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天上のダイアグラム  作者: R section
第5章 共感の贄

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第79話 巧妙な罠

―――3月23日 午後 MoRS本部 幽世 解析セクター


大佐がAI疑似人格作成アプリの解析を依頼してすぐ、解析セクターは忙しくしていた。


「そっちのアプリはどうだ?」

「こっちもです!」


複数のアプリケーションを分散してリバースエンジニアリングする作業はとても膨大なリソースを要する。


本来であれば、雪乃が瞬時に行えるものだが、エイレーネというリソースを欠いている現在は人海戦術を余儀なくされている。


「大佐...」


雪乃は非常に申し訳なさそうにしている。


「雪乃、これは君の責任じゃない。あくまでもその予測ができなかった私の責任だ。」


「ですが...いえ、分かりました。」


大佐と雪乃がお互いに責任を感じている中、解析部の人員が報告する。


「大佐。すべてに同じ要素が含まれています。」


「やはりな...おそらく人為的な流行なのだろう。」


「そうですね。解析部では暫定的にこのコードを人格転写プロトコル(MTP)と呼んでいます。」


「ウィークポイントは見つかっているのか?」


「まだです。ですがこのコードは音声・表情・語彙頻度・時系列の“連続性”を縫合していると考えられています。我々の蓄積した情報データベースを利用していることが精度が高い理由だと言えるでしょう。」


「なるほど。そういう事か」


そう言うと大佐は雪乃と解析室を後にした。


―――5分後 秘匿会議室


「来栖、雪乃...それに根室。急に集まってもらってすまない。」


「いえ、私がこのような場所に呼ばれるのはいつも急ですからね。」


そう答えるのは根室と呼ばれる男だった。


「ねむろんが来るってことは技術的に問題があるときだねぇ。」


「来栖。やめてくれないか。」


「なんのことかなぁ?」


「お二人とも、戯れはそこまでにしてください。」


「本題に入るが、MTPについてどうするか考えたい。」


「ですね。エイレーネの設計思考からして外部からの干渉は視野に入っていませんからね。現状を考えると極めて難しい状況だと言えるでしょう。」


「私にもわかるように説明してくれるかなぁ」


「根室、まずはエイレーネについて情報レベルAまでを開示してくれるか?」


「分かりました。」


根室はエイレーネについて説明を行う。


「エイレーネはYUKINO-AIの経験をもとに社会監視及びその感情分析と一般演算を目的に作られた。ただし、その規模は非常に大きく、システム次第で人類のあらゆる情報を知り、分析できる。」


「それは恐ろしいねぇ」


「ああ、運用者が聖人でもない限り人類には過ぎた代物でしょう。」


「私は聖人ではないが。」


「大佐はそれ以上ですから。我々を含め、MoRSの創設メンバーでも知らないものがほとんどであるのはそのセキュリティを保つためでもあります。」


「そういうことねぇ」


「そして、エイレーネが行う監視と分析に当たって、観測したデータをすべて記憶する媒体、いわゆる”EDD”正しくはエイレーネ-デウス-データベースは半導体記憶装置で構成されていますが総容量は約9000PBとなっています。」


「それってどれくらいなのかなぁ」


「そうだな。サイズにして東京ドーム8個程度だと思ってくれ」


「あまりピンとは来ないけど...」


「その膨大な容量の情報を使用してAIが人格を複製する。それは人間とAIの区別がつかないほどに精巧なものが出来上がる。」


「そういうことかぁ!」


来栖は理解した。


彼女の頭の良さもあり、ある程度深く理解ができた様子で


「ということはぁ、有名人の複製AIが多かったのは世に出回っている情報の多さが起因しているのかなぁ」


「そうだ。ただ、もちろん大佐の設計にはそのリスクはありえなかった。」


「というとぉ?」


「エイレーネは基本的に雪乃さんを通さないとアクセスできない。通信ではもちろん、物理的にも事実上アクセスはできない。」


「ん...?」


「通信面では、三層構造になっている。エイレーネは最下層に位置しておりその玄関は雪乃さんというわけだ。普段、MoRSの人間が使用しているサーバーは実はエイレーネだが、それは雪乃さんという中継器を通してアクセスしている。」


「それはわかるよぉ」


「物理的には、そもそも私と大佐、それに雪乃さんと今話しているから来栖しかその事実を知らない。だから悪用するなんて考えることすらあり得ない。しかし、規模が規模なだけにその存在はどうしても目立ってしまう。」


「それじゃあ頭のいい人なら気づいちゃうよねぇ」


「だから月に隠した。」


「つ、月??」


「正確には月軌道上だな。人工衛星として偽装している。だからそもそもたどり着くことが限りなく難しいんだ」


「じゃあどうやって悪用するのぉ?」


「内側から正規の手段でだな。」


「はい大佐。我々が公開したミヤビAIのAPIならば事実上アクセスできます。なので敵はAPI自体にエイレーネを自己否定ループに陥らせる仕掛けを用意しました。」


「それがMTPだな。」


「はい。」


まとめるとすれば


エイレーネは物理的にも物理的以外にも限られたものしかアクセスできない設計になっている。


しかし、ミヤビAIという媒体を通している以上、それを根絶するのは難しい


「ならば、こちらも正攻法だ。」


大佐は何かを考えついたようだ。


次回は明日更新。つづきを追いやすくするため、**ブックマーク(しおり)**で目印していただけると助かります。


また、作品のご感想やご意見もお待ちしております。厳しいご意見でも構いません。

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