寒い朝
三題噺もどき―ななひゃくごじゅうなな。
ぱち―
と、目が覚めた。
「……」
視界に飛び込むのは、視界にはぼんやりした暗闇が広がる。
いつもの時間なら、部屋の中はもう少し明るいはずなのだけど……。
そう不思議に思ったが。
「……」
気付かぬうちに、布団を頭までかぶっていたようだ。
ぼやけた温もりが頭からつま先まで、全身を包んでいたことに気づいた。
相当寒かったのか、それとも嫌な夢でも見たのか。何かに怯えて隠れるように、何かに守られるようとするように……赤子のような姿勢で、体を丸めて眠っていたようだ。
「……」
おかげで体重をかけていた半身が、麻酔をかけたように痺れている。
下敷きになっていた右手は、感覚が抜けたように返ってこない。
若干首も肩も痛むような気がするが……どれだけの時間この姿勢で眠っていたのだろう。
不思議と息苦しい感覚はないから、寝苦しくはなかった。
「……」
普段とは違う姿勢で眠っていたせいで、関節が軋む。
動くたびに関節がきしきしと、変な音がするなぁ、と思いながらも、丸くなっていた体を伸ばしながら。ゆっくりと、天井を見るように仰向けの姿勢になる。
猫の背伸びのをしているような気分だ。
「……」
足先は冷えた掛け布団に触れ、頭は冷気にさらされる。
思わず身震いしてしまう程に、今日は冷えている。
こう、急に冷え込まれるとたまったものではないな。
「……」
まだ少し痺れている感覚のある、右手を布団の中から引き出し、空気にさらしてみる。
陽に当たることもあまりない、血の気の失せた青白い死人のような腕が視界に入る。爪先も色はなく、ただの肌がその分延長されただけのように見える。
一応、血は通っているはずなのだけど。
「……」
冷えた空気に当たったせいで、その腕には鳥肌が立っていた。
試しに、ぐっと拳を握ってみる。
その一瞬だけ、血が廻ったような感覚と、少し電気の走るような感覚がした。
「……」
何かで、あまり朝はネガティブ思考に陥ることはないと読んだのだけど。
それは何を根拠にしているのだろうか……。
まぁ、毎日そちら側の思考に偏ることはないだろうけど。
「……」
私だって別に、毎日毎日、嫌な気持ちで起きているわけではない。
気分よく起きることもあまりないのだが。
「……」
目の前にさらされた腕。
人間は時折、この首に線を入れて、滲む赤を眺めるのだとか。
それをさらに沈めてみたりするのだとか。
「……」
私もそうすれば、死ぬことができるんだろうか。
生きていると言う実感が持てるのだろうか。
「……、」
腕を上げることにも疲れて。
ぱたりと、ベッドの上に落とす。
「……」
「……」
「……」
「……」
「……」
「……ご主人」
「……、」
声のした方に頭を動かすと、そこには小柄な青年が立っていた。
エプロンをつけ、さすがに寒かったのか今日は長そでの服を着ている。
「……起きてますか」
「……ん」
時間を過ぎても起きてこない私に痺れを切らしたのだろう。
問うてきたその声には、呆れと少しの不安が混じっているように聞こえた。
私が死ぬことなんてそうないのに。
「……ご飯できてますよ」
「……うん」
温かな食事を。
二人で頂こう。
「おはようございます。」
「おはよう」
お題:ネガティブ・麻酔・夢




