第89話 無意味の意味
チャラいキャラというのは難しいですね。その反面、使いやすさも実感しています。
―――翌日 MoRS地方分局 現世 大規模解析室
MoRSが北海道に持つ拠点である現世に大佐はいた。
AI群を含むビッグデータを解析するためには、雪乃とエイレーネの助けが必要だ。
しかし、それをもってしても末端の端末性能は一定の基準をみたさなければならない。
それを唯一国内で満たしているのがMoRS地方分局の現世であり、その中ではすでに解析員が分析を行っている。
「にしてもこれどう考えてもミヤビAIが原因ですよね。」
「いやまあそうなんだが、それを抜きにしてもすごいぞ」
発売から数日たったが、以前アドバンスドウォーⅡは高い人気を博していた。
大手動画配信サービスでは、ユーザーがアド戦Ⅱの動画を好んでいると直々に明言するほどに日本国内で人気が爆発している。
ここまで人気が出た要因として、特にプレイヤーにストーリーが依存するということがSNSなどを通じて拡散されたことにある。
新しい発見がプレイヤーの数だけ存在するからだろう。
そう仮定して解析の様子を見守る大佐だった。
総進行度のゲージがゆっくりと進み、秒針を数えるのにも飽き始めたころ。
「これか・・・」
ある解析員が何かを見つけた様子だった。
「大佐。おそらく根幹となる部分を発見しました。」
「そうか...よくやった。だが私の予測では、そのシステムは変えられない。」
「なぜそれを...」
「簡単な話だ。ミヤビAIの補強が原因なんだろう。」
「はい。INVERT-COREというシステムコアを発見しましたが、これはミヤビAIを使用しています。ただし改変版であり、それは何ら悪意のある代物ではありません。」
「だろうな」
大佐はおおよそアド戦が悪意の産物ではないと予測していた。
ただ、その予測の先が問題だ。
「では、今後はどのように?」
「完全な解析をしてくれ、水面下で諜報部が動いている。」
「分かりました。」
―――同時刻 諜報部 安西小虎と雪乃
大佐にアド戦制作会社について調べるように指示された安西は雪乃とともに情報収集を行っていた。
「雪乃さんってどうして大佐が好きなんスカ?」
チャラい口調で安西が切り出した。
「っ!!」
雪乃はうろたえる。
「どうかんがえても雪乃さんのポジションは好きじゃないとできないでしょ」
「そうですね。好きですよ。異性としても」
「やっぱりね。」
「安西さんこそ、どうしてそのようなことが気になるのですか?」
「まあ、単純な興味っていうのもあながち嘘じゃないっすけど...」
若干どもる安西
「正直、怖いんすよね。」
「というと?」
「俺って、結構何でもできるんすけど、何にもなれないっていうか。大佐に誘われた時も何か自分がなれるものが見つかるかなとおもったんすけどね。」
「...正直まだ何をおっしゃりたいのか分かりませんが、私にとっては可愛いお方ですよ。」
「そりゃ...まあそうかもしれないっすね。ただ、大佐って何もかもを見透かしてくるというか、俺の能力で見れない世界で唯一の人間なんすよね。」
「ああ、そういう事ですか。安西さんの能力で見れないではないですよ。見てもわからないというのがおそらく正解でしょう。」
雪乃は役割上すべての人員のほぼすべての情報を把握している。
感情昇華を経てから、その優劣についての評価に著しい変化があったが、中でも印象的な数名について、人間で言う印象的という評価をもっていた。
そして安西は印象的な人物の一部だ。
諜報部設立のきっかけとなった人物であり、他者の思考をトレースできる能力を持っている。
異能力というわけではなく、他者の顔色を見ながら生きてきたことでその能力が極端にまで成長したものだ。
そういったものを総括して大佐はこう表現した。
曰く
「空っぽの容器に安西というタグが付いたもの」
と表現していた。
それだけ聞くと結構失礼な評価ではあるものの、おおよそ的を射ていると雪乃もわかっていた。
「どういうことっすか?」
「そうですね...大佐は人間の次元を超越しているからでしょうか」
「ますますわからないっすよ」
「では説明します。」
大佐と安西
他者の思考を人より読めることだけを見れば、どちらもその能力を有している。
ただ、大佐はサイコロジカル的、いわゆる論理と倫理によって予測している。
安西は直感的にそれを感じ取っている。
結果は違えどアプローチが違うのだ。
大佐のサイコロジカル的な思考はその類まれなる頭脳から来ており、予測域がとてつもなく広い。
それに、安西と比べて知識の差が圧倒的だ。
発達障害の診断としてウェクスラー式発達検査を用いるが、その項目にワーキングメモリという項目がある。
ワーキングメモリは脳のテーブルと言われている。
考え事をするときに、その物事について必要な情報をちょっと置いておくスペースと言えば分かるだろうか
テーブルの広さが圧倒的に大きい大佐のテーブルには考え事と関連する必要な道具が数えきれないほど乗っている。
それを安西が直感的にトレースしたとすれば
”置ききれない”
という事象が起こるのだ。
断片的な情報しか残っておらず、その情報では先読みができないというのが安西が陥った状況だろう。
「なるほど。だったらなおさら怖いっすね。」
「感じ方は人それぞれですが、私からは”かわいい人”だと言っておきますね。」
「まあ、いいんすけど。っとここっすね。」
「はい。やることはわかってますね?」
「もちろんっす」
2人は目的地についた。
そこは界面機構という会社だった。
次回は明日更新。つづきを追いやすくするため、**ブックマーク(しおり)**で目印していただけると助かります。
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