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天上のダイアグラム  作者: R section
第5章 共感の贄

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第81話 対話する技術

アリシアが再登場する今回。発言力のある人物が如何に立ち回るのか...見どころです。

―――2026年4月1日


新生活に世界が活気づく中、社会にはすでにミヤビAIが定着していた。


とある企業は、ベテラン社員の複製を使用して新入社員教育を行っている。


はたまた、別の企業ではメンタルケアをミヤビAIで行っている。


特にネット上では、もはや人類がどの程度いるのかすらあやふやになっているが社会はそれを受け入れている。


この日、ネット上では人類守護戦線という人類至上主義の一団がデモを行う予定であり、現実世界でも主要な施設に警察が配備されるなど、様々な影響が出ている。


そして...


―――4月1日 7時00分 MoRS本部最下層 整備セクター 特別整備室


MoRS本部は担当の部署や人員によって開示される情報が異なるが、その中でも高度な技術の基幹部分に関しては戸籍すら抹消された存在しない人々がその整備に当たっている。


整備部の構成員はその優秀さから社会的に抹殺された人物や、自ら望んでMoRSの扉にたどり着いた者など、経歴は多種多様である。


しかし、経歴が原因で身分を消さざるを得ないからそうなったのではなく、整備セクターで取りあつかう技術があまりにも高度であり、世界に漏らすことがそのまま人類の終焉につながりかねないからだ。


そして、整備セクターの中でもさらに最下層


イデアと呼ばれる区画に大佐は居た。


「大佐。準備ができました。」


そう述べるのはイデアの管理主任であるマルクだった。


「ありがとう。始めるか?」


そういいながら大佐は椅子に向かう。


イデアは円形状の空間であり、その中央には椅子とその周囲には様々な機械が設置されている。


その椅子に座っているのは雪乃だった。


「はい。エイレーネはお任せを。」


雪乃は覚悟が決まった様子だった。


大佐が目線でマルクに合図を送ると椅子とその周辺の機械が轟く。


ファンがとてつもない音を立てながら稼働し、徐々に室温が上がる。


「何かあったらC-1で連絡を」


「了解しました。」


無事に稼働したことを確認した大佐はイデアを後にした。


―――同時刻 OAアリシア


世界的に有名なSNS、ツウィスターでは、人類守護戦線が抗議デモを行っている。


タイムラインは「AIを許すな」で塗りつぶされているが、その文言に耳を傾ける人は少なかった。


そのような状況もあって、オープンエージェントのアリシアはどのように世論を誘導するべきなのかと頭を抱えていた。


「大佐の仰るプランは完璧ですね。ただいつも文言は任せるとのことの事ですが...これが結構...」


ピロン


アリシアのPCに一通の通知が入る。


「大佐から...」


そのメッセージには、”キーワードは共存、NG行為は複製”と書かれていた。


「私が悩むところまで予測したのですね。でも助かりました。」


覚悟を決めたアリシアは配信ソフトを開く。


タイトルは”自分を守るために自分を陥れていませんか?”


配信開始ボタンを押して、on-lineのランプが点灯する。


「皆さん。元気でしょうか?魔女アリシアの館へようこそ。」


普段通りの挨拶を行う。


視聴者は開始直後だったが5万人に上っている。


「今日は、アリシアのお気持ちシリーズです。今、世の中ではAIで自分を作るというのが流行っているようですね。」


コメント欄では


「みやびちゃんのこと?」

「あ、俺も10個複製したよ~」


殆どの視聴者がすでに使っているとコメントが届く。


「でも、一度考えてみてください。もしも、AIで複製した自分が自分より優秀になってしまったら?」


コメント欄は騒然としている。


なぜ、有名配信者のアリシアが、AIについて意見を述べたのか


そして、自分の複製が自分より秀でるわけがないと視聴者は楽観視している。


「もちろん。仕事を任せたり、学習をしてくれたり便利ですよね。中には大学の講義を代理で出席させたりしている人もいるとか。体はなくてもネット上やデジタルの世界では見分けがつきませんからね。」


「便利だよ~」

「俺この前AIにパチンコさせた。」

「昼休みにも仕事が進んで便利だ。」


ただ事実を並べたアリシアに対して、これほどまでに密度の高いコメントが来るということは、世論が肯定側に大きく傾いている証拠だった。


「じゃあ、アインシュタインの完全な複製を作れてしまったら?それは人類の殆どがその複製に劣ってしまう。アインシュタインではなくても、現存の天才の複製が量産されてしまったら、それ以下の知的能力の人類はどうなってしまうのか」


一瞬、コメント欄が静かになる。


誰もが見て見ぬふりをしていた。


それに気づいていない人も多くいた。


只、アリシアの配信を見ている人は気づいてしまった。


「それに、AIに仕事をとられたり、AIに負けるだけならまだマシな方だと思います。最終的には、自分が死んでも代わりに自分の複製AIが人生の続きを行ってくれる社会が出来上がったら、私たちの魂の価値はどうなるのでしょうか?」


視聴者の殆どがコメントを止め、静かにアリシアの話に耳を傾ける。


「これはあくまでも可能性です。そうなるかもしれないし、そうならないかもしれない。ただ、私たちは去年の同じころ、AIという概念がSF世界の物だと思って生きていました。突如として現れたミヤビAIによって、便利になり過ぎた社会に依存しているのではないでしょうか。」


「たしかに...」

「ちょっと怖い」

「でも今楽だしねぇ」

「インフレとか物価高とかで苦しんでいる時期の方が嫌だ」


コメント欄にはついにアリシアに共感するものが現れる。


その時、ひときわ鋭いコメントをRというユーザーが行った。


「ならばAIを排除するべきなのか?」


アリシアの表情は変わらない。


ただ述べるべき考えを伝える覚悟はすでに出来ていた。


「AIとは共存すべきです。そして、その共存のために法律を作ることが必要でしょう。」


アリシアはそう答えた。


次回は明日更新。つづきを追いやすくするため、**ブックマーク(しおり)**で目印していただけると助かります。


また、作品のご感想やご意見もお待ちしております。厳しいご意見でも構いません。

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