第78話 紛れ込む異端
―――2026年 3月23日 都内某所
人々が出会いと別れに向けて準備する年度末
雪乃はエイレーネから切り離された状態で、大佐と観測任務を行っていた。
「やはり、心理係数に極端な乱れがあります。」
「そうだな。皆疑心暗鬼になっている。」
AIによるフェイク動画が相次いですぐ、フェイク動画を簡単に制作できるアプリケーションが大量に出回った。
その結果、社会では人と人とのかかわりが冷たくなっていた。
「お父さん。あれを。」
「ん?」
今回、雪乃と大佐は夫婦というカバーストーリーで観測任務を行っている。
「一見して、動画を撮影しているように見えますがあれもフェイク素材の撮影です。」
「どうやって分かったんだ」
「SNS経由でバックドアを設置し、今まさに画面を見ています。」
「雪乃...それ犯罪だよね」
「いまさら何をおっしゃいますか」
MoRSは事実上、法に縛られない。
ばれないと自負しているだけで、ばれれば普通につかまってしまう。
「まあ、必要最低限にしておけ...」
「もちろん。心得ています。」
「本題にもどるが、だれもがフェイク動画を制作して他人を陥れることができるという状態だな。」
「はい。これにエイレーネが利用されていると考えると少し怒りを覚えます。」
「そうだな。これは銃を誰もが携帯しているよりもさらにたちが悪い。」
とある国では、地域によって銃器の携帯ができる。
ただし、その結果として銃器を使用した殺傷事件が多発している。
いくら自己防衛のためにとはいえ、使い方を間違えればそれはただの暴力装置に過ぎない。
「その通りです。学生が授業をさぼるためにフェイクアバターで出席するだけならまだしも、現実での報復のために使ってしまっては武器と大差ありません。」
「ただ今回は、エイレーネとフェイクだけではない気がする。」
「おそらく、大佐が感じているのは気づかない脅威ではないでしょうか。」
「分かるのか?本物と偽物が」
「AI技術ですので、裏で動いているプログラムが見える私には見えます。」
雪乃はすべての電子機器の動作状況を瞬時に読み取る機能がある。
不穏な動作を見逃さないための技術だが、今回はAIフェイクと現実の区別をつけることができる。
「大佐のお考えの通り、この場所でAIによるフェイクに人間が気づけていない割合は約40パーセントです。」
「40...そこまで拡大しているのか」
「はい。あの男性の通話相手もAIです。」
雪乃はすっと指で示す。
その先には、女性と通話をしていると思われる男性がいた。
「加えて、あの女性は今彼氏とのデートを捏造しています。」
再び雪乃は指をさす
「驚いた。これほどまでに見えていないものなのだな。」
「ミヤビAIを使用しているとはいえ、明らかに異常な精度です。私が切り離されてから何かが狂ったのでしょうか」
「あまり断言はできないが、これもおそらく敵の仕業だろうな。」
「やはり、そう考えますか」
「一度公開されているAIアプリを解析しよう。解析部に依頼してくれ」
「はい。お父さん」
事態はより一層複雑さを増している。
だが、世の中が確実に侵食されている以上、MoRSは全力でその襟を正さなければならない。
次回は明日更新。つづきを追いやすくするため、**ブックマーク(しおり)**で目印していただけると助かります。
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