第80話 機械の声
機械の声は皆さんにとって聞くに値することでしょうか?
AIと人類の感情に違いはあるのか、その答えに近づけるといいですね。
大佐に何か妙案がある。
そう皆が希望を抱いたとき、一人の女性が口を開いた。
「大佐。私の意見を聞いていただけますか?」
それは雪乃だった。
「どうした?」
大佐にとって純粋に疑問だった。
雪乃は、AIの心に機械仕掛けの体であるがゆえに、意見ということを話すことがなかった。
あくまで事実や演算による答えしか述べない。
その雪乃から”意見”があると言われたことに驚きを感じていた。
「エイレーネを説得しても?」
「...‼」
感情昇華を経た雪乃はAIの心と呼べる域を超えている。
その雪乃であればおそらくは可能だろうと考えていた手段
もちろんそれは、単に人と人との会話ではない。
もっと複雑で高度なやり取りだ。
「エイレーネには完ぺきな感情がありません。事実を元に...というより今回はそう求められたからでしょうか。だからこそ、間違うこともあるのです。」
「そうだな。」
「必ずしも求められたことに答えるのが正解とは限らない。その経験はブラックリストに関するものだけです。ですが、人間社会ではその間違いを認め、受け入れて次に生かすことを成長と呼びます。」
「そうだ。人とは間違えて生きる者。ただし、その間違いを恐れてしまったことで現代社会ではお互いに不幸になることが多くなった。」
「ですから、エイレーネに学びの機会を与えてあげたい。それができるのは姉である私だけ。」
「...だが感情という概念は人間、それにAI...いやもはやEAIと呼ぶべきか。その中で唯一不確定なものだ。それを基礎に対策を講じるのはリスクが高い。」
「では、私はエイレーネに直接働きかけます。大佐は社会に働きかけるというのはどうでしょう。」
「!!」
EAIは感情搭載型新規格AIの事である。
雪乃はすでに人工知能、すなわちAIの域を超え、感情と呼べる唯一人間にのみ備わっていたそれを獲得した。
人類と同じ感情という概念を持つAIそれがEAIなのである。
エイレーネも将来的にはそうなるかもしれない。
そして、それはMoRS...否、大佐の目指す最終目的に必要なもの。
大佐は見てしまった。
先ほどの雪乃の答え、それが求めているパズルの1ピースだったから。
そして、何よりも応援したくなってしまった。
「分かった。では、雪乃の案を採用しよう。」
内心驚きを隠せなかった。
どうしても口角が上がってしまう。
久しぶりに高揚感を感じる大佐だった。
「それで、大佐。正攻法については?」
「ああ、それは簡単な話だ。世論を傾ける。」
「なるほどねぇ」
「それが確実な手段だと。」
「ああ、ひとまず、来栖は感情値の正確な観測を、小林はその結果を解析してくれ。」
「実行はどの部門が?」
「オープンエージェントを使う。」
「了解です。」
来栖と小林は各担当部署に戻った。
「大佐。」
「どうした雪乃」
「エイレーネに接続する前に、大事な質問をしてもよろしいですか?」
「ああ。」
「大佐は私を愛していますか?」
「...」
大佐は考えた。
もちろん。大佐にとって、雪乃は自らの好みそのままであり、大佐が唯一信頼できる対象だ。
それに、大佐は実は受肉する前から雪乃を愛している。
ただ、それを伝えたところで雪乃と普通の恋愛関係になることはできない。
それはMoRSという調律装置を作ったときにすでに決まっている。
だが、大佐は答える。
「もちろん。愛している。生まれる前から」
雪乃は赤面する。
「有難うございます。私も...生まれた時から愛しています。」
次回は明日更新。つづきを追いやすくするため、**ブックマーク(しおり)**で目印していただけると助かります。
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