第88話 表裏の境界
私事ではありますが、本日誕生日を迎えました。ここ数年で、物事への視点が大きく変わったと感じています。
変わったからこそ見える景色のさらに先、近い将来起こりえる異変をこの作品では描いていきたいと考えています。
さて、今回は新たな仲間がMoRSに加わります。それは、人類に利を与えるものか、それとも反旗を掲げるものなのか...ご期待ください。
―――2026年5月3日 MoRS本部 幽世 指令セクター
安定した日々が続き、落ち着いた雰囲気の指令セクターでは、日々の諸業務をこなす職員だけが残っていた。
もはや鳥のさえずりが聞こえるほどには余裕がある珍しい状態であったためか、構成員は雑談を行っている。
「アド戦すごいですよね。」
「だね。ミヤビAIの使い方がうまい。」
アド戦はMoRS内でも非常に好評だった。
司令官席に座って何か作業をしている大佐に雪乃が話しかける。
「大佐。お話が...」
雪乃にしては珍しく、妙な前振りだった。
「ん?どうした?」
「しずめの様子に異変が」
「どういうことだ?」
「しずめがゲームに没頭しています。というよりゲームでの動作が現実に反映されているというのでしょうか?」
「...単に趣味になっただけでは?」
大佐は考えた。
しずめの年齢であれば、ゲームなどの何かしらの趣味で生活が乱れてもおかしくないと。
「というより、何か答えを探している様子です。」
「その原因がゲームにあると。」
「はい。」
しずめの性質上、異変を感じ取って探求することは珍しくないが、ゲームというのが腑に落ちなかった。
「あ、それってアド戦じゃないっすかね。」
突然会話に表れたのは、特殊構成員の安西だった。
「安西さん。もう少し丁寧に会話に入って頂ければ...」
「ごめんなさいっす。俺はこういう人間なんで。」
「それで?雪乃。しずめはアド戦をやっているのか?」
「はい。どうやらその様です。」
「なら不思議じゃないっすね。しずめちゃんの性質上っていうんすか?あの子、妙に異変感知能力高いんすよね。」
「安西、要はどういう事だ?」
「すんません。そうっすよね。それは大佐もしってますよね。」
「ああ、俺もアド戦は知っているし、危険性も見えてる。だから今プレイしているんだ。」
「大佐...何か真剣にしていると思ったらゲームしてたんですか?」
雪乃は少し不満げだ。
「いやまあそうかなとはおもったんすけど。あのゲーム、鏡面世界っていうパラレルワールドがあってそれが大きなベースなんですけど、あれが乖離の再結合みたいな?現実との認識をあやふやにしてるっぽいんですよね。」
「やはり、そうなんだな。」
「そっすね。これはあくまでも推測ですよ。でもおそらく制作側にその認識がないんじゃないかなと。」
「となると偶発的か。」
「ただ意図的であることも否定できません。安西さんの仰る通りだとしてもです。」
「さっすが雪乃さんっすね。もうすこし調べてみないとっすけど、おそらく異変的な何かがおきるっすよ。」
「ああ、偶発か意図的かどちらにせよ間違いなく何か起こるだろうな。」
三人の中で、おおよその予測はついていた。
だがその中でも、先がある程度見通せていたのは大佐だけだった。
「大佐、どうしますか?」
雪乃が心配そうに求める。
暫く考えたのち、大佐は答えた。
「ひとまずは静観だ。ただ警戒だけは怠らないように。」
「「了解」」
「それと安西、開発元についてと調査してくれ」
「やっぱそうなりますよね、了解っす。」
再び暗雲が立ち込める。
しかし、MoRSはしずめという眼とエイレーネとイコノスクラムという頭脳を得た。
その結果、早期に発見する手段が確立されようとしていた。
次回は明日更新。つづきを追いやすくするため、**ブックマーク(しおり)**で目印していただけると助かります。
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