間は時折、この首に線を入れて、滲む赤を眺めるのだとか。

 それをさらに沈めてみたりするのだとか。

「……」

 私もそうすれば、死ぬことができるんだろうか。

 生きていると言う実感が持てるのだろうか。

「……、」

 腕を上げることにも疲れて。

 ぱたりと、ベッドの上に落とす。

「……」

「……」

「……」

「……」

「……」

「……ご主人」


「……、」

 声のした方に頭を動かすと、そこには小柄な青年が立っていた。

 エプロンをつけ、さすがに寒かったのか今日は長そでの服を着ている。

「……起きてますか」

「……ん」

 時間を過ぎても起きてこない私に痺れを切らしたのだろう。

 問うてきたその声には、呆れと少しの不安が混じっているように聞こえた。

 私が死ぬことなんてそうないのに。

「……ご飯できてますよ」

「……うん」

 温かな食事を。

 二人で頂こう。





「おはようございます。」

「おはよう」


















 お題:ネガティブ・麻酔・夢

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