第90話 偶然の必然
―――2026年5月4日 都内 丸の内
春の陽気が少しづつ暑さに変わる頃、界面機構という名前の会社の前に安西と雪乃はいた。
どうやら商業ビルのワンフロアに存在するその会社はアドバンスドウォーを制作している会社だ。
「とりあえず、俺が行ってくるっす。」
「はい?真正面からですか?」
雪乃は驚いていた。
「別に命の奪い合いをするわけじゃないっすよ。ただ情報を聞きに行くだけっす。」
「ま、まぁ...」
雪乃は入り口で待機することとなった。
安西がエレベーターで会社のある階まで行くと、すぐに受付らしき場所が見える。
「こんにちは!」
元気のよい挨拶で無難に乗り込む。
「ご来訪有難うございます。営業の方ですか?」
「はい。私、NCCの安西と申します。この度は御社へサーバー関連のご案内をと思いまして」
「担当の者を呼びますのでお待ちを」
受付の人物は内線で電話を掛ける。
数分すると、初老の男性が現れた。
「サーバー担当の小西です。どうぞ、こちらへ」
社内の会議室だろうか、椅子と机で構成された質素な部屋へ案内された。
「有難うございます。御社がゲーム関連事業で非常に高評価を得ていると聞き及んでおりまして、その中でビッグデータを扱っている可能性があると思い、是非弊社製品を使用していただけないかと!」
早速本題を切り出す。
同時に、小型デバイスを通して安西を通して雪乃に伝わる。
「(もし買うなんて言われたらどうするつもりなんでしょうか)」
「ああ、そういうことですか。」
「...?」
「非常に申し訳ないのですが、弊社のデータクラウドは独自設計なのです。一般とは異なるデータを使用しているため、他者に依存できないんですよ。」
「というと…我々も日本大手のIT企業ですので一般的でないデータも多数扱っています。」
「言い方が悪かったのかもしれませんが、ミヤビAIというものをベースに弊社独自のゲームやアニメなどに特化した情報収集プログラムを運用しています。そのシステムはもともと、弊社の幹部である佐竹という者がWEBメディア用に開発、運用していたものです。」
「なるほど、確かにミヤビAI関連となると、少々特殊ではありますね。それに佐竹さんという方がいるのであれば必要ないかもしれません。」
「はい。ですのでサーバー関連の製品ということであれば、可能性としてはありますが、保守ということであると必要ありません。」
営業を装ってここまでの情報を聞き出せたのは単に安西の能力があったからだろう。
ただ、大佐が雪乃に伝えた印象、”何物でもない”の本当の意味は
”なににでもなれる”
ということだ。
「では、サーバー製品を含め今回戴いた情報を元に改めて営業に伺ってもよろしいでしょうか?」
「はい。お願いします。」
「最後に、参考までに差し支えなければ、現在のサーバースペックなどを教えていただけますか?」
「そうですね。ただセキュリティの観点から具体的に伝えるのは難しいのですが...」
といいつつも小西はスマートフォンを取り出す。
「あ、これですね」
小西はサーバールームの画像を見せた。
「だいたい一台100万円程度で購入しています。」
「有難うございます。おそらく弊社の製品でもう少し安くできるものがあると思いますので次回ご紹介します。」
「はい。わざわざありがとうございました。」
「それでは、失礼します。」
安西は会社を出た。
外へ出ると雪乃と合流した。
「雪乃さん。この建物の構造ってでます?」
「はい。安西さんの端末に送信しました。」
「やっぱり...そうっすね。ここからは雪乃さんの出番です。」
「サーバー関連の情報が出ましたので、おそらくは可能でしょう。」
「ですよね。必要なものとかありますか」
「いいえ、その点については大丈夫でしょう。どんなセキュリティでも、一つでも外部のと接続があるならば侵入は可能です。」
「まあそうっすよね。おそらくとても頭のいい幹部がとてつもないものを作ってしまっただけっすね。一応確認も必要っすよね。」
「はい。偶然を装った必然という線もあり得るのでデータを調べる必要はあります。」
一通りすり合わせたのち、隣にあったカフェに入るのであった。
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