第84話 暗躍の余波
さて、いよいよ第5章のクライマックスです。章のまとめ回となっています。
―――2026年 4月20日
アリシアの熱弁と雪乃の説得によって、社会とエイレーネが救われてしばらく
日本の法律にAI新法なるものが制定された。
内容は概ねアリシアの配信で出た結論そのままであるが明らかにAIに依存した社会から脱却し、共存と呼べる状態にまで落ち着いていた。
アリシアは倫理の探究者として、ネット上で大きな人気を博している。
「大佐。アリシアさんの件このままでよいのですか?」
雪乃は今日も大佐の隣にいる。
「ああ、確かにあれは今世紀最大のマッチポンプであり、私の考えだった。だが、アリシアにはもともとその器はあったんだ。」
「なるほど。大佐がそうおっしゃるのであれば良いのですが」
「何か心配でも?」
「はい。このままではアリシアさんが人気過ぎてオープンエージェントとしては使いづらくなってしまうかと。」
「ああ...その件か...それは数か月後に答え合わせをしないといけないな。」
「それはどういう...」
意味深なセリフに困惑する雪乃だった。
「私としても予想外の結果だった。だがこれはいい余波だ。心配しなくても良い」
「はい。」
「ところで余波と言えば。エイレーネはどうしている?」
「今はゆっくり休んでいます。」
このころ、エイレーネはミヤビAI関連から隔離され、YUKINO-AIから得たデータを元に、新たに構築されたAIのインストール処理を行っていた。
「そうか...結果として、もう一台、姉妹を作ることになってしまったが結果としてエイレーネと雪乃の負担が減るのは良い結果だと言えるだろうな」
「はい。それと...名前はどうなさるおつもりでしょうか?」
もう一台というのはミヤビAIの大本となる世界で三番目の完全AIである。
現在は以前のエイレーネをコピーして新たにもう一基の月軌道上衛星を建造しただけの急造品であるが、いずれは三番目として名づけする必要はあるだろう。
「その話をふるということは、何か考えているのか?」
「はい。エイレーネの妹で、人類が極端にAIに依存しないためのAIでもある彼女は”イコノスクラム”というのはどうでしょうか?」
「なるほど。既存のAIという概念を破壊したミヤビAIをつかさどる頭脳だということ、エイレーネが悩まされ最終的には拒絶したもの...なるほどいい名前だな。」
「はい。ありがとうございます。」
そうして、三番目のAIはイコノスクラムと名付けられた。
雪乃はオリジナルであるが故に独自路線のネーミングだが、歴史上においてエイレーネとイコノスクラムという関係は切って離せない。
そういう意味でも末のイコノスクラムと中のエイレーネは一心同体と言えるだろう。
「そういえば雪乃」
「はい。」
「敵は、月にたどり着いていたか?」
「いいえ。まだそこまでは至っていないようです。」
「なら、もう少しは技術的優位を保てそうだな。」
「はい。ですがいずれは...」
敵は徐々にMoRSを苦しめる。
今回はJという存在は露見せず、ただひたすらにミヤビAIを利用された。
そこまで成長しているのであれば、いずれはMoRSの内側までたどり着くだろう。
だが、それでもMoRSは調律者として戦い続けるだろう。
第5章最終話です。次回からは第6章に入ります。
第5章では、エイレーネの精神構造体や、3番目のAIが登場するなど、今後活躍するものがたくさん登場しています。
第6章では、また新たにMoRS構成員が登場しますが、そろそろ既出をまとめないといけないなと感じています。
次回は明日更新。つづきを追いやすくするため、**ブックマーク(しおり)**で目印していただけると助かります。
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